進撃の巨人 ネタバレ考察

(131)地鳴らし

海を渡り、ついにマーレへ到達した「地ならし」。
少しでも被害を抑えるべくエレン説得を目指すも、飛行艇の整備にまだ取り掛かることすらできないハンジたち一行。
足下で街が壊滅し、理不尽な災厄で日常を奪われる人々を眺めながら、この凶事の主であるエレンは何を思うのか──。

進撃の巨人 第131話 地鳴らし
別冊少年マガジン2020年9月号(8月7日発売)掲載

スリの少年

今回は回想中心で、メインストーリーの時系列は進みません。あの時エレンはこんなこと考えてたのね~というネタバラシ回です。

タイミングで言うと31巻、123話のあたりですから単行本をお持ちの方は読み直してみましょう。

エレンたち非公式の使節団一行は和平の可能性を探るためマーレでの国際討論会に出席しました。エレンは「ユミルの民保護団体」のが唱えた主張(=パラディ島以外のエルディア人に罪はない、憎むべきは島の悪魔である──)にさじを投げ、もはや聞く価値はないとばかりに早々に退席。これ以降、エレンは負傷兵を装ってマーレに潜伏しながらジークと接触をとり、兄の安楽死計画に手を貸すフリをしながら密かに始祖掌握・人類抹殺の絵を描き始めます。

正確には、すでに描かれた絵を見ながらその模倣を始めたと言えるでしょう。エレンが持つ「進撃の巨人」の固有能力は未来視。先の継承者の記憶を知ることができるという能力です。

この設定が説明されたのは少し前(121話)なのでおさらいですが、本来この能力で見ることができるのは「自分よりも後の継承者が、今の継承者の行動を変えるために見せたいと思った記憶」です。自分の将来を好きに予知できる能力ではなく受信オンリー。ところが、グリシャが次の継承者である大人エレンから送られてきた未来記憶を持ったまま少年エレンに食われたため、大人エレンの断片的な記憶を少年エレンがグリシャ経由で引き継ぐことになりました。

エレンはその記憶を忘れていたようですが王族であるヒストリアの手に触れた時に記憶が蘇り、エレンは自分自身がこの先起こすことを知ります。それが地ならしであり人類抹殺でした。

自分が異形の怪物となり、大型巨人を率いて世界を滅ぼす──。そうなった未来を知り、諦め半分で回避策を探るも、やはりそれを免れることはできそうにない。未来は確定した方向へ進み、刻限は迫ってくる。そうした状況で彼はマーレで現地民と接し、演説会の襲撃を企て、パラディへ戻ってイェーガー派を率いて旧友たちと訣別していたわけです。既に描かれた絵の通りに。

マーレ編に入ってから一貫してエレンは遠い目で口数が少なく、本心が見えずに不気味でしたが、いったい誰がこんなことを理解し寄り添えたというのでしょう。彼は壁の向こうの自由を夢見ただけなのに、それがいったいどれだけの罪だったというのでしょうか。

使節団が町を見てひとしきり驚いた後、アズマビトの屋敷でキヨミと今後のことを相談している時、エレンはひとり町を散策していました。そこでスリの少年をゴロツキから救い、異民族の難民キャンプへ送り届けます。

その間、エレンは自問していました。どうせこの子も家族も皆オレが理不尽に殺すのに、助けて正義漢気取りか? 皆殺しなんてカルラはどう思う? 死ぬべきは自分たちなのか? オレにライナーの行いを責める権利があるのか?…流れに押されるまま歩む自らを憐憫し、一方的に懺悔するエレン。

自分が世界を滅ぼしたいのはパラディを救うためだけじゃない。壁の外の現実が自分の夢見た世界と違っていたから幻滅した。壁の外に人類が生きていると知って落胆した。だから全てを消し去りたかったのだと、涙を流して少年へぶちまけ、ごめんなさいと謝り続けます。少年はわけが分からずキョトン。この直後、探しに来たミカサに嗅ぎつけられて同期たちと難民のテントでどんちゃん騒ぎをし、その翌日に国際会議場からエレンは姿を消します。123話の時点ではエレンがキャンプ前で泣いていた理由もセリフの意味もわかりませんでしたが、今回を読んでから読み返すと綺麗に補完されますね。

