進撃の巨人 ネタバレ考察

(130)人類の夜明け

多くの同胞同期を手に掛けながら血と涙にまみれ、港湾施設での激闘を制しイェーガー派を打ち破ったハンジたち。

港に残ったマガト元帥とシャーディス教官が追撃を妨げ、飛行艇を牽いた輸送船は対岸の臨海都市・オディハの整備基地を目指す。

皆が疲弊し先行きに不安を抱える一方、異形と化し世界の敵となったエレンの胸中は──。

進撃の巨人 第130話 人類の夜明け
別冊少年マガジン 2020年8月号(07月09日発売)掲載

船上で

港湾基地を守るフロックらを退けたハンジら一行。

主要メンバーと整備員を積み、飛行艇を牽引しながら出港した輸送船。マガトとシャーディス教官は自爆によって巡洋艦を沈め、追手を食い止めました。その船上では…。

新しい作戦の内容を聞いてアニはハンジと衝突していました。すでに地ならしはマーレに到達し、寄港地から最速で飛行艇を飛ばしてもレベリオ消滅は避けられない。アニは故郷と家族を守りたいから協力していたのに、これではもう戦う理由がない、自分は降りると言い出します。まあ当然のなりゆきで前回の予想通り。

ハンジはマガトの遺志を説き口先で丸め込もうとしますが、アニはどうせエレンと殺し合いになるけどあんたたちにそれできるの?と、棚上げされていた議論を再び問います。故郷消滅が避けられず養父の安否も危ぶまれる状況、つい先刻の激戦による消耗もあいまってアニもだいぶメンタルに堪えており、もう誰とも戦いたくない殺し合いたくないと弱音をこぼしました。道連れたちは誰も口を開きません。

戦闘の疲労とマガト自爆のショックで呆然としてる戦士隊の口が重いのはともかく、責任者ポジションのキヨミは気配の消し方がぱねえっす。4コマくらい出てるけど終始無言。

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回顧

場面はエレンの回想へと移ります。エレンの心象が描かれるのは久々ですね。彼は今何を考えているのでしょうか?

イェレナ伝えにジークの安楽死計画を聞き、それを利用して面従腹背で始祖の力を乗っ取り、地ならしで世界を滅ぼす算段をフロックへ告げた場面。

牛飼いの女王として暮らすヒストリアにその計画を打ち明け、反発されるも譲らず決意を告げる場面。

負傷兵を装いジークと密会を重ねていた頃、「アッカーマン特有の習性」というミカサについての仮説をジークに否定された場面…。

次々と目まぐるしく場面が交錯し、最後にエレンがつぶやいたのは、自分は長くてもあと4年の命だが親しい友人らは末永く幸せに過ごして欲しいという、ただ純粋な願いでした。

そしてその願いを叶える方法としてエレンが出した結論は、歴史を文明ごと葬り去ること。巨人の群れを使った文化大革命ですね。

マーレだのエルディアだのに歴史的な確執があったとしても、今を生きる当事者が冷静になりさえすれば本来は特に意味のないものです。かつて戦争して殺し合った歴史があるからその子孫たちも憎み合う、なんて話は全然合理的ではありません。理不尽に飲まれた当事者に他人が怨みなんか忘れろとは軽々に言えませんが、終戦後に孫・ひ孫の代になってまで敵対視するのは正しい論理とは言えないでしょう。

ただしそれは勝った国と負けた国がノーサイドで均衡関係になっているという前提が必要ですが、これがまた難しい。

現実には敗戦国は略奪や賠償によって不利益を被り、長期的間接的に搾取されます。生活が苦しいのは敵国のせいだ、あいつらが俺たちの食い扶持を持っていってしまったからだ、となるわけです。そしてその怨嗟と慟哭を見聞きしながら子世代は育つ。親を苦しめているものはどうやら「敵国」なのだと理解しながら。

そうした確執を利用し人間を操るほうが為政者にとって都合がよいのは当然で、作中では巨人大戦の勝敗が身分制度の上下として残っています。レベリオでは敗軍に与した当事者の子々孫々に至るまで劣等市民として収容区に押し込まれていました。そしてグリシャの妹のように畜生以下に扱われても訴えることすらできず、民族間の憎悪は募るばかり。これでは確執が消え去るわけがありません。

