進撃の巨人 ネタバレ考察

(132)自由の翼

マーレ大陸へ上陸した地ならしの列は容赦なく街を灰燼へ変え、あらゆる命を踏み潰して行く。

壁を越え、海を渡り、ついに何者にも遮られることのない自由を手に入れたと歓喜するエレン。

そんなエレンを止めようとする旧友たちは、頼みの綱である飛行艇を整備できる施設を目指し、まだ地ならしが到達していないであろう南のオディハ港へと舵を切る。

焦る一行を乗せた船は走り、ようやくオディハへとたどり着いたのであった──。

進撃の巨人 第132話 自由の翼
別冊少年マガジン 2020年10月号(9月9日発売)掲載

オディハ到着

ハンジら一行を乗せた輸送船は、曳航する飛行艇と共に、無事マーレ大陸の港湾都市・オディハに到着しました。

オディハは地ならし本隊が上陸したと思われる地点よりもかなり南に位置し、まだ巨人の群れは波及していません。ここの整備場で飛行艇を飛ばせる状態へ持っていき、空からエレンを追撃してアルミンたちによる説得をかけて地ならしを止めるのが彼らの計画です。

しかし地ならしの進行速度が予想以上に速かったせいでレベリオを含むマーレ大陸の北東部はすでに壊滅。守るべきものを失ったアニは戦意喪失しており、巨人化の疲労で寝ていたファルコは起きてそれを知って、ついでにマガトも死んだと聞いてパニックに。ピークも冷静に努めていますがどうしていいか分からない様子。

エンジニアが夜を徹して整備作業を行う一方、兵士たちはイェレナを尋問にかかります。現状、上陸した後にエレンが行きそうな場所の手がかりはなく、か細い糸であってもイェレナとエレンとの企みにヒントを見出すしかありません。

イェレナは骨折の痛みに脂汗を浮かべ憔悴した様子でしたが、いざ事に及ぶと被害の大きさに恐れをなしたのか、それともジークがもう戻らないと知ってエレンへの義理立てを放棄したのか、意外とすんなり計画を明らかにしました。

彼女が言うには、地ならしの示威行動でマーレのカリフア軍港に集結する世界連合艦隊を潰し、そこから南南西にあるスラトア要塞で飛行船の研究基地を破壊すれば、財政的にも軍備的にも反攻は不可能だとエレンに伝えているそうです。エレンは格好つけててもマーレ辺境の地理まではとんと無知ですから、そこは念押ししつつも割りかし素直に頷いています。

ちなみに作中世界の地形は現実の地球を左右反転させた形(鏡写し)になっていて、カリフア軍港は地球でいう南アフリカのケープタウンのあたりです。「カリフア」は反対から読んで「アフリカ」ですね。スラトア要塞はそこからだいぶ距離がありそうですが、こちらは地球でいうサハラ砂漠の北、アルジェリアのアトラス山脈が該当します。(スラトア→アトラス)

ケープタウンからの直線距離は約8,000kmだそうです。

ここまで長距離行軍となれば、移動速度の差で飛行艇が追いつける可能性が出てきます。オディハは紅海入口に相当し、そこから山脈までは5,000kmくらい。第二次大戦で使われた飛行艇の偵察における航続距離が6,000kmとか7,000kmとか書いてあるので(※いつものwikipedia調べ)、なんとかなるのかな。要塞を無傷で守らないと燃料が尽きて片道になっちゃいますけど…。

レベリオの位置って実はまだ出てないんですよね。沿岸付近にあり、エルディア人を隔離していつでも楽園送りできるように用意している都市なので、普通に考えるとパラディからかなり近い場所にあるはずです。

発砲

突貫での整備が終わり、各々も無理やり心の整理をつけ、立場を明確にします。

飛行艇に乗り込むのはアルミン、ミカサ、ジャン、コニー、ハンジ、リヴァイ、ライナー、ピーク、操縦担当のオニャンコ。少しでも軽くした方がいいのでは…と思いますが戦力も必要なのでこんなものでしょうか。

残るのはアニ、ファルコ、ガビ、キヨミ、エンジニアたち、(多分)イェレナ。

アニはミカサに自分はもう戦えないと告げ、追撃には加わらずガビとファルコを守る役を負いました。アルミンへの思慕はミカサに看破されるほど顔に出ているようですが、心を殺します。さすが戦士。

リヴァイは満身創痍で立つこともままならず、手の指も欠損しており立体機動ができるようには見えませんが、本人が問題ねぇと強気の姿勢で誰もそれを止められません。エレンと同化したジークが執念でなにかやらかしてそれを止めるために特攻、って感じの約回りですかね…。

