獣の巨人ことジーク戦士長の遠投攻撃の前に、万策尽きたエルヴィンとリヴァイ、新兵たち。
せめて一矢を報いるために彼らが採った策は「囮特攻」であった。
人類最強の戦力リヴァイに全ての望みを託し、兵士たちは雄叫びを上げ進軍する・・・。
進撃の巨人 第81話 約束
別冊少年マガジン2016年6月号(5月9日発売)掲載
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壊滅
信煙弾を打ち上げ煙幕を張りながら騎馬での突撃を仕掛けたエルヴィンでしたが、まさかの1ページ目で岩の散弾を脇腹に浴びて落馬。生死は不明ですが、脇腹が破れただけならまだ生きている可能性はあります。
「進撃の巨人」の作風を考えると、絶命するとしたら頭が吹き飛んだり丸かじりされたり、一目で「死んだ」と分かるように描写されるでしょうから、まあ生きてると見てよいでしょう。
筆者がしつこく提唱しているエルヴィン巨人化説が真実味を帯びてきたんじゃないでしょうか!?
団長を失ってもなお振り返らず突進を続ける部隊を見て、ジークは一人で怒りに震えながらブツブツ言っています。目が怖い!
「レイス王によって『世界の記憶』を奪われたのは悲劇だ」
「だから何度でも過ちを繰り返す」
「しまいには壁の中の奴ら全員年寄りから子供まで特攻させるんだろうな」
ジークは世界の歴史を知っており、壁や巨人の成り立ちについて理解しているようです。
彼の解釈によれば、人類は何かしらの「過ち」を犯した。
それは死を美化し大勢の命を無益に奪うような、愚かな惨事だった。
といったニュアンスが断片的にですがうかがえます。
また、無策特攻という挙に出たエルヴィンたちに対し、ジークが強く憤っている様子が見えました。
思わず持っていた岩を握りつぶし、サラサラの砂にしてしまうほどの怒り。
このことからジークも単なる快楽殺人者ではなく、何かしらの誇りや信念を持って事に臨んでいる人物であることが分かります。
この戦争をまるでゲームのように茶化す発言は、自分自身へのエクスキューズとして演じているのでしょう。
ジークが思わず感情的になった己を諌めて曰く、「お前は父親とは違うだろ?」
こいつもまた父親か。この言葉は何を意味するのでしょうか?
彼は、自分は父親とは違って冷静な判断をしていると思いたい。
つまりジークの父親は感情的になって何かの失敗をした。
父の失敗のイメージと、無策特攻に出た兵士たちの姿が重なったので頭に血が上ってしまった。
ではジークはいったい何のために、誰のために怒っているのか?
目の前の人間たちが憎いから怒って殺しているわけではないでしょう。
彼が矛先を向けているのは「何度も繰り返される過ち」そのものであり、目先の生殺与奪は些事と捉えています。
これはライナーやベルトルトらにも共通する観念であり、歴史の真実を知っている者はおそらくそういう考えに至るのでしょうね。
レイス王にせよ、その記憶を引き継いだ王家の子孫にせよ、これまで真実の歴史を知った者はそれを決して公表しませんでした。
隠すことが人類のためだと判断し、それを孤独に抱えたまま次の世代へ継承して行ったのです。
「こんな歴史を表に出してはいけない」と思わせるような事実とは一体なんでしょうか。
知ればきっと絶望しか残らないもの・・・。
我々が生きる現代社会の常識で考えるならば、例えば【定められた余命】がそれに当たるでしょう。
今から1年後に自分が確実に確実に死ぬとわかっていたら、まともな精神状態で平常通りの暮らしを保てるでしょうか?
冷静に命の期限を受け入れ、前向きに残された時間を楽しく過ごせるでしょうか?
人は「自分は今日や明日には死なないだろう」と思っているから安心して眠れるのです。
人類滅亡の黄昏が予言されておりそれを回避できない場合、黙っていようと考えるかもしれません。
他には・・・【アイディンティティが崩壊するような事実】だとどうでしょう。
ある漫画作品では人類の脳が演算チップに置き換えられていることを行政側が隠しており、それを知った人たちがチェンソーで開頭して自分の頭蓋の中を確かめ、チップを見て発狂ないし自殺するという、大変ショッキングなシチュエーションがありました。
実は作中世界はプログラムで構成されたデジタルデータのシミュレータであるとか、壁の外で戦争してる文明国家が生体兵器の実験場として築き上げたが用済みになったので核を撃ちこんで消滅させようとしているとか、大掛かりな舞台装置は色々考えられます。
まあアレコレ考えても結局肝心なところはうまくボカされており、妄想の域を出ませんので程々に。
この仕掛けの正体を考えている今のうちがおそらく最も楽しい時間なのだと思います。
早く答えが知りたいような、知ってしまいたくないような・・・。
恋愛で最も楽しいのは、告白する前なのです。
さてそんなこんなのうちに、マルロも散弾で頭を割られて死亡。
「頭が固く理想主義・教条主義に凝り固まったお坊ちゃんが、清濁併せ飲む度量を持ったリーダーへ成長していく」という少年漫画らしい成長過程を描いていた彼だけに、ここであっさり退場するのは残念です。
「力なき理想は寝言にすぎない」「どんなに努力しても理不尽な暴力に踏みにじられたら終わり」というメッセージを身を持って発したマルロ。
