始祖の力を手中にし、ついにその本心と目的を明かしたエレン。
彼が望むのはパラディ島に住むエルディア人の生命を守ることであり、そのためには全世界を地ならしの災厄で滅ぼしても構わないと考えていたのだ。
島内の壁を全て崩し、人柱となっていた大型巨人の大群を呼び覚ましたエレンは、かつて見たことのない異形へと変じ仲間の元を去る。
世界の滅びを止めるため、残された人間たちには何ができるか──。
進撃の巨人 第124話 氷解
別冊少年マガジン 2020年1月号(12月9日発売)掲載
激震のシガンシナ
シガンシナの情勢は混迷を極めております。
エレンは座標の砂漠にて始祖ユミルに会い、真なる始祖の力を掌握したものと思われ、パラディに存在する全ての壁の硬質化を解除し、中に眠っていた大型巨人の群れを呼び起こしました。続けてその全戦力を大陸へ向け、パラディ島以外の全てを地ならしで灰燼に帰し、敵対しうるすべての人間を駆逐すると宣言しています。エレン本人は異形の超超大型巨人(というよりは何か別の生き物)の骨格へと姿を変え、海へ向かって進行中。その全貌や表情はいまだ窺い知れません。合図一つで壁を崩し、巨人にもユミルの民にも干渉できる、もはや神に近い存在と言えるでしょう。
シガンシナ市街では、ジークが叫びによって巨人化させた呑み助の元パラディ兵士たちがマーレ兵を狩り尽くし、その矛先を友軍へと向け始めます。ジークはエレン復活時に至近距離にいて現在は生死不明。ジークの命令を聞くはずの巨人たちが無秩序に暴れている理由とジークの所在がわからずイェレナは困惑し、建物は群がる巨人たち(元ピクシスも含む)に制圧されそうになりますが、救援に駆けつけたミカサ、ジャン、アルミンらによって救出されました。さすがに無垢の巨人の集団に遅れを取る彼らではありません。さらばピクシスよ。あの世でザックレーと観戦してな。
ジークが倒れ計画が瓦解してなすすべのないイェレナはもはや無力な羊でしかなく、壁の崩落から命からがら脱出してきたフロックに銃を向けられます。義勇兵を全員集めろ、拘束する。フロックは苦い顔のジャンを尻目に、部下へ指示を出すのでした。
別の場所では、うあああああ助けてえええ!と絶叫をあげ、今にも巨人に食われそうになっているメガネボウズの姿が。その巨人を背後から一刀のもとに斬り伏せたツルッパゲの老骨、キース=シャーディス元調査兵団長。生命を救われ「シャーディス教官!」と涙を流して心酔するメガネボウズは、113話あたりでシャーディスのやり方は古い、これからはイェーガー派の時代だね、巨人もいなくなったのに立体機動の戦闘訓練とか意味ある?wと吹聴していた彼です。フロックに促されキースを集団リンチしてイェーガー派入りを果たした後、脱獄したジャンに凄まれてチビりそうになった挙げ句、名もなき下っ端として巨人の胃袋に収まるところだった模様。
そんな跳ねっ返りの若造をもキッチリ救い、オヤジの懐の深さを見せつけたキース。内心では「決まった…! 一生頭の上がらない恩師ポジションゲット!」と最高にドヤっていることでしょう。見てるかグリシャ。今日、お前の友が恩師になったぞ…。ちなみについさっきまで「熊と戦った」と言って全身ズタボロで寝てたはずですが、ピンピンしてますね。実は巨人なんじゃないの?w 恩師ポジ獲得のためなら傷くらい治すわという根性、さすがは暗黒時代に調査兵団のトップを張っただけはあります。
エレンの「演説」は道を通してマーレ大陸のユミルの民へも届き、住民たちは巨人が攻めてくるという集団白昼夢により軽いパニック状態です。
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ガビ
世界でその力を一番持っちゃいけないのはエレン、お前だ…。かつてライナーが予感した通り、始祖の力を手に入れたエレンは世界そのものを破滅へ導く魔神となりました。エレンが道を通じてすべての硬質化をキャンセルしたことでライナーは鎧を使えなくなり、崩れる壁からガビを庇って負傷。ただの人間同然になっています。またエレン覚醒を防げなかったことに大きなショックを受け、精神的な消耗も顕著です。その表情は諦念が濃く、もう逃げることしかできないと弱音を吐いてそのまま倒れてしまいました。
それでもガビの瞳はいまだ光を失わず、気絶したライナーを近くの民家に隠すと、バサつく髪をポニーテールに結い上げ、コルトの遺品となった対巨人ライフルを背負って市街へ赴きます。連れ去られたファルコを取り戻すために。