キヨミは残るメンバーを乗せた輸送船を操縦して陸から離れることに。偉い人なのに手ずから石炭をえっほえっほと炉にくべる姿がかわいい。

ピークはマガトの遺志に従い、死んだ仲間に報い務めを果たすとして追撃に同行。

ライナーは始祖奪還作戦を強行した日のことをアニに謝罪し、抱き合って今生の別れを告げました。

点検が済みいよいよ燃料を注入しようとしたその時、オニャンコポンは格納庫の奥に黒い服を着た人影が這いずっているのに気が付きます。

よく見て確認する暇もなく、その人影はぬっと銃を構えるとそのまま9発続けて発砲。ドンドンドン、という見た目の口径に比べて重い発砲音が庫内に反響します。すぐさま反応したミカサが立体機動装置のアンカーフックを撃ち込み昏倒させた相手を見れば、横たわっているのはフロックでした。ハンジ「まさか船にしがみついてここまで・・・」そんな馬鹿なw まあなんとかして曳航されている飛行艇に体を縛るなどしていたのでしょう。

さしものフロックも飲まず食わずで長時間波に揺られた後では体力もなく反撃はできませんでしたが、彼の銃弾は飛行艇の燃料タンクにいくつも空気孔を開けていました。技術者のおっさんによれば1時間で応急修理は可能。しかしこの1時間の遅れが致命打となりかねない状況です。

予感は的中し、居並ぶ者たちがみな地面の振動を感じました。満を持してこのタイミングで地ならしの到着です。この上なく嫌がらせに成功したフロックは首から血を流し続けながら、最期までエレンがパラディ生存唯一の希望だとつぶやき、息絶えました。彼は彼なりに巨人超人揃いの愚連隊を相手によく健闘したと言えますが、港湾基地でキヨミたちにイキりちらしてないでさっさと飛行艇爆沈させとけばこんなことにならなかったと思いますので、まあやはり将たる器ではなかったんでしょう。

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ハンジ

格納庫から飛び出した面々が目撃したのは、山の斜面をかけ下る大型巨人の群れ。先頭はもう目と鼻の先まで迫っています。アルミンとライナーが時間稼ぎの役を買って出ますが、ハンジはそれを却下。雷槍を携え、ふっと笑った後アルミンを見据えると、彼を次期調査兵団団長に任命し、後を託します。何か言いたげなリヴァイにようやく私の番が来たと告げると、リヴァイは数瞬目を閉じ、そして戦友の胸を拳で叩いてこう言いました。

──心臓を捧げよ。

およそらしくないセリフですが、それでもこれ以上に調査兵団としての幾年月を、踏み越え失ってきたものを、魂の寄る辺を、象徴する言葉はないでしょう。皆そうして逝ったのです。その言葉で多くの者を死に向かわせたけじめをつける。その許しを、ハンジはこの瞬間にリヴァイからもらいました。永く共に戦った友の言葉を背に上空へ跳んだハンジの顔は晴れやかで、そこには悔いも未練もないように見えます。

先頭の巨人を雷槍で仕留めたのを皮切に、ハンジは格納庫へ向かう巨人をブレードでなぎ倒しはじめます。大型巨人は黙々と歩いているだけでハンジを捕らえるなど意図的な抵抗をしないようですが、体から高熱の蒸気を噴き上げており、かつ密集しているため、ハンジは常に蒸気を浴びながら戦うことになります。湯が沸騰する鍋の上に手をかざしているようなもので、何体目かの巨人を切り伏せる頃には、ハンジの肉は爛れ、着衣が溶けて絡みつき、もはや姿も判然としない黒い塊が跳ねているようにしか見えません。

格納庫では超特急の燃料注入作業が終わり、飛行艇はようやく海面へ。アニたちを乗せた輸送船も港を離れます。すんでのところで地ならしをかわし飛行艇は離水。全員無事に脱出成功です。それを見届けたように、体から火を吹き上げて真っ逆さまに墜落するハンジ。時間稼ぎの役をきっちり果たし、次世代へバトンタッチして堂々たる退場。

…じゃあな、ハンジ。見ててくれ

そうつぶやいたリヴァイの表情は、包帯に隠れてうかがい知ることができませんでした。エルヴィンにつづいてハンジをも見送る役回りで自分は死に損なってますから、さぞ悔しいでしょうね。

再会

ハンジが目を開けると、視界には晴れやかな青空。辺りはもう静かになっており、大量の巨人の足跡だけが残されていました。

ガバっと跳ね起き、飛行艇の無事を確かめようとしたハンジに、傍らに立つ男が「飛び立ったよ」と、飛行艇を見送る背中越しに声をかけます。

彼の背中には見慣れた「自由の翼」が翻っています。笑顔でハンジを迎えたのは、エルヴィン、ミケ、モブリット。その後ろにはピクシス、ナナバ、ゲルガー、ネス、リヴァイ班の姿も見えます。後ろ姿はサシャかな?

