「進撃の巨人」史上最大サイズの巨人と化したロッド=レイスはしめやかに爆発四散。散らばる肉片に紛れた実父の「本体」にその手で止めを刺したヒストリア。
調査兵団と巨人エレンの活躍でオルブド区はシガンシナの再現を免れ、ヒストリアは真の女王としてクーデターの神輿となることを決意したのであった…。
進撃の巨人 第69話 友人
別冊少年マガジン2015年6月号(5月9日発売)掲載
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ケニー・アッカーマンの回想
今回はケニーの回想が中心。リヴァイの出自がついに明らかになります。
ケニー・アッカーマンについて軽くおさらいしましょう。
- 王族によって迫害されたアッカーマン家の末裔
- 幼少期のリヴァイと暮らし戦闘を仕込んだ
- 切り裂きケニーと呼ばれ恐れられた憲兵殺しの犯人
- 中央憲兵の対人部隊として暗殺を担当しており、ヒストリアの母も殺害
- クシェルという妹がいる
- 巨人の持つ叫びの力や記憶操作と、その継承の儀式について知っている
- 自分が叫びの力を得ようと画策したが、教会地下洞窟の崩落に巻き込まれて生死不明
地下結晶洞窟の下敷きになって死亡したかと思われましたが、回想が始まることから生きていたようです。
これは彼が憲兵殺しから転身し体制側につくことになった理由を明かすエピソード。
開幕、彼はすでに巨人の腕によって拘束されていました。巨人の主はウーリ。これまで主に名前しか登場していませんでしたが、ロッド=レイスの弟でありフリーダ以前に叫びの力を継承していた人物で、ヒストリアの叔父にあたります。
ウーリはそれなりに巨人の扱いに習熟しているらしく、巨人の上半身を操って難なく刺客であるケニーを捕縛。町外れの街道で荷馬車に乗っている時を狙われたようですが、護衛もないオッサン二人を奇襲で殺せないとはケニーが舐めプレイだったのかロッド&ウーリが意外と凄いのか。
ウーリは巨人の力を行使してケニーを操ろうとしますが叶わず、目の前の敵がアッカーマンの人間であることを察します。苦し紛れに泣き喚きながらナイフを投げつけるケニーをウーリは解放。真の王は、アッカーマン家が王家を恨むのはもっともだと理解を示し、どうか許して欲しいと地に付して頭を下げます。
目の前の王は自分より遥かに強大な力を持っていて、あのまま巨人の腕で熟したトマトのようにケニーを握りつぶすことは容易でした。なのに一度は囚えた刺客を解放し頭を下げる。ケニーには理解できない行動です。強いか弱いかでしか物事を測れず暴力で相手を蹂躙することが全てだと信じていたケニーは、このウーリの姿になぜか心を動かされ、彼の力になりたいと申し出たのでした。
↑65話より。ケニーが従っていたのはウーリであり、ロッドのことは別になんとも思っていなかった。
こうして体制側に転んだケニー。それだけでアッカーマン一族は追われる身でなくなったようですが、そんなに簡単に和解できるなら別に迫害なんてせず、高待遇で手駒にしておけばよかっただけでは…。
アッカーマン家はもともと王家側近の武官だったはず。記憶操作が及ばない彼らを過去の王が不穏分子として恐れたようですが、だから一族皆殺しにしろー! というのはいささか幼稚なやり方に思えます。事実、刺客として差し向けた憲兵はことごとくケニーに返り討ちにされていて、どう見てもコストが合わない。
思想統制できないから困るとはいえ、ケニーの祖父の様子を見るに真の歴史が伝わっているわけでもなく、積極的に政治活動をしそうにも思えません。放っておいても別に問題ないのでは…? 案外、王家からすると振り上げた拳が引っ込みつかなくなっただけで感情的な問題だったのかもしれませんね。
リヴァイの出生
さて、晴れて王家子飼いの犬となったケニーは殺人犯として追われることがなくなり、街を堂々と歩けるようになりました。そんな彼が向かったのは、妹・クシェルが働いている娼館です。
↑65話より。彼女は偽名を使って地下へ潜り、アウトローな世界に身を置いていた様子。迫害を恐れた結果でしょう。今回ケニーが会いに行ったのは、もう憲兵に怯える必要はないと伝えたかったのでしょうか。
クシェルは性病のためか、あるいはそれが原因で娼婦として生計が立たなくなったためか、いずれにせよ既に死亡していました。遺体はベッドに放置されています。腐敗は見られないので死後数日といったところでしょう。
部屋の片隅にはまるで幽霊のように生気を感じさせない子供が一人、床に座り込んで動かずにいました。名はリヴァイ。母が「死んでる」と理解していることからそれなりの年齢(6~7歳?)にはなっていると思われます。ここでリヴァイがケニーの妹の子、すなわち甥であることが判明。アッカーマン分家のミカサとは遠縁にあたります。
ケニーはそれからリヴァイと共に生活し、彼に地下街で生き抜く術を教え込みます。官職の身分になったケニーならリヴァイにいわゆる「普通の」教育を与えることもできたかもしれませんが、あえてそうしなかったのは彼の人生で得た教訓・・・強い者が偉い・・・という考えのせいでしょうか。