不信と怨恨と差別意識はこじれにこじれ、話し合いで円満な解決なんかもう無理だから、全員滅ぼして0から始めればこれまでの紆余曲折はなかったことにできる、というのがエレンの出した答えです。アフガニスタンもシリアもソマリアも、飽和爆撃で国土を更地にし国民を全て亡き者にしてしまえば、もう争う人はいなくなり、今すぐにも紛争解決!というわけ。そしてエレンはそれを個人で実現できる力がある、究極にやっかいな存在です。やはりライナーの直感は正しかった。この世で最も座標の力を持ってはいけないのはエレン、お前だ──。

事実として、パラディに逃げ込んだ後に記憶と歴史を消去されたエルディア人たちは人類同士の戦争とは無縁でした。離島での鎖国によって文明レベルは停滞し、巨人という脅威には晒され続けたものの、歴史に起因する確執や軋轢によって争うことはなかったのです。いちおうパラディにも貴族平民の身分制度はあったみたいですけど、苛烈な搾取や差別の描写は作中には見られませんでした。まあ内地と外縁部の格差、憲兵団の専横といった火種は見え隠れしていたので数百年たつとどうなっていたかはわかりませんが、なんかトラブったら王が始祖発動させて国民の記憶をいじっちゃえばいいだけのこと。島内の治安維持はイージーモードです。

「全ての敵をこの世から一匹残らず駆逐する」

ヒストリアは彼の決意を聞き、エレンを止めようとしました。あの日のシガンシナのような理不尽な死の暴風を、自らの手で吹き起こすつもりかと。エレンはまるで動じることなく、わかってる、でも…とリセット論を披露します。それはヒストリアとその子孫らのためでもあることを、彼女は理解していました。

ヒストリアを守るために世界人類を犠牲にすることで、彼女が自責の念に耐えられないなら…記憶を操作するとエレンは言い、独善的な救済を拒もうとするヒストリアを寄せ付けません。

記憶操作によるリセットは作中における統治の成功例であり、グリシャやそれ以前の巨人継承者の記憶、パラディ島民としての経験から、エレンがそれをベターな解決策として採用するのも無理からぬことではないでしょうか。彼は忘れているのです。そうして為政者の手で与えられた平穏は、かつて少年だった自分が嫌悪した「家畜の安寧」であることを。

上陸

壁の子供らが憧れ思いを馳せた、自由に飛べる翼を持つ海鳥が水面を渡ります。その行く手には水平線にまで連なる蒸気軍艦の大編成。地ならしの脅威を前に大陸諸国は争いを止め、世界共通の敵を排除するために連合を組んだのです。艦隊司令いわく、地球上の大砲と叡智の全てがここに集結している。そして彼らが睨むのは、海を渡らんとする地ならしの先触れ、海面から空までカーテンのように覆い尽くす蒸気でした。

以前、「地ならしは4列縦隊で進んでいるように見える」と書きました。あれはパラディへの被害を留めるためだったのか、海に出て対岸への上陸寸前となり陣形は大きく変化しています。もはや画面に収まらないほど横に長く広がったそれは、整地のために特大のブルドーザーに変化したようなもの。上空視点から見るとまさに津波の襲来です。陸地に存在する全てを飲み込んで進撃し、猛火の勢いで侵すことは明らか。

文字通り防波堤となり一斉射撃を開始する世界連合艦隊。艦砲の雨が誌面を覆い、地ならしの先頭へ降り注ぎます。ここでようやく大型巨人の泳ぎ方が判明しました。バタ足泳法です。自然体で海面より少し下に浮遊しており、脚を交互にキックして進んでいます。船上から見ると巨大なクジラの影のように写りますね。

世界艦隊の一斉射も数万の大型巨人の襲来にはさして被害を与えることはできず、また巨人たちも船そのものは意に介していないようで、潜航したまま軍艦の下を通過していきます。続けて湾岸からの野戦砲による攻撃が試みられるものの、これも巨人たちの数の暴力には対抗できません。

そしてついに地ならしの先端がマーレの国土へ到達し、無数の巨人が立ち上がり歩き始めます。

噴煙の中から姿を現した巨人たちへ重ねて野戦砲の弾幕が張られますが、一体たりとも止めることができません。その様子に怯んだ兵士たちは我先に逃亡。内陸へ向かって駆け出す兵士が振り返ってそこに見たものは、大型巨人の何倍もの身の丈をもつ異形の「何か」…。

