エルヴィンは落馬で生死不明、マルロは死亡、隊はほぼ全滅という犠牲を払い、ついに獣の巨人のうなじに刃を突き入れたリヴァイだが、本体であるジークには逃げられてしまう。
一方、ウォールマリアを挟んで反対側のシガンシナ区内では104期たちが鎧と超大型を相手に消耗戦を続けていた。エレンは昏倒し、残された人員と武装ではまともにぶつかっても対抗は難しい。
シガンシナ遠征で続いた巨人大決戦も、今号でひとつの区切りとなる局面を迎える・・・。
進撃の巨人 第82話 勇者
別冊少年マガジン2016年7月号(6月9日発売)掲載
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生還
ただでさえ少ない戦力をふた手に分けた104期たち。
鎧の方へ向かったのはミカサ、ジャン、コニー、サシャ。サシャとコニーは最近めっきりセリフも存在感も減り、ただコバエのように飛び回っているだけにしか見えませんが活躍するのでしょうか?
そんな鎧ですが、実は本体であるライナーのここ数分の記憶は綺麗に抜け落ちていました。解説されていませんがおそらく雷槍で頭を吹っ飛ばされ、無理やり肉体を修復したことで記憶のバックアップにタイムラグが生じたのではないでしょうか。
ライナーが記憶をセーブしていたのは戦闘開始前のベルトルトとの会話までで、ミカサたちが持つ新兵器・雷槍を食らって死にかけたことも忘れています。戦局が飲み込めず混乱したライナーはとりあえず各個撃破よりベルトルトと合流しエレンを確保することが優先と判断。群がる104期を無視して超大型の方へと走ります。
今ライナーを超大型の方へ行かせてはならない。とっさに判断したミカサは鎧の背中に追いすがり、雷槍で左膝を裏からぶち抜きます。これはかつて鎧と巨人エレンがウトガルドで格闘戦を繰り広げた時、ハンジがミカサに教えた知識。全身硬質化してても膝の裏は柔らかくないと歩けないはずとハンジに言われ、ミカサはブレードで鎧の膝裏を斬り裂いてエレンに助太刀しました。(11巻44話)
その経験が活きたのか、彼女は走る鎧の足を的確に一発で止め、ライナーは地面につんのめります。104期に残された雷槍は3本。左足が再生する前にカタを付けなければ・・・!
足止めしていては勝てない。殺すしかない。
意を決した104期たちが咄嗟に立てた作戦は、サシャとコニーが雷槍で鎧のアゴを左右から爆破。口が開いた所へミカサが柔らかい喉からうなじへ向けて雷槍を放って爆殺で決まり! あ、ジャンはサシャとコニーのために囮役な!
時間がない。作戦は即時決行されます。鎧が振り払った腕で民家の屋根がバラバラになり、その破片に巻き込まれたジャンとサシャが負傷、サシャの雷槍は命中せず。コニーは左アゴを爆破したものの口は半開きで十分な隙間があるとは言えません。ミカサの超人的な身体能力ならできるか・・・? いずれにせよ、今ここでやるしか無いのですが。
その時、不意に現れた謎の人影が新たに雷槍を発射。鎧の右アゴを綺麗に撃ち抜き、予定通り喉が丸見えになります。
「今だ!ミカサ!」
げえーっ! お、お前は!! ハンジーーーー!!