そしてここでエレンは聞くわけです。ミカサにとってオレは何なんだ?と。ミカサはひよって家族…としか言えず、エレンにガツンと衝撃を食らわすことはできませんでした。ノベルゲーならセーブしてエンディングCG回収後に戻ってくる場面ですが、この世界にリトライの機能はなさそうです。

これからお前らを皆殺しにするけどごめんな~、泣いて謝るからごめんな~、もともとは俺がそう願ったのが悪いっぽいんだけど、もう未来は変えられないんだわごめんな~、って控えめに言ってもガチクズ野郎だと思うんで、難民キャンプの前でミカサに全部打ち明けて、甘えんなボケェ!未来の自分のせいにすり替えてんじゃねえ!ってボッコボコにされて説教食らっておけば案外すんなり解決したのでは?などと考えてしまいますね。クヨクヨしてる時は溜め込むの良くないですよ。筋トレしましょう。

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現在

さてそれから2年ほど経った作中現在。スリの少年・ラムジーは懲りずに再犯して罰を受けたようで、右手首から先をなくしていました。123話では市場でサシャの財布を盗んで捕まった際、通りに吊るす、海に放り込む、右手をへし折るなどの提案が関係者から出されており、移民は法による裁きを受ける権利がなくリンチが認められていることが示されています。この時はリヴァイの温情で見逃してもらえたものの、その後またヘマして右手を切り落とされたようですね。こうしなければ難民キャンプで冬を越せないまま死ぬ者が多く出るから仕方ない、とラムジーは冷めた目で弟(?)のハリルに言います。

盗みをして溜め込んだ貯金の袋を木の根元に埋めて隠している時、ラムジーは街から走って逃げ去る人の集団に遭遇します。遠く港の方には空高く噴煙が立ち昇り、地面はビリビリと震え、明らかに様子がおかしい。急いで難民キャンプへ戻ると、そこはパニックに飲まれていました。上陸し押し寄せる巨人の群れ。着の身着のままで走って逃げようとする難民たち。津波から逃れるように高所を目指して駆ける人々をあざ笑うかのごとく、行く手を阻む別の巨人の群れ。

ラムジーが右手を失ってまで必死に溜め込んだ貯金の袋を道へ落とし、慌てて拾おうとしたハリル。その手を引いて必死に走るラムジーですが、巨人たちに追いつかれ建物の崩落に巻き込まれたハリルが頭などを強く打って死亡。それを間近に見たラムジーもまた絶叫しながら巨人に踏み潰され、あえなくアリの死骸さながらの姿に変じます。他の難民たちもなすすべなく地ならしに飲まれ、やがてその津波が通り過ぎて行ったあと、生きて動くものはひとつして見当たりませんでした。ただ茫漠とした大地に無数の足跡が刻まれ、砂埃が風に舞うのみです。

今際、ラムジーは砂塵の向こうにみすぼらしい格好の少女の幻を見ます。ありし日の始祖ユミルの姿です。その人影はおぼろで表情はうかがい知ることができません。この世界を終わらせるから力を貸せ、座標の砂漠でそう叫ぶエレンに助力した彼女は、2千年に及ぶ隷属の果て、何を思い解放の光景を眺めているのでしょうか。

始祖ユミルの胸中は知ることができないものの、エレンはまさに解放感を味わっている最中でした。これがオレの夢見た世界、遮るもののないフリーダムだ!と。かつてアルミンとともに政府ご禁制の書を眺め、壁の外へ夢を馳せた少年時代の姿で、エレンは空を仰ぎ笑っています。遥か足下では街が消滅し人が血溜まりへと沈んでいく中、キラキラと目を輝かせてやったぜアルミン、オレは成し遂げたぜと振り返ったエレンは、そこに「座標」で見た光の大樹と、現在のアルミンの姿を見ます。

なるほどそう来ましたか。ユミルの民は道で繋がっているのだから、なんとかして座標へ入ることができれば、物理的な距離や障害物を無視してエレンに接触できるわけです。今回はおそらくエレンが呼んだことでアルミンが意図せず引き寄せられたようで、アルミンも驚いている…というか呆然としてますし、すぐに実体の方へ意識が戻ってしまいました。しかしこれを意図的にアルミン側から再現できれば、地ならしの現在位置を特定せずとも説得を試みることができそうです。

・・・え? じゃあ飛行艇うんぬんは何だったんだよ!? ダズエルは何のために死んだの? とならないことを祈念しております。

 