そんな暮らしを続けていくうち、リヴァイはいつのまにか地下街に似つかわしいゴロツキになっていました。自分よりずっと体格のいい大人に、目をぎらつかせながらナイフ一本で立ち向かっていく。まるで漫画「ヴィンランド・サガ」のトルフィン=カルルセヴニのようです。
そんなリヴァイの様子を遠巻きに見ていたケニーは、そっと背を向けその場から歩み去っていきました。そして長い月日が経ち、彼らが再会したのはつい最近のことです。地下街でその後リヴァイがどんな生活をしていたのかは、外伝「悔いなき選択」にその一端が見て取れます。
簡単にまとめると、チンピラ仲間と一緒に立体機動装置を手に入れて暴れまわっていたところをエルヴィンらに捕縛され、助命と引き換えに調査兵団入り。そして仲間と死別しながらも自分は生き延び、気がつけば巨人討伐のエースになっていたというわけ。
ケニーの願い
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幾ばくかの年月が過ぎ、ウーリは老いていました。継承の儀についてケニーに秘密を明かすウーリ。
「ケニー…この世界はそう遠くない未来 必ず滅ぶ」
「そのわずかな人類の黄昏に 私は楽園を築きあげたいのだ」
このセリフから、叫びの力では世界の終焉を止めたり回避したりできないということがわかります。王家の持つ知識と力では人類を生きながらえさせることはできず、秩序だった楽園を作ることで苦しむことなく最期を迎えられるように努めること、それが王の使命だと言わんばかり。そしてその手段が壁の中に人類を押し込めることであり、巨人誕生の歴史を隠すことであり、巨人を滅ぼさずに脅威のまま留めおくことなのです。
そしてウーリの力はフリーダに継承され、ケニーはその力に興味を持つようになります。それは単に己の欲望を満たすために権力を求めるのとは趣向が違いました。彼はウーリの考えたことが知りたかったのです。
暴力によって支配される、残酷で美しい世界。力のないものは地下でゴミと下水を漁り、強いものに媚びへつらうしかない現実。壁の外を闊歩する巨人に脅かされる毎日。そんな世の中にあって、人類のため? 平和のため? 一体どうしたらそんな寝言が吐けるようになるのか。退屈な現実から逃れ、高みから見下ろすような思考に至れるのか。それが知りたい。だから巨人の力が欲しい。そしてその力があれば、世界の盤上全てをひっくり返すことができる。壁の中で巨人に怯えて暮らすだけの無意味な人生に別の意味を与えることができる…。
そして彼はその思想に賛同する部下を増やし、継承の儀が執り行われるその日を待ち続けます。ウーリが生きていたのは少なくとも5年以上前のことですから、割りと気の長い計画です。
ケニーは自分が巨人になり叫びの力を横取りしようとあれこれ策を講じましたが、結果はご存知の通り。叫びの力は王家の人間でなければポテンシャルを引き出せず、ケニーは長年の計画がご破算となり半ば自暴自棄でエレンを解放。ヒストリアに裏切られたロッドが巨人化すると、その衝撃で崩れた洞窟の下敷きに…。
木立の中、針葉樹の根元に体を預ける黒衣の男がいました。
彼の名はケニー。重傷を負い、すでに息絶える寸前です。もう助からないと声をかけるリヴァイに、ケニーは唇の端を歪めて懐から注射器を取り出します。ロッド=レイスの鞄から抜き取った巨人化薬でした。
これを打てば、ひとまず巨人になって延命はできる。ただし適当な贄がいないので人間の姿に戻ることはできませんが…。
結局ケニーは注射器を使うことはせず、今ならウーリのやったことが分かる気がするとつぶやきます。それが具体的にどういった心境かは判然としませんが、彼は巨人の力がなくとも友人の気持ちを理解することができたようです。
今際の際、リヴァイは母とケニーの関係を問いただします。ケニーは自分がリヴァイの母の兄だと告げ、注射器をリヴァイに託すと、そのままもう二度と動くことはありませんでした…。
戴冠
場面は変わり、王都。群衆の見守る王宮前広場の壇上で、王たる証の宝冠を戴くヒストリア。
これまで民衆は彼女の存在を知らなかったのでポッと出もいいとこなのですが、巨人ロッドを撃滅したことから民衆は彼女をすんなり支持しているようです。チョロいな…。
さてこれでようやくクーデターが成り、壁の中に調査兵団の邪魔をする者はいなくなりました。
ヒストリアや104期の面々は人心地がついてのんびりしていますが、さっさと目的遂行に向けて行動してください。
すなわち、王家によって秘匿されていた情報へのアクセス。およびシガンシナにあるイェーガー宅への遠征です。
世界の記憶、真の歴史そのものは叫びの力とセットでありエレンの中にある状態ですが、壁教や王族が持っている情報は他にもあるはず。次号でその何片かが明かされることを期待しましょう。