進撃の巨人 ネタバレ考察

(68)壁の王

超大型巨人の倍以上、実に「進撃の巨人」史上最大サイズの巨人と化したロッド=レイス。

彼いわく「最も戦闘に向いた巨人を選んだ」はずが、戦うどころか巨大すぎて立ち上がることもできずズリズリと腹ばいで進むだけ。しかもエレンを食って「叫びの力」を王家に取り戻すという目的すら忘れ、人口が多い街区へ引きつけられて這いよって行く。

丸々と膨れ上がった胴体に比して細い手足を折り曲げている姿は、人というよりまるで巨大なクツワムシのよう。

巨人は体表から樹木を発火させるほどの高温を放ち立体機動での接近戦が困難であるため、調査兵団がとった第一作戦は街区壁上からの一斉砲撃という古典的なものだった。

そのためには巨人が目指すオルブド区の住民は避難させず、囮として街に留まってもらわなければならない。それゆえもし作戦が失敗し壁を突破された場合、第1話のシガンシナと同じ惨劇が繰り広げられることに。

迫るロッド=レイスの巨人。ズラリ並んだ壁上砲台。

調査兵団の戦いはまだまだこれからだ…! ~完~

進撃の巨人 第68話 壁の王
別冊少年マガジン2015年5月号(4月9日発売)掲載

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砲撃戦

いよいよロッド=レイスの巨人が壁上砲台の射程に入りました。駐屯兵の隊長が発する号令にあわせ、弾着を見て数えられるだけでも40門以上の大砲が火を噴きます。

前線から離れた内地で駐屯兵の練度が低いわりに砲撃精度はそれなりに高く、弾着のうち2割程度は巨人の頭部に集中。爆煙が立ちのぼり巨人の姿が白くかき消されてしまいます。

これは漫画的にはノーダメージのフラグ。さらにエルヴィンの口から「さあ…どうだ?」などという「やったか発言」まで飛び出す始末。これは完全に無傷ですわ。これだけで見事に巨人を退治できたらそれはそれで斬新なのですが…。

などという筆者のメタな視線をよそに、固唾を呑んで白煙に目を凝らす兵士たち。そしてところどころ肉をえぐり取られながらも、何事もなかったかのように腕を前に出す巨人。表面的なダメージはいくら与えても無意味で、再生能力を奪うためにはうなじに隠れた本体…巨人の元になっている人間の脊髄…を損傷させる必要があります。

新兵器 大タル爆弾Gてんこ盛り

やはり砲撃戦では致命的なダメージを与えるのは難しい。エルヴィンやハンジらは新兵器を考案していました。

準備されたのはありったけの火薬樽・ロープ・ネット。エルヴィンいわく「靴下に石を詰めた鈍器のイメージ」で、10個以上の樽をネットでくるんでしまいます。これをどう使うのか…?

もう一つの新兵器は立体機動装置と荷車、そして火薬樽を組み合わせた自走式の爆弾。

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エルヴィンはこういった奇策を用いるのが好きで、これまでのセオリーにない戦術を次々と編み出す天才といって良いでしょう。遠征のスタンダードとなった長距離索敵陣形を発案したのも彼ですし、女型の巨人を拘束したワイヤー砲撃装置も(結果的に失敗したものの)非常に有効な兵器でした。今回もこれらのアイディアが噛み合って戦果を得られることを期待したいところです。

ヒストリアの成長、いじけ癖の抜けないエレン

新兵器についてひととおり命令を終えたエルヴィンはヒストリアの横に立ち、王家の跡継ぎである彼女が前線で身を晒すことを諌めます。

対してヒストリアは、名ばかりの王では意味がない、民衆の支持を得るために考えがあると答え、エルヴィンを説得しようと言葉を尽くします。

そんなヒストリアの様子を傍目に見ながらタル爆弾をネットで包むエレン。

これまでヒストリアが弱い人間だと思っていたのに、彼女は自分のやるべきことを見つけ、自らの意志で立ち上がって前に進もうとしている。それに対しエレンは己の心が弱く幼稚であることに気が付きます。自分はスペシャルな巨人化能力を持つという自惚れから調子に乗り、その力を行使することに酔っていただけではないか…?