ガビの視界に、巨人に襲われる一人の少女が現れます。少女の名はカヤ。サシャの「走らんかい!」で命を救われ、ブラウス農場でガビを匿い、その後サシャの仇だと知ってガビにナイフを振り上げたあの子です。カヤはナイル=ドークの成れ果てと思しき巨人に襲われて捕食寸前のところを、真正面からブチ抜くライフルの轟音に救われました。なおも食い下がる元ナイルに対し、ガビは吶喊して長物でのゼロ距離射撃を敢行。見事に口腔からうなじを爆裂させます。普通なら肩や腕にフィードバックが来てズタボロになりそうなもんですが、さすが戦士候補生の鉄砲玉。無傷でピンピンしていますよ。立体機動を使わずに生身の1対1で巨人を倒せる人間は、作品史上かなり稀です。重火器を持っているとはいえ、狙撃も突撃もできるガビは戦闘時のメンタルが強すぎる。
カヤは自らを助けてくれたポニーテール姿にサシャを想起しますが、ガビだと知って居心地の悪そうな顔。ついこないだ感情に任せて背後から刺し殺そうとした相手ですからね。しかしカヤはパラディ兵士に見咎められたガビを家族だと庇い、避難する道すがら互いに「なんで庇ったの?」「さあ…」みたいな会話をポツポツと交わすのでした。
ガビはパラディで見聞きした経験からすっかり自責的になってしまい、悪魔は私だった…などとカヤに謝る始末。この子は良くも悪くも世間知らずで純粋。依存する対象からの影響を強く受けやすいんですよね。能力は非常に高いものの、視野が狭く思い込んだら周りが見えなくなる猪タイプです。
以前グーパンでガビの顔面をボッコボコにして肉切り包丁を突きつけ、サシャの仇だから殺すと宣言したニコロとも、なんか深みのある的な会話を繰り広げるガビ。こいつはやはり普通のメンタルじゃない。ニコロは「悪魔は俺の中にもいる…」などと格好つけてますが、いやお前はその通りだよw しかもニコロはジーク汁を兵団に蔓延させた正真正銘の戦犯だろ!何しれっと善良なお兄さん的ポジションに収まってんのと問いたい。こいつのメンタルもかなりのもの。
わずか数十分くらい前に、捕虜となったファルコを路地裏でガビに託し、ここは子供の来る場所じゃないから帰れと逃がしたナイルが、巨人となってカヤを襲い、そしてガビに討たれる。なんとも後味の悪い展開ですね。ガビはあの時の兵士だとは気づいてないでしょうけど…。
コニー
104期たちは、巨人化が解けて意識を失った状態のファルコを捕虜として抱えたまま、民家の屋根の上で小休止です。事ここに至り、エレンが地ならしで世界人類を壊滅させてしまえば戦争もへったくれもねえ、全部おしまいだといった風情。ジャンいわく、外の連中がパラディ島民を世界の脅威だと決めつけて滅ぼそうとしたから、却ってそれが事実になってしまった。攻め寄せる大陸軍に立ち向かうにあたり、エレンは安楽死計画を拒み、ヒストリアを犠牲にすることも拒み、友を仲間を守るために一人で考え抜いた結果、皆殺しという最悪の決断をした。エレンの根っこは変わっておらず、仲間思いで自分だけ突っ走る死にたがりの直情馬鹿そのままだったというわけです。
あのバカヤロウ、コンチクショウ…!と感傷に浸る間もなく、ジークが巨人化させたパラディ兵士たちが、味方であるはずの調査兵団を襲い始めます。エレンの始祖の支配が及んでいないことを訝しむアルミンですが、深く考えている暇はありません。目の前の巨人を殲滅しなければ。
この緊迫した状態にも関わらず、ファルコの処遇を巡ってコニーとアルミンが小競り合いを始めます。ファルコはガリアードから顎の巨人を継承しており、彼を巨人に食わせることで人間に戻すことができる、生きた解呪アイテムと呼べる存在。ジャンはピクシスに食わせることを考えたようですが、コニーは自分の母親にと譲りません。驚いたことに、コニーの母ちゃんはあの状態のまま4年間ずっとラガコ村跡で寝たきりで、コニーは頻繁にそれを見舞いに通っていたそうです。自力で起き上がれない状態とはいえ、巨人を生かしてそのまま置いておくのはかなりリスキーだと思うのですが、コニーも数多の激戦を生き延びた英雄として兵団内で発言力があり、わがままが通るのかもしれません。ハンジがコニーのために巨人研究といった名目でラガコ村に監視施設を作ってたりするのか? まさかあのまま野ざらしで放置しとくわけにも行くまい…。
