大陸を覆い尽くす地ならしから逃げ惑う人々もいれば、それに抗おうとか細い糸を必死にたぐる人々もいる。
始祖エレンとアルミンの交渉は決裂し、互いの意志の衝突でしか決着はなしえない。
アルミンは親友であり戦友でもある幼馴染と訣別できるのか。どんな言葉で殴りつけるのか。
全人類の命運を乗せた飛行艇はスラトア要塞を目指して飛び続ける──。
進撃の巨人 第134話 絶望の淵にて
別冊の少年マガジン2020年12月号(11月09日発売)掲載
終わる世界
見渡す限りの人、人。地平まで続く避難民の大行進。
ロンドンのような町(運河に時計塔とタワーブリッジ)では、洋装の黒人たちが橋の上を逃げ惑っています。
合掌造りの家が立ち並ぶ村落では、和装で鳥居を前に手を合わせた人々が巨人たちを伏し拝みます。
そのいずれの集団も、地ならしに為すすべなく踏み潰されていきました。断崖に追い詰められた人々は次々に海へ飛び込み、母親の手からおくるみ姿の赤ちゃんがこぼれ落ちていきます。それを誰かが拾い上げ、せめてこの子だけでも…とその場の群衆は想いを同じくしますが、特にできることはなく、涙ながらに死の瞬間を待つのみです。
今号はこの蹂躙される世界の描写に見開きで10ページほど使っていますので、読むのは一瞬でした。
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飛行船団の爆撃
避難民が一縷の望みをかけてスラトア要塞の飛行船基地を目指したものの、彼らが到着する頃には飛行船はすべて爆弾を満載して地ならしの群れへと向かった後でした。避難民の中にはアニやライナー、ピークらの家族がいます。
管制塔から攻撃指示をする司令官は主人公気取りでヒロイックな演説をぶちかまし、この危機を乗り越えたら憎しみを卒業し互いを思いやる、二度と同じ過ちは繰り返さない…といった、まるで小学生の作文かと思うような薄っぺらい内容を宣言します。まあ今この瞬間に地獄を見て本心からそう思うのも無理からぬ話ですが、仮に生き残った者がいたら今後エレンを、巨人を、パラディを、エルディアを、はたして憎まずにいられるでしょうか?
まあ司令官が祈る姿勢で綺麗事をのたまったところで結局はオレの思い通りにな~れ、ってことを暴力装置を通じて実現したいだけ。巨人たちに何かを呼びかける試みなどはなく、レッツ爆撃です。
近づく飛行船を睨め上げるエレン。背骨から突き出した棘状の骨が発光を始めました。攻撃行動を予期した司令官は爆撃を急がせますが、高高度からのドラム缶爆撃では命中率が低く、エレンに致命的なダメージを与えることはできません…というかほぼ無傷に見えます。
背骨の光はやがて肉を纏い、徐々に人の形をとりつつあります。背中から足にかけて見覚えのあるオランウータンのような形が現れました。
それが完全な姿になった時、手の中には無数の石礫が握り込まれていました。ああ、あれか。かつてシガンシナ奪還戦でエルヴィン率いる調査兵団の騎兵突撃を完封し、甚大な被害をもたらした獣の巨人の散弾投擲。エレンの骨格から強制的に現出させられ肉の縄で繋がれたまま、意志があるのかないのか判然としないながらも、その投擲能力は遺憾なく発揮されます。
巨人からの対空攻撃をまったく想定していなかった飛行船団は獣の巨人の投擲を真下から土手っ腹に浴び、残る爆弾が誘爆して一隻残らず撃沈。人類の希望を乗せた飛行船団、爆撃開始からわずか8ページで爆散をもって退場となりました。チーン。
駆けつける飛行艇
もはや遮るもののなくなった地ならし団は避難民たち目掛けて歩み続けます。逃げ場もなく希望が潰えた彼らは各々が祈り、泣き、家族との最期の別れを惜しみます。その中でひとりの少女が空を指差しました。
皆が見上げた先には一隻の飛行艇。大きな犠牲を払って飛び続けたアルミンたちが間に合ったのです。
燃料枯渇でエンジンは停止寸前というギリギリの状況ですが、オニャンコの操縦技術は確かで、獣の散弾攻撃をヒラリとかわして始祖の真上まで寄せます。彼らが飛行船団の撃沈される場面を見ていた描写はありませんが、ミカサとリヴァイがアッカーマン特有の勘で攻撃の気配を察知し、それをオニャンコに知らせる形で危機を免れました。
飛んできた石礫を見てリヴァイは直感します。最大の仇敵がそこにいると。どうやってジーク本体の居場所を特定し攻撃するのかが最大の難問(というか完全に棚上げして願望ありありの精神論で見切り発車してた)でしたが、都合よくこれで解決です。
満身創痍で死人同然のリヴァイでも刺し違え覚悟なら一矢報いることくらいはできるでしょう。んで多分満足そうに死ぬ。本作で命を使った役目を完遂して死ねる人ってそう多くないので、ハンジもそうですけど相当に恵まれた境遇であると言えます。大抵は理不尽にあっけなく何もできないまま死にますからね。特に序盤はその傾向が強かった。戦争とか災害で命を落とすというのは本来そういうものだと思います。
さて攻撃から獣の存在を確認したアルミンは即座に攻撃を命じ飛行艇から降下。空中を落下しながらライナーは巨人化し、体当たりで獣を始祖の棘の先から背骨の上へと叩き落とします。ライナーの硬質化能力は失われているはずですが獣を下敷きにすることでダメージを和らげているのでしょうか。巨人は体積に比べて驚くほど軽いという性質がありますので高所から落ちても意外と平気なのかもしれません。
続いて立体機動で追いすがる雷槍兵たち、さらにダイナマイトのベルト(港湾警備兵が飛行艇の爆沈用に巻いてたやつ)を咥えて降りてくる車力。その姿を見た避難民からは驚きと歓声があがります。
泣いても笑ってもここが正念場。そして次の次くらいの回で、始祖に追い詰められ全員が膝をついたところへ空飛ぶファイティングファルコがさっそうと駆けつけ、むき出しのジーク本体へガビがライフルでズドンと決めてくれるはず…あれ、似たような展開前にもあったな。街角で待ち伏せしてたガビがエレンの首をぶっ飛ばしてた気がする。分かりにくいので一応言っときますがファイティングファルコンはF16戦闘機の愛称です。ファルコが空を飛ぶと思われるのでそれを戦闘機になぞらえた高度なダジャレというわけですね。ワハハ。あー面白い。なんで書いたんだこんなの。
冒頭で、本筋からは完全に忘れられていたヒストリアの出産シーンがありました。いきんでる顔だけで産まれた赤ちゃんの描写はないんですが、おそらく無事に生まれて次代の象徴として描かれることでしょう。
つづく