エレンはグリシャから継承した「叫びの力」を持っているものの、王家ではない一般の器ではそれをフルに発揮することができない(と現時点では考えられます。本当かどうかわかりませんが)。死してヒストリアにそれを返せばきっと世界は救われるのに、ヒストリアはそれを拒否しエレンを生かすことを選びました。現状、エレンが今のままで叫びの力を自由にコントロールし活用するための糸口は見えていません。

叫びの力がなくとも、エレンが人類として最強の戦力であることには変わりありません。(リヴァイやミカサが本気で殺しに来たら負けてしまうでしょうが、再生・硬質化・大岩を持ち上げるといった、巨人にしかできないことが多くあります)

それだけの存在を身中に宿しながら、無力感に苛まれる主人公。早いところこの枷を取っ払ってあげる材料が欲しいですね。エレンがその「壁」を乗り越えた時がおそらくこの物語のクライマックスとなるのでしょう。

火薬満載の大タルを軽々と担いで運ぶメスゴリラ(※ミカサ)を呆然と見つめるエレン。彼女の怪力に驚いているのかと思いきやそうではなく、ミカサを見て「あの日」のシガンシナが脳裏に再生されていました。

母親が巨人に食い殺されるのを黙って見過ごすしかなかった無力な自分。目の前の巨人を駆逐できるだけの力をエレンはすでに持っている。なのに今ここで自分が迷ってフラフラしていたら、オルブド区の壁が壊れてあの日と同じことが起こるに違いない。

街路から好奇心と不安に満ちた眼差しで上を見上げる子供たち。

エレンはいじけている場合ではないと悟り、自分の顔面グーパンチ。中二的な喝の入れ方で気持ちを入れ替え、これからの作戦に臨みます。

巨人ロッド=レイスはすでに外壁に密着するところまで接近していました。これだけ角度が取れればうなじへの集中砲火もある程度効果があります。このまま押しきれるか?

シガンシナ区の再来

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次弾装填を急かす駐屯部隊長ですが、天運がなかったのかここで風向きが逆転。巨人から立ち上る高熱の蒸気や爆煙が壁上に流れ込み、視界を遮ります。見当をつけて闇雲に砲撃したものの、壁を揺るがす巨大な衝撃に足元がふらつきました。巨人の頭が壁にぶつかったのです。

巨人ロッドレイスは壁を手でつかみ、それを支えに立ち上がりました。

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人間で言うとヘソの辺りから上が見えており、首だけ覗かせていた最初の超大型巨人より圧倒的に大きいことがはっきり分かります。

初めて見せたその全身は、まさに異様。重すぎる体を引きずって進んだため、体の前面がこそげ取られてスライスしたようになっています。目玉はなくただ暗い眼窩があるのみ、鼻や口があるべき場所にはただぽっかりとトンネルが開いているだけ。胸から腹部にかけては内蔵のようなものが見え、消化器官はないはずなのに腸も詰まっていました。

壁の上に姿を現した巨人を驚き見上げる街の住民たち。即座に大パニックが起こります。まさにシガンシナの再来。

エルヴィンの博打

あの日のシガンシナと違うのは、対巨人の実戦経験を豊富に積んだリヴァイ班、巨人化能力を持つエレンが控えていること。作戦は第二段階へ移行、これよりリヴァイ班が実働開始します。

頭から水を被り最低限の熱風防御をしたリヴァイ班が、先ほどの自走式タル爆弾を用意。狙うは壁をつかんだ両手の支えとなる、手首の部分。

サシャとアルミンがそれぞれ左右からワイヤーアンカーを手首に打ち込み、装置を起動。ワイヤーが巻き取られてタル爆弾を載せた荷車が自動的に巨人の手首へ密着すると、その高熱で爆発。手首の肉が吹き飛び、支点を失った巨人は大きく体勢が崩れます。

両手を使えず胸から壁の上に寄りかかる格好となり、さながら断頭台に首を晒した囚人のようなロッド=レイス。そこへ突っ込むのは、ネットでくるんだありったけの大タル爆弾を背負った巨人エレン!