あれは…あ…ヤツだ…進撃の巨人だ

第1話、超大型巨人の襲来に呼応した描写ですね。攻守が逆転し、あの日に逃げ惑うしかなかったエレンが痛烈すぎる意趣返しにやってきたぞーというわけです。どうみても巨人ですらない歩く骨格標本の化け物を見て「進撃の巨人だ」と断ずる兵士のセリフからすると、このエレンの異形は「進撃の巨人」固有の形質で過去に記録があるのでしょうか? グリシャは小汚いおっさんみたいな姿で巨人化してましたし、始祖を取り込んでいたとはいえ兵団時代の巨人エレンもシンプルな外見でしたけど…。

この姿になってからエレンの顔が出たのは初めてですが、なんつーか気持ち悪い。恐竜の骨格標本から落ち武者が逆さにぶら下がってるような格好で、ラスボスの第二形態といった趣き。肉らしきものは顔にしかなく、あとは骨。筋肉や靭帯なしでどうやって関節をつなぎとめ脚を動かしているのかは謎です。よく見ると脊椎の方から白い糸のようなものが肘に向かって伸びているのが見えます。これで体を操作しているのでしょうか。

ちなみに海中から来た巨人の群れが港湾都市へ上陸する光景は、アニメ2期のエンディングで描かれていました(大型巨人ではなく無垢の巨人ですが)。EDではその後「地ならし」と思われる大型巨人の群れと、難民のような人々の列が果てなく続く様子が映し出されます。

↑アニメ2期のED。地ならしを予言した描写と思われる

果てしなく横へ伸びた地ならしの列が大地を踏み鳴らし、いよいよ蹂躙を開始します。これを武力で止める手はもはや人類にはありません。

ただ行進の速度はそれほどでもなく、兵士たちが走って逃げられる程度ではあるようです。津波とは違って標高があっても海から遠くても一定速度で進み続ける点は脅威ですが、人の駆け足より遅いのであれば十分に距離をとりつつ斜め方向に逃げればいずれ列の端から後ろ側へ回り込めるはず。その端まで何kmあるかわかりませんけど…。あと飛行船などで空中に退避すれば難を逃れられます。もしくは地下壕ですかね。巨人は見かけの体積に比してかなり軽いはずなので、地表の建物は壊れても地下ならやり過ごすことができるかもしれない。地表の出口が瓦礫で埋まってしまう危険はありますが、崖や斜面に横穴状の出口を持つ避難場所であれば助かるかも。

まあ命だけ助かったところで、近隣の街一帯が完全に更地ではどうしようもないんですけどね。大勢で無人島に漂着したようなもので、すぐに衣食住の奪い合いが起こり、大半がそのために死ぬでしょう。

始まってしまった大破壊をどこで食い止められるのか、ミカサとアルミンの女子力に全てがかかっています。

つづく

欺瞞

回想の中で、エレンはジークにアッカーマンのことを尋ねていました。

アッカーマンに宿主を守る習性や特有の疾患があるなんて聞いたことがないな、とジークはかぶりを振ります。

そのアッカーマンの少女が過剰に執着するのは、血筋と関係なく純粋にお前のことが好きだからじゃねえの? ジークはごく当然の帰結に至るものの、傷病兵姿のエレンは無表情を崩しません。

結局、アルミンや僕らが推測したとおり、アッカーマンの習性うんぬんはエレンがミカサを遠ざけるための作り話だったというわけ。生存が脅かされたことがきっかけで力に目覚めるのは事実ですが、それ以外の護衛対象の刷り込みや、本来の意思が抑制されると頭痛が起きる、といったくだりはでっちあげです。リヴァイにはあてはまらないことが多かったのでこれは妥当でしょう。ということはミカサはもともと片頭痛持ちだったのか。

そしてもちろん、エレンが昔からミカサを大嫌いだったというのも嘘。結局、エレンが事をなし死んだあと、残された者は幸せになって欲しい、そのために自分が汚れ仕事を引き受けるぜ、例え誰からも理解されなくてもな…という悲劇のヒロイズムに過ぎなかったわけです。

