進撃の巨人 ネタバレ考察

(80)名も無き兵士

前門には獣の巨人、後門には超大型巨人。
ハンジは超大型の変身爆発に巻き込まれて生死不明。
巨人エレンは超大型の足止めを試みるも、キャプ翼の森崎の如くふっ飛ばされて一時退場。
アルミンはテンパッてしまい妙案浮かばず。
生き残っているのは104期たちと、リヴァイ、エルヴィン、馬を守る新兵たち・・・。

進撃の巨人 第80話 名も無き兵士
別冊少年マガジン2016年5月号(4月9日発売)掲載

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超大型巨人への雷槍攻撃

エレンが戦線離脱した今、超大型に対抗できる戦力は「雷槍」を装備したミカサのみ。
ジャンたちが囮となってベルトルトの注意を引きつつミカサがうなじを直接狙う作戦ですが、これはさすがに単純過ぎるというもの。
ベルトルさんは新兵器「雷槍」の正体こそ知らないものの、兵士としての手の内は熟知していますからね。

超大型の熱風防御はかなり優秀で、囮もミカサも、発射された雷槍も含めまるごと圏外へふっ飛ばしてしまいます。
突風でワイヤーが抜けた雷槍がミカサの背後で爆発。
ベルトルトはそれを目撃しているため、新兵器が爆薬付きのアンカーであることは理解したでしょう。

熱風は瞬間的に相当な温度に達しているらしく、吸い込んだコニーはなんと喀血。
呼吸器が焼けて喉から血が出るとは相当危険な状態です。
ミカサやジャンも火傷を負い急激に消耗。ミカサは雷槍の自爆に巻き込まれ負傷してしまいました。

あまりに絶望的な戦力差、それでもアルミンなら・・・! アルミンならなんとかしてくれる・・・!
羊飼いに従う羊の群れのように、思考を放棄しアルミンにすがる104期たち。
稀代の名軍師・我らが諸葛アルミン孔明が満を持して開帳した作戦は!

「・・・え?」「・・・何も」

ズコー!
わずか数ページで別人のようにやつれ、「おいおいマジか・・・」と言わんばかりのジャンの表情が印象的です。
いくら漫画だからって、アルミンもそんなにポンポン秘策を思いつくわけないだろ!
全責任を勝手に押し付けられたアルミンの胃は大丈夫なのか?

そこへ新たな破壊音が轟き、土煙の中に姿を見せたのは鎧の巨人。
これだけやっても戦力が減ったのは調査兵団側だけで、ジーク戦士長率いる巨人軍は特に大した損耗を受けていない。
これは筆者としても精神的にこたえます。話が進まないぞ・・・。

エルヴィンの逡巡と決意

一方、壁の反対側では。
最近の回はこのパターンが多いですね。

獣の巨人ことジーク戦士長は岩の散弾投擲を継続しており、気が付くと壁の周辺に広がる街区の建物の多くがすでに瓦礫と化しています。

もはや馬を守ってもそれに乗って帰る人間の数が足りないという状況で、新兵たちは恐怖に統率を奪われつつあり、もうダメだ・・・終わりだ・・的な様相を見せる兵士が現れはじめました。

それでもあくまで冷徹に思索を止めないリヴァイ。
自らの命も駒として計算に入れながら、可能性を次へ繋ぐための撤退戦略を練ります。
もしかしたら誰一人生きて帰れず、文字通りの全滅を喫するかもしれない。
そんな状況にありながらわずかでも合理性のある未来を選択しようとする彼の姿勢は、英雄的というよりは熱の冷めた他人事のようにも感じられます。

おそらく誰もが持っているはずの「生きたい」という本能に執着することなく、自分とエレンのどちらを生かすかを天秤にかけて結論を出している。
そこにリヴァイ個人としての望みや目的はほとんど透けて見えることがありません。

一方、団長であるエルヴィンは全く逆でした。

彼が反撃作戦を指示しないのはなぜか。
それは、自分が死にたくないからだったのです。

この状況を打破するにはもはや捨て身で囮となり、最強戦力のリヴァイに全てを託し獣の巨人を打ち倒すしかない。
100%死亡する囮部隊を率いて突撃するのはエルヴィン以外に務まらず、先頭を走る彼はいの一番に殺される。

エルヴィンは嘆息して木箱に腰掛け、背中を丸めて疲れた様子を見せます。
「俺は・・・このまま・・・地下室に行きたい・・・」

これまでの半生をかけて追い求めてきた真実への扉がすぐそこにあるのに、エルヴィンが反撃作戦を決行した時、それはもう手の届かないものになってしまう。
答えを知ることなく、他の誰かを生かすために肉塊と成り果てる。

読者にとっては既知のことですが、エルヴィンの内面は決して聖人君子や英雄の類ではありません。
人類のため、平和のためといったお題目は必ずしも本心の全てではなく、実際に彼の手足を動かすものは極めて個人的な知的好奇心なのです。
壁の禁忌に触れて憲兵団に暗殺された父親による呪縛と言ってもいいでしょう。

本作は父親によって子が「呪いをかけられている」シチュエーションがよく登場します。
エレン、アニ、エルヴィンがその典型で、父親の存在が子の行動をある意味規定している。
この抑圧から脱却し、自分の意志で自分の行動を決めること、それも彼らにとっての「壁の超越」なのです。抽象的で便利な表現ですね、壁って。

エルヴィンは王家が独占する歴史の真実を知りたいがためにクーデターを企て、イェーガー家の地下室の中を見たいという執念でここまで遠征軍を率いてきた側面があります。
先ほどのリヴァイが己の生や欲求にほとんど執着を見せないのとは対照的に、エルヴィンは我欲に忠実です。