強大な火力で内側から木っ端微塵にする作戦は大当たり。巨人の口が都合よく開いてくれるかどうかがこの作戦を左右する賭けでしたが、エルヴィンは見事に勝利。天を衝く衝撃と爆風でロッド=レイスの胸から上は跡形もなく爆散します。

空中へ飛び散っていく肉片のどれかに、うなじの本体部分が紛れているはず。それを確実に仕留めない限り、また巨人は再生します。この一瞬が最大最後のチャンス。

一斉に飛びかかる調査兵団の精鋭たち。まだ高熱を発する肉片に思い思いに斬りかかりますが、特にこれといった手応えはありません。

その中で一人、ヒストリア。親子の血のつながりがなせる業なのか、彼女がひとつの肉片を切断した瞬間。父の記憶の断片がフラッシュバックし、残っていた巨人の体躯が激しい光とともに崩れ去ります。彼女がうなじの弱点、本体を仕留めたのです。

新たな王の誕生

記憶フラッシュに当てられたのか、街の馬車の荷台に仰向けで倒れこんでいるヒストリア。どこからが現実でどこからが妄想なのか区別が曖昧になっているようです。

彼女の周りへ集まり、それぞれに声をかける兵士や住民たち。ヒストリアが巨人にとどめを刺した兵士であることは認識しているようです。

ヒストリアは荷台の上でゆっくり立ち上がり、己の本名と、真の王であることを宣言。彼女が立つ新たな舞台にしては簡素すぎる馬車の荷台で、次にどのようなセリフを紡ぐのでしょうか?

次号へつづく。

メモ

カタストロフィ感満載で登場した割には意外とあっさり滅んだ最大の巨人、ロッドレイス。BLEACHならこの戦いが終わるまでに3年はかかった。

構図が何かに似てると思ったらモンハンのラオシャンロン。タル爆弾で迎撃するところもそれを想起させる。

第一話とのシガンシナ襲撃と対比させる作りになっているが、あまりにも呆気無く巨人を撃滅したのを見てあたかも「ゲームの二周目」のような印象を持った。

追い散らされただただ捕食されるだけだったあの日と今とでは戦力や練度に明らかな隔たりがある。主要な登場人物もほぼ死ななくなっているし、もはや普通の巨人では大して脅威とは感じないだろう。そういう点ではバトル漫画的なインフレに陥りつつあるのではないか。ドラゴンボールで言うと「まるで巨人化能力者のバーゲンセールだな」といったところ。

 

さて、この巨人ロッド=レイスは一体何だったのだろう?

レイス卿は元々、最も戦闘向きの巨人だとして選んだ薬をヒストリアに使うつもりだった。それを自分がヤケクソでペロペロ舐めて巨人化したらこの有り様。お世辞にも美しいとは言えない。

そして人としての理性をなくし、目の前にいたエレンを捕食する目的も忘れた。より多くの人が集まる場所へと進むだけの、誘蛾灯に吸い寄せられる夏の虫のような存在になってしまったのだ。

その行動には彼や一族の意志・記憶が反映されているようには見えず、戦略的な意図があるようにも思えない。図体が馬鹿でかいだけで本質はモブ巨人と一緒だ。

なぜこうなってしまったのか? レイスが予期せぬ何らかの機能不全を起こしてしまったことは疑いようがないが、その原因は今のところ不明。

 

ヒストリアに注射をしたらレイス卿と同じタイプの巨人になったのだろうか?

エレン・ライナー・アニの面々は巨人化しても人間の時の外見的特徴を多少引き継いでいる。コニーの母ちゃんもそうだった。

一方でユミル、ベルトルトらはほとんどそういった要素はない。これが薬によってもたらされる特質の差なのか、あるいは多少なりとも本人の意識や性格によるものなのか定かでない。仮にヒストリアに注射をして今回のような醜い巨人になってしまったら、王家としても読者としても大損失であっただろう。その点ではブサイクに変身して死んだのがダメ親父でホッとしているところだ。

少なくとも今わかることは、巨人化薬を用いても完璧に思い通りの結果が得られるわけではなさそうだ、ということ。ロッドレイスが狙ってあの這いよる奇行種になったとは思いがたい。事故のリスクがあり、単に強大な力が手に入るだけの便利な道具ではないと考えられる。

今回の記憶フラッシュによるとヒストリアの母親の名はアルマ。筆者の記憶にはないが、すでにどこかで出ていたら申し訳ない。

 

今日は単行本16巻が発売になっていますね。収録範囲は66話までです。

進撃の巨人(16)

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別冊少年マガジン(毎月9日発売)で連載中、
「進撃の巨人」のネタバレ感想ブログです。

ネタバレには配慮しませんので、ストーリーを楽しみたい方はご注意下さい。

※フラゲ速報ではありません。本誌発売日の夜に更新することが多いです。

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