しかしファルコを殺せばピークやライナーを刺激して余計な火種が増えると懸念するアルミンに対し、お前もベルトルト食っただろうがと痛い所を突くコニーです。口論でコニーがアルミンを制する貴重な場面。アルミンの場合は自分の意志ではなくリヴァイのわがままの結果ですからそれを責めるのは酷ですけど、まだ負い目は消えてなかったようでアルミンは絶句。アルミンはエルヴィンとの天秤だったために以前フロックとも揉めてましたが。
そんなこんなで議論してる間に巨人が接近し、彼らを攻撃してきました。そのどさくさでコニーはファルコを抱えて逃走。話し合いでの決着が難しいと察したコニーはこの場を離脱するつもりでしょう。行き先(ラガコ村)がバレてるので追手がかかれば何もできないでしょうけど、そうした後先に思いが至らないのが必死さの表れですね。
氷解
さて、元ピクシスを雷槍で吹き飛ばすなどして巨人を制圧した後ブラウスたちと合流したアルミンは、そこで同行していたガビと再会します。コニーを追跡するのは諦めたんでしょうか。
ガビからもう戦意はない、ファルコを返して欲しいだけだと懇願されたアルミンですが、コニーの目的と母親の境遇について説明します。始祖奪還作戦の威力偵察で生まれた悲劇、それもカヤやサシャを襲った理不尽とつながっている事実を知りガビは絶句しますが、それでもファルコを諦めるわけにはいきません。鎧の硬質化を無効にするくらい細かく自由に制御できるエレンなら、始祖の力で無垢の巨人を人間に戻せるに違いない、エレンに頼んで欲しいと食い下がりました。
しかしガビの必死の訴えを聞いたアルミンは、硬質化が解かれたという言葉で別の場所に考えが及びます。全ての巨人の硬質化が無効になるということは…「彼女」が眠りから覚めるのではないか…?
その考えは図に当たっており、地下深く結晶の中で眠り続けていたアニ・レオンハートが、人知れず息を吹き返していました。
エレンが指摘した、アルミンの中のベルトルトの記憶がどう作用するかは注目したいところです。人格が記憶の連続性によって作られるなら、今のアルミンの一部はベルトルトのもの。事実、ガビが硬質化の話をしてからアルミンは明らかに動揺し、心ここにあらずの様相。ファルコやコニーなんてどうでもいいと言わんばかり。こいつアニと組んで何かやらかしそうな臭いがプンプンするぜ。
彼女は4年間ずっと結晶の中にいたわけですが、肉体年齢や記憶は止まったままなんでしょうかね? 寝て起きたら4年過ぎていて浦島太郎になっている場合、彼女が捕縛された時と情勢が変わり過ぎていて理解するのが相当しんどそう。女型が暴れて捕まったのなんて8巻ですよ。壁外調査がどうたら言ってた、世界地図がちっちゃかった頃の話。起きたら始祖奪還作戦はとっくに終わってた!? マーレの存在はみんな知ってる!? それどころかパラディに飛行船で攻めて来た!? 調査兵団が港を作り、飛行船でレベリオ区を襲って戦士隊を撃破!? クリスタが王家の血筋で今の国王!? ベルトルトは負けて死に、アルミンが超大型を継承!? あの時「顎」を奪ったのはそばかすユミルだったけどもう返してもらった!? ジークが裏切ってパラディへ亡命!? 始祖を持ってたのはエレンで、壁を全て消した!? など、さすがのアニでも卒倒せんばかりの驚きの連続です。
しかし今ここでアニが出てきてどんな影響があるのでしょうね。女型がマーレ側に加勢しても戦力として今さらできることはさほど多くなく、ちょっと暴れて街を壊す程度。硬質化できない女型なんて雷槍の集中放火でおそらく瞬殺ですよ。格闘以外で彼女の能力は無垢の巨人に叫んで命令することと長距離走ですから、例えばアルミンを担いでエレンのところまで走って届けるといった役回りが考えられるでしょうか。飛行船がすぐ出せるならまったくもって不要ですけども。これから知識や能力で目立つというよりは、人間関係に一石を投じるキーパーソンなのだと思いますが…ここまで復活を待たせたからには活躍に期待したいですね。
つづく
(メモ)「九つの巨人」の所在
始祖…エレン
進撃…エレン
戦鎚…エレン
鎧…ライナー。始祖の力で硬質化を強制解除され無力化。本体が重傷で動けず民家に避難。
顎…ファルコ。本体はコニーに拉致された。コニーは巨人化した母親に彼を食わせようとしている。
車力…ピーク。壁の崩落に巻き込まれ、背に乗るマガトと共に消息不明。
女型…アニ。始祖による硬質化の一斉解除コマンドを受信して意識を取り戻した。
獣…ジーク。至近距離でエレンの覚醒を見た後、生死不明。
超大型…アルミン
今回気になったこと
・ジークが叫びで巨人化させた連中をなぜエレンは放置しているのか