頭から血を流している以外は普通に五体満足でピンピンしていたハンジ。ちょっと気を失っていた程度のようです。ミカサはさすがの動きで鎧の腕をかい潜り口元へ到達、即射撃。至近距離での雷槍爆破によりさしもの鎧もうなじを喉側から粉々に粉砕され、ライナーはまるでベイルアウトの如く弾き出されてしまいます。
アルミンの秘策
壁の方へ向かった超大型巨人を止めろ!→よし!とりあえず突撃だ!→壁に蹴り飛ばされて昏倒
往年のジャンプ漫画をリスペクトしたかのような吹っ飛ばされ方で壁に叩きつけられ、意識不明に陥っていたエレンですが、アルミンがある秘策を持って単身で接近。エレンを叩き起こします。
前号までのおさらいです。超大型巨人は動きが鈍重で小回りが効かず、土木工事的なぶちかましは得意ですが敵に接近され立体機動で波状攻撃をかけられると対応しきれない。そのため防御策として「肉体を高熱の蒸気に変えて噴出させ、周囲の敵を吹き飛ばす」という手段を用います。
またエレンの巨人化実験により、連続で巨人化できるエネルギーには限りがあり、本体の疲労や負傷とも関係していることが分かっています。
アルミンの観察によると、目の前にいる超大型は出現時より肉が減って痩せており、長期戦で熱を放出しつづけることは難しいと推測される。そしてエネルギー切れになればすぐには復帰できない。
ここに勝機を見出したアルミンは、エレンと自分だけで超大型を仕留めると宣言。その間はミカサやジャンたちに鎧を引き付けるよう指示しました。ここまでがおさらい。鎧は足止めどころか復帰したハンジの助けもあって撃墜済ですね。
さてトロスト区奪還の時とは違い、壁上で寝ていたエレンはすんなり目覚めます。アルミンは作戦を伝え、ゆっくり近づいてくる超大型に対峙したものの、エレンはバランスを崩し壁から落下。どうやらまだダメージが残っており、立ち上がることすら困難な様子。
それを見るベルトルトの眼は深い暗さをたたえ、そこから感情の起伏を読み取ることはできません。淡々と、目の前の些末な生死にとらわれることなく、全てを諦めたような顔でアルミンへ腕を伸ばす超大型巨人。
アルミンは立体機動で正面から超大型の面前へ接近。ベルトルトは定石通り熱風で応戦、アルミンを吹き飛ばそうとします。超大型は肉体の一部分だけを熱に変換するといった器用なことはできないらしく、頭からつま先までの全身から一気に蒸気を吐き出しており、確かにこれを長時間続けるとなると消費エネルギーはさぞ大きなものだろうと思われます。
アルミンは超大型の顔の中でも、むき出しになっている歯にアンカーを刺しています。骨格部分は熱に変換されないため溶けずに残り、アンカーも抜けずにアルミンは流れるプールに逆らって泳ぐ範馬勇次郎のような状態で固定。
熱と風圧で近づくことはできませんが、吹き飛ばされもしない。昔のクーラーや扇風機についていた謎のヒラヒラ?を思い出します。
(あのヒラヒラの名称はなんと言うのか・・・?)
問題はこれが熱風だということ。具体的にどれくらい温度があるのかは分かりませんが、少なくとも「ジュウウ」と肉や脂が焼ける音がするくらいには熱い。単純に水蒸気(と水滴)だと考えれば100度付近でしょうか。爆弾のように一瞬で高圧高温の爆風を作り出すというよりは、ヤカンの口からシュシュシュと湯気が出ているような印象です。アルミンが熱風の中で数秒以上耐えかつ薄目を開けていられることからして、もうちょっと温度が低いかもしれません。
細かいことはまあ良いとして、超大型は熱風の放出時には筋肉を動かすことができず、直立不動の状態となります。蒸気を止めて手でつかもうとするとアルミンにうなじを取られる恐れがありますので、ベルトルトは意地になってアルミンを吹き飛ばそうとさらに風圧を上げます。発光すらしているようにも見えますね。
アルミンがここまでして悪あがきする意味が分からず混乱するベルトルト。巨人エレンは足元で膝をついたまま動く気配はありません。熱風に晒された髪や服は焼けてなくなり、肌は黒く炭化し、それでも意識のある限り立体機動装置を握ったまま離さないアルミン。利根川の焼き土下座の再来、漫画史上に残る壮絶な焼身自殺です。
「僕が 捨てられる 物なんて これしか 無いんだ」
もはや思考も途切れ途切れな状態でさらに数秒。
アルミンはかつてこう語っています。何かを変えることができる人間がいるとすれば、それは大事なものを捨てることができる人だ。化物をも凌ぐ必要に迫られたなら、人間性すら捨て去ることもできる人だ。何も捨てることができない人は、何も変えることができないだろう・・・と。(7巻27話)
また過去に一度自らの命を投げ出し、さらに人間性をもかなぐり捨てた虚言を弄して、誘拐されたエレンをベルトルトから救い出した実績があります。(12巻49話)