この報われないにも程がある死に様を見て、筆者の心中では「なんか大掛かりな舞台装置でリセットされちゃうんじゃないの~?」という疑惑が深まることとなりました。
特攻を仕掛けた兵士たちは文字通り全滅し、動くものは見当たりません。
「あ~あ、かわいそうに…」
肉塊と化した兵士たちを見やりながらそう呟くジーク。
直接手を下したのはジークですが、彼らを殺害せしめたのは「過ち」のせいだと言わんばかりの他人事っぷりです。
その刹那でした。
正面の騎馬軍団に夢中になっていたジークが気づいた時には、煙幕に紛れる形で取り巻きの巨人たちがみな倒れており、リヴァイがその刃の射程にジークを捉えていたのです。
命を投げ捨てて兵士たちが撃ち尽くし、ジークの目には無駄な抵抗としか映らなかった信煙弾の目隠しは、見事にその役目を果たしたのでした。
ジークが高速で接近する影を認めた時には、すでに左腕が剛毛の上から細切れとなっており、返す刀で両目を潰され、暗闇のうちに両足首を断たれていました。
鎧袖一触、どうと地響きをたてて倒れこむ獣の巨人。うなじを硬質化で守ろうとするものの、リヴァイの方がわずかに疾く…。
獣の巨人のうなじから引きずり出されたジーク。
エレンの巨人化能力実験により、リヴァイは彼ら巨人の欠点を把握していました。
曰く、本体(人間)部分の損傷が大きく回復に努めている間は再度の巨人化ができない。
つまり、本体を捕らえて四肢切断など肉体的に大きなダメージを与え続けていれば、巨人化能力を無効化し単なるヒトとして拘束することが可能になるというわけ。漫画「亜人」を思い起こさせる、ショッキングな対不死者戦術ですね。
今やジークは完全にリヴァイの手中にあり、いつでもその首を切断できる状態にはありますが、リヴァイはそれをしません。
リヴァイの狙いは、味方に薬を使って巨人化させ、ジークを食わせてその力を手に入れること。またそれにより恐らくは瀕死であろうエルヴィンを救うことです。
ほら来た!筆者が前々回に言った通りの展開!どやあ~!やっちゃえエルヴィンゲリオン!
しかし、その欲目が命取り。
ジークの腹心(?)四つん這いの荷物運搬巨人が猛然と襲いかかり、ジークをその口に咥えて全力で逃走。
馬もおらず、立体物もない平地ではリヴァイがそれに追いすがる手段はありません。
あの時殺しておけば・・・。
この選択をリヴァイは後悔することになるのでしょうか。
四つん這い巨人はリヴァイがジークに接近した方角の逆へ走ります。
そちらにはまだ雑魚巨人が立ち並んでおり、ジークの発した号令によってリヴァイの足止めにかかりました。
残された予備のブレードは一組。
最後の刃へ換装し、鬼の形相で立体機動装置を駆るリヴァイ・・・。
もう一度その剣はジークに届くか?
巨人たちへ挑みかかるリヴァイが豆粒ほどに見える距離で、一人の兵士が立ち上がり、生き残りを探してフラフラと歩き始めます。
彼がエルヴィンを見つけてリヴァイの元へ送り届けることになるのか!?
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アルミン
場面転換、シガンシナ区の壁内では。
雷槍による攻撃で昏倒していたライナーが無事復帰し、超大型と鎧の二枚看板が104期へ迫ります。
エレンは超大型キックでドラゴンボールのワンシーンと見まごう程にぶっ飛ばされ壁に激突しスヤスヤ夢の中。
現有戦力ではかなり分の悪い相手と言えます。
まあミカサなら一人で全部なんとかしてくれそうな気がしないでもないのですが・・・。
ジャンはすでに損切りモードで、エレンだけは何とか逃がそうという姿勢。
と、ここでパニクって撤退したがっていたアルミンの目に光が。
アルミンの観察眼によると、超大型はさっきまでより少し痩せているらしい。
「えーやだー久しぶりー!あれ、ベルトル子ちゃん、ちょっと痩せた?」
・・・などという心にもないお世辞から入る女子トークかと思いきや、アルミンは本気も本気。
「気のせいじゃないの?」とか「こいつヤベえよ・・・」と誰も言わないのはそれだけ他に策がないからか、アルミンに絶対の信頼を置いているからか。
アルミン曰く!
超大型はケタ違いの質量を持っているがその分燃費も悪く、長期戦には不向きであるという仮説。
エレンの巨人化実験でも硬質化は続けて何度も使えず、数回でエネルギーが枯渇へ向かったそうです。
巨人化能力の練度や、特性と体格の差は考慮するとしても、ずっと戦い続けられるわけではない。
それが確信できた瞬間、アルミンの頭脳はフル回転を始めました。
ようやく火が入ったアルミンブレインが導いた策はひとつ。
アルミンがエレンを叩き起こし、二人のラブラブパワーでもって超大型を倒す!
他のメンバーはライナーを引きつける!以上!
二の句も継がず、いい顔でうなずく104期たち。
ミカサも文句を言わずエレンをアルミンに託します。これが正ヒロイン決定の瞬間か・・・。
いいのか?それでいいのか?と不安になる筆者をよそに、背中別れに駆け出す面々。
これが最後の別れにならないことを祈ります。
アルミンはかつてトロスト区でそうしたように、お休み中の巨人エレンのうなじへブレードを突き立てました。
「この作戦が上手く行けば…僕はもう…海を見には行けないな」
何かしらの覚悟を秘め、エレンへ起きろと呼びかけるアルミン。
彼の秘策とは一体?
つづく。