となると、エレン説得の鍵はやはり彼女と、キーアイテムであるマフラーにかかってくるという予想が成り立つ。ミカサは今マフラーを身に着けている様子はありませんが、えーと名前、名前忘れたけどあのミカサ信者の子が死ぬ前に容赦なく回収してたので多分持ってるはず(※ルイーゼでした)。巨人の記憶に飲まれて自意識の境界が溶けたエレンの首に、ミカサがマフラーを巻いて精神世界で対話し、自我を取り戻させる…みたいな。う~ん、なんか岩原裕二の漫画にありそうな展開ですけど個人的にはすっきりしない。むしろゴリラスイッチの入ったミカサがエレンをぼっこぼこに殴りつけてちょ、ちょま、待って…!って顔を腫らしたエレンがギブしてるくらいのほうがいいな。 

エレンが、オレが死んだ後もあいつらには幸せに生きていってほしい…と話す後ろのコマは、サシャの死を聞いて泣き笑いしている自分の姿でした。エレンは目の前でハンネスを救えなかった時も自嘲して笑ってましたので、彼の癖なんでしょう。オレは何やってんだろな、御大層に巨人の力だなんだって、結局誰も守れねえじゃねえか、ハハッ、ざまあねえ。…この笑みは概ねこういうコンテクストなわけですが、ジャンやコニーにはそれが伝わらず軋轢の元になってしまいました。ロン毛に隠れて目元の涙が見えなかったのも原因です。今後は人前でわかりづらい自嘲は控え、髪は切っておきましょうねエレンくん。

さていよいよ地ならしは始まり、タイバーらが唱えたパラディの悪魔脅威論は現実のものとなってしまいました。皮肉にも大陸国家どうしの争いは止んで一丸となった世界人類ですが、総力を結集した大艦隊もなすすべなく巨人を素通ししてしまいます。ことここに至り、すでに話し合いでの融和は不可能。ここでエレンを止めたとて、エレンやジークら一部のエルディア人過激派の暴走と押し付けてうやむやにするにはインパクトが強すぎ、世界人類は二度とパラディに友好的な目は向けないでしょう。図らずも示威としてはこの上なく成功していますので、こっちはいつでも地ならしできちゃうよんと脅して各国と緊張関係を保ちつつ政冷経熱の関係には持っていけるかと。パラディ特産の氷爆石(立体機動装置の動力源、超高濃縮されたガスの固体みたいなもの)は先進国から見ても魅力的な資源らしいですからね。

それだと結局歴史的な遺恨や確執はなくならないんですけど、別にいいんですよ。だってリセットしたところで、どうせ新しくそうした歪みは生まれるに決まってます。ひとつの体制が長く続けば澱は溜まり、火種は燻る。そのゴミ溜めをたまに戦争や革命といった手段で混ぜ返しながら人間は歴史を紡いできました。それを綺麗なままコントロールしようとするなら、全員を混血のユミルの民にして始祖の力で記憶支配するしかない。しかしエレンがそれを望むでしょうか。

世界は残酷で、戦わなければ勝てない。だからこそ自ら生きようとする者は美しい。本作のテーマに沿うならば、エレンは神として世界を滅ぼし作り変えることよりも、自ら変革や成長をして生存を勝ち取ろうとする人間の姿にこそ可能性を見出すのかもしれません。そういう綺麗事で終わらせるために必要な前提は、巨人の力がこの世界から消滅することですね。エレンが座標の砂漠で始祖ユミルとなんやかんやして、巨人の力を消滅させると同時に自分は大樹になる…みたいな。なんか展開に既視感がありますけど、さすがにエレンがただの人間に戻ってツレと平和な日常でハッピーエンド!完!ってのはちょっと考えがたい。多分いなくなるんだろうなと思います。

当面の問題は飛行艇で接近してから誰がどうすんのってことですが、順当に行けばアルミンとミカサが立体機動で飛び移って説得、んで1回失敗するとこまでが既定路線ですよね。次回は破壊される街の様子と寄港地での整備、離陸だとして、エレンに接近できるのはその次の号くらいでしょうか。楽しみです。

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別冊少年マガジン(毎月9日発売)で連載中、
「進撃の巨人」のネタバレ感想ブログです。

ネタバレには配慮しませんので、ストーリーを楽しみたい方はご注意下さい。

※フラゲ速報ではありません。本誌発売日の夜に更新することが多いです。

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