人類全体のことなど知った事か、どうせ死ぬなら全ての責任を放棄して地下室に行き、その答えを知ってから死にたい。
きっとエルヴィンはそう思っているのでしょう。

一人称が「私」ではなく「俺」となり、私人として本音を吐露したエルヴィン。
そんな彼に、戦友としてリヴァイは救いの声をかけます。
夢を諦めて死んでくれ、獣の巨人は俺が仕留める、と。

その言葉を待っていたかのように、エルヴィンはゆっくり顔を上げて微笑むのでした。
瞳は澄み、顔からは迷いが消え、団長として任を全うすることに決めたようです。
己の行動を規定する「呪縛」から逃れ、壁を乗り越えた瞬間と言えるでしょう。

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エルヴィンを信じて死んでいった名も無き兵士たちに報いるため、彼は残った兵士たちを集めると最後の作戦を伝えます。

内容は単純な陽動。
信号弾で煙幕を張り、投石の狙いを狂わせつつ散開。
獣の巨人が気を取られているうちにリヴァイが雑魚巨人の群れを伝って立体機動で接近、奇襲をかける。
以上。

要するに、囮は死ぬということ。
それを質す新兵に、どんな人生を送ろうと人はいずれ死ぬ、だがその者が歩んだ生や死に意味を与えることはできると、鬼気迫る顔で魂を振り絞った大演説をぶつエルヴィン。
気分を盛り上げるために澤野BGMを流しながら読むとよいでしょう。
「我々はここで死に 次の生者へ意味を託す!」

エルヴィンの言葉は、トロスト奪還作戦で散ったイアンやミタビらにリコが贈った餞を思い起こさせます。
「皆、死んだ甲斐があったな」

家畜のように思考停止して生かされるより、死を背負って残酷な現実と戦えというのが本作が度々発するメッセージですが、今回はかなりストレートにぶつけてきましたね。

本当は死なないほうがいいに決まっているんです。
こんな演説は、エルヴィン自身がリヴァイにごちたように、兵士たちを奮い立たせ都合よく使い捨てるための欺瞞、体のいい方便にすぎません。
だからこの場面で感動などしてはいけない。
エルヴィンの嘘を糾弾し、無意味な死を避ける方策を全力で考えるべきだと、文明社会に生きる者ならばそう言わなければならないのです。
そう頭で理解していても、どうして彼らの覚悟と死に様はこうも我々の心を打ち鳴らすのでしょうか。

総員で突撃を仕掛け、獣の巨人に呆れられてしまったエルヴィンたち。
立体機動で忍び寄るリヴァイ。戦局の行方は・・・?

久々に暑苦しい諫山節が炸裂する今号、もし本誌を読んでいない方がいればぜひ手にとって頂きたいですね。

つづく

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どんでん返しの秘策は・・・?

今号は特に話が進んでおらず、じっくり溜めてどんでん返しへ向けて気分を盛り上げる演出の回です。
この状況が続いたところですんなり獣の巨人を倒せるとは思えないし、仮にリヴァイが刺し違え覚悟でジークを始末しても、超大型と鎧が健在。
調査兵団はリーダー陣を失い104期しか残っていないという状態に追い込まれてしまいますので、ここから勝利をつかむためには何かとんでもない新要素が必要なんです。

これがスパロボなら今頃ハンジが崩れた地下施設の入り口を偶然発見し、中で眠っていた古代人の超兵器を起動させている頃です。エレン・ミカサ・アルミンの三人乗りでしょう。すごいパワーが溢れてくる、これなら行けるぞ・・・!的な。

王道バトル漫画ならかつての敵が間一髪で駆けつけ、「フン、私との決着がつく前に他のヤツに殺されてんじゃないよ。アンタをやるのはこの私だ」「お前は・・・アニ!」みたいな展開が待っています。

本作でそういうベタな展開を考えていくと、大逆転の可能性は・・・
①先にこっそり地下室へ到達したハンジがなんかすごいアイテム持ってくる
②気絶中のエレンが夢の中でなんか巨人の記憶とか取り戻してすごいパワーアップする
③なんかの取引でライナーとベルトルトを味方に引き入れてジークをやっつける
④エルヴィンがリヴァイの巨人化薬を使ってなんか強い巨人に変身する
⑤エレンの死を目の当たりにしたミカサの叫びに呼応し、なんか刺青とかの力が解放されてタイムリープする
⑥ジークたちと敵対する別勢力がなんかいい感じで現れて勝手に戦ってくれる

この作戦は何の救いもなく失敗して、エレンが泣きながら絶叫して、「座標」が持つ叫びの力で第1話に戻る…とか、それくらいのちゃぶ台返しがないともう収拾つかない状況になっています。
なので近いうちに極めて大きな展開があるはず。

筆者の赤っ恥「次号はエルヴィンが巨人化する!(キリッ)」

前号でエルヴィンは考えながら何かを見つめているように思え、もしかしてリヴァイの持つ巨人化薬を使うのでは?と考えたのですが、どうやら全然違った様子。
しかしここで使わずに全滅したら持ち腐れなので、どうせ特攻するくらいなら一発逆転に賭ければいいのに・・・と思うのは自然なことでしょう。
つまり筆者は悪くない!

まだエルヴィンは生きていますから、致命傷を負っていよいよヤバくなった時にリヴァイの判断で変身させるかもしれません。まだエルヴィン巨人化の可能性は残っている。
つまり筆者が間違ったとは決まっていない!

はいはい、適当なこと言ってどーもすいませんでした。それじゃまた来月。

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別冊少年マガジン(毎月9日発売)で連載中、
「進撃の巨人」のネタバレ感想ブログです。

ネタバレには配慮しませんので、ストーリーを楽しみたい方はご注意下さい。

※フラゲ速報ではありません。本誌発売日の夜に更新することが多いです。

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