船上のアルミン

アルミンの実体は輸送船の上です。港での銃撃戦の傷は癒え、甲板へ出たところで座標にいる少年エレンに呼ばれましたが、意識を持っていかれてぼーっとしている所にアニが声をかけ、こちら側へ意識が戻ります。ここにアニがいなければもっとエレンと話せたかもしれません。

アニはアルミンに隣に座るよう促し、唐突にイチャイチャし始めました。「何年も話しかけてくれてありがとう」だの、「他にもっと明るくて楽しい子がいたでしょ?」だの、なんですかねこの空気は!(ドンッ) ラブコメじゃねーんですよこの作品は! そういうのは同じ講談社でも「かのかり」とか「寄せてくる」とかでやれってんですよ! 別マガのテーマは「絶望」ですよ「絶望」! 絶望の意味分かってます?

などとひとしきり興奮して、フゥフゥ言いながら次のページを見たらですよ。言うに事欠いてアルミンは「会いたかったからだ…アニに…(赤面)」ドッギャアアアアアーーーン!! アニもアニで顔を伏せて「…何で?」「…わからない(赤面)」ズッギュウウウウーーン!! 諫山ァ!!!ちょっと来い!! お前に俺が絶望の意味を教えてやる!

とまあくだらない話は置いといて、ベルトルトの存在については考えておきたいところです。以前エレンが指摘したように、アルミンはベルトルトの記憶を継承したせいで人格にも影響があるはずですよね。アニが女型の現行犯で捕まるまで、アルミンがアニに異性として好意を抱いているような描写はありませんでした。絶対になかったかと言われると自信ありませんが、特にフィーチャーされてはいなかったと思います。が、超大型を継承してからは足繁く地下の保管室へ通い、その姿は恋する乙女のよう。

巨人の過去の記憶が世代を経て薄まるのかは何とも言えないところですが、2000年前の継承者の記憶よりも直近のベルトルトの記憶のほうが比率が大きく影響が強いと言われても別に違和感はないでしょう。大胆に解釈すればベルトルトの人格はアルミンの中で生きている。二重人格でもないし幽霊でもないが、アニに恋慕しアニと想いを通じさせたいという彼の願いそれ自体は、アルミンという器を借りて叶ったと言えなくもなくなくないかもしれない。記憶と同一性というのは考えれば考えるほどややこしいもので「狂人の真似とて大路を走らば即ち狂人なり」に倣えば、ベルトルトの考えや言動をトレースする人間はすなわちベルトルトであるとも言える…

などと僕がぼけーっとして言葉遊びに逃避している間に、アルミンとアニも頭が冷えて真顔になっていました。さすがにイチャコラしてる状況ではないことに気づいた模様。少々真面目に、かつて憎んだ仇敵であるアニと自分が既に同じ立場の人殺しであり、いい人どころかバケモノだと、濁った目で自嘲します。

羽を休めに来た海鳥を見やりながら彼はこう続けました。世界は僕らが夢見た姿とは違ったが、それでもまだ知らない次の壁の向こうがあると信じたい、と。

「アルミン…(トゥンク)」とアニが鼓動を高鳴らした描写は特にありませんが、なんかいい雰囲気で終わったんじゃないでしょうか。さっき記憶がどうちゃら同一性がどうちゃら小難しいこと言いましたけどね、普通に考えてベルトルトはアニと再会叶わず死んじゃってますから、アルミンとアニがくっついても別に関係ないですよ。別に付き合ってたわけでも告ったわけでもないんだし、ただの同期でしょ。物事はシンプルに考えるくせをつけたいですね。ベルトルトの影響がきっかけかもしれないけど、アルミンはアニのことが好き。アニもアルミンを憎からず思うておる。ハッピッピ! これでいい。

などと全部台無しにしたところで、次号へつづく。

 

エレンが結局「俺の思った世界と違ってて気に入らんから全部ぶっ壊してやりたかった」みたいな自己中を隠さない人ですごくホッとしました。パラディを守りたいって考えももちろん本音なんだろうけど、やっぱり彼の根幹にあるものは怒りなんですね。返す返すも、あいつが世界で一番やべえ奴と看破したライナーの慧眼には恐れ入ります。

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別冊少年マガジン(毎月9日発売)で連載中、
「進撃の巨人」のネタバレ感想ブログです。

ネタバレには配慮しませんので、ストーリーを楽しみたい方はご注意下さい。

※フラゲ速報ではありません。本誌発売日の夜に更新することが多いです。

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