ハンジが彼らに語る苦労話は長くなりそうですが、もう時間を気にする必要はありません。「大変だったよ エレンのバカがさぁ…」大げさに苦笑しながらモブリットの手を借り、空を飛び去る新たな翼に未来への希望を馳せながら、ハンジはゆっくりと立ち上がるのでした。

つづく

 

物語がここまで佳境を迎えると、もう伏線とか謎とかは大して残ってなくて、あとは誰がどういう決断を下すか?だけが注目ポイントなんですよね。だからあまり考えることがない。

マガトの決断、ハンジの決断を見ておほーっ!と驚嘆はしますが、なぜそういう思いに至ったのか?が分からず過去のエピソードを紐解くといった必要は特にありません。だから最近の回は目が滑るというか、スルスルっと読んでしまう。特に引っかかりを覚えるところがなく、消化試合のように感じてしまうんですよね。

そんな僕が密かに楽しみにしているのが、実はこの作中世界が舞台装置で、真実はさらにもう一枚向こうにあるっていう展開ですよ。実はこれが環境シミュレーターで本人たちは地球を脱出する移民船の冷凍カプセルの中で眠っていて、未知の惑星についてカプセル開いたら全員生きてて、これまでの物語は未知の環境や敵対生物に対応するためのバーチャル訓練だった、さあここからが本当の自由だ!~完~

「巨人の力」のような物理法則を無視した超常的な能力を手っ取り早く解決できる説明が、世界のデジタルコンテンツ化です。始祖の力は管理者権限。チートだからなんでもあり! 便利過ぎる設定なので巷にはこの類の作品が溢れかえっています。まあ本作でそれをやると、あらゆる問題が解決するとともに確実に裏切られたと感じてアンチに転向する読者が発生する諸刃の剣ですけどね。

今回アフリカの地図を見てて改めて思ったんですけど、現実の地球との関連が実はあるんじゃないか?とか妄想するのも楽しいんですよ。単に作者が設定を考えるリソース削減のために地球をモデルにして改変しているのか? それとも世界地図や文字が反転していることにちゃんと理由があるのか? ネタバレなんで言えないですが「◯◯の◯◯◯◯」にもそんな感じの仕掛けがありましたよね。前提だと思ってたことが読者の勘違い。叙述トリックというべきなのか。

今回でパーティが2つに分かれました。居残りチームにも巨人が2人いて、アニは父親が暴動の先頭に立った後消息不明ではっきり死亡が描かれていないので、多分何かあるんじゃないですかね。アニが戦意喪失したのは父親が死んだことが大きいので、実はちゃっかり地下の避難所に隠れて生きてたとわかればまた頑張れる。

地ならしはハンジへの対応を見ても分かる通り本当にただ歩くだけで、個々の巨人が意図的な行動はしない。だから隠れてる人間がいてもそれをほじくり返していちいち殺したりはしないと思われる。地下壕のような避難場所があれば難を逃れることはできるのではないだろうか。

ファルコもレベリオ壊滅で家族がもう死んだっぽい~って聞いて泣きわめいてましたので、実は生きてましたwで元気大復活する可能性はあると思う。アニとモチベが同じだから。僕としては本作においてエレンはすでに寿命が迫った旧世代であり、未来はガビとファルコに託されたって感じに終わると思ってるので、この子達がこのままフェードアウトするわけはない…と予想します。だってこのままアルミンのヒロインパワーとかミカサのマフラーでエレンが説得できちゃったらどう? フツーすぎてダメでしょそれ。いやダメじゃないんだけど、普通でもいいんだけど、多分そうはならない。説得失敗して、その次になんかあるでしょ。意外な抜け穴的なアレが。アレって何か知らんけども。

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別冊少年マガジン(毎月9日発売)で連載中、
「進撃の巨人」のネタバレ感想ブログです。

ネタバレには配慮しませんので、ストーリーを楽しみたい方はご注意下さい。

※フラゲ速報ではありません。本誌発売日の夜に更新することが多いです。

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