こういった経験を経てアルミンの中でコストとリターンの等式はより確固としたものとなり、成果を得るためには大きな代償が必要であるという現実的な考えが強くなっていったのでしょう。そして事ここに至り、再びアルミンは自分の命をチップにしてエレンの逆転に賭けます。
全身が焼け焦げ、ついにその手を離して落下したアルミン。消し炭となり動かないアルミンを一瞥し、足元のエレンを確保しようと目をやったベルトルトは、ある異変に気づきました。そこにいる巨人エレンは全身硬質化した抜け殻であり「中身」がいないことに。
「殺(と)った」
それは驚くほど静かな描写でした。人間の姿のまま、エレンは立体機動を使い上空へ飛翔。何度も何度も訓練した動きそのままにワイヤーを巻取り、今やエネルギーを消費し痩せ細った超大型のうなじに刃を突き立て、ベルトルトを引きずり出して四肢を切断、変身できないようにしてアルミンの遺体の前に引っ立てます。
身体能力では劣るものの、その卓越した知識と柔軟な発想で何度となくエレンたちの窮地を救ってきた幼なじみ、名軍師アルミン・アルレルト。その身を呈した陽動で超大型の注意を逸らし、エレンが密かにベルトルトの背後を突く隙を生み出すことに成功します。黒焦げで横たわる勇者を前にしてエレンはまだ現実感がわかないのか、やや虚ろな表情。作戦を聞いた時、アルミンの意を決した眼差しからこうなる予感はしていたというのに。
エレンが人間の姿で超大型を仕留めたというのは、本作において象徴的なシーンです。「進撃の巨人」と言えば誰もが思い浮かべる異形の超大型巨人。シガンシナを壊滅させ、何年にも渡る絶大な災厄を人類にもたらした元凶。それに決着をつけたのが巨人の超エネルギーやトンデモ兵器ではなく、最終的には人の手であったこと。エレンとアルミンという二人によるものであったこと。「殺った」というセリフも、1巻で超大型に文字通り煙に巻かれ逃げられた場面との対比になっていますね。
これらの帰結がいかにも少年漫画らしく、努力と友情がリベンジでの勝利に結びついた綺麗な顛末ではないでしょうか。(アルミンの遺体と壁の向こうで全滅したエルヴィン隊から目を背けながら)
つづく
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■アルミン退場か?
さてアルミンですが、これ生きてるのでしょうか? 見た目は消し炭、上半身の服と髪の毛も綺麗になくなっていますが・・・。まさかまさか、瀕死からの巨人薬使用でライナーかベルトルトを食って復活!やったね!なんていう展開が待っているのか?
シガンシナ区内の敵は片付いてるので、エレンが生家に走って地下室を開け、その中に巨人化薬が都合よくストックしてあれば可能性はあります。
この手の漫画は最初にバッタバタと人が死に、悲惨な作風で薄暗い興味や観心を買った後、人気メンバーが固定化されてくると補正がかかって死ななくなると共に緊張感が薄れて消化試合になる・・・というのがよくある問題です。
本作も104期はこれ以上死なないだろうと思っていました。エルヴィンやマルロはともかく、エレン・ミカサ・アルミンの三兄弟が死ぬわけ無いと高をくくっていたのですが、とかく読者の度肝を抜くのが好きな作者です。
しかしながら本作が「タイムリープ」とか「ループ」みたいな概念を抱えているとすれば、死んでいった人たちも何らかの形で救済されるんじゃないかな、なんて薄っすら期待してしまいます。
■ライナーについて
強制排出させられたライナーですが、そのシーンが最後で続きがわかりません。
胸部に穴は空いたものの中身は健在で、時間があればまだまだ再生できそう。これを拘束するには常時大ケガをさせ続けて再生にエネルギーを使わせ巨人化させないという、「亜人」に出てくる不死者向け戦術が有効と思われます。
時間と設備があれば拘束衣で指一本動かせないようにギチギチに固める手もあるでしょうが、ここは敵地。なんせ元気な時にちょっとでも血を出せば変身できるなら何がきっかけになるか分かりません。両手両足を切り落とすなどして再生にエネルギーを使わせ、巨人化できる状態まで回復させない方が現実的でしょう。んで生えたらまた斬ると。エレンがベルトルトにそうしているようですので、このマニュアルは周知されていると思われます。
見開きで喉奥を爆破される鎧の巨人のシーンは重量感や手応えがしっかり感じられ、本作でも指折りのカタルシスが得られる場面になっていますので、もし本誌を手に取られていない読者さんがいらっしゃいましたらぜひ買って読んでください。雑誌だとちょうど爆心が綴じ部になっていて見づらいと思いますが電子書籍なら綺麗に見られます。筆者はもうずっと電子版です。別マガ重いし、捨てるの大変ですしね。