座標の砂漠で始祖ユミルをフリッツの呪縛から解き放ち、ジークを振り切って絶命寸前に現実へ帰還したエレン。
閃光が走り、爆発とともに巨人エレンが再臨する。
時を同じくしてシガンシナの壁は崩壊し、中から無数の超大型巨人が姿を現す。
噴煙の向こうにミカサたちが見たものとは…。
進撃の巨人 第123話 島の悪魔
別冊少年マガジン 2019年12月号(11月9日発売)掲載
エレンが訣別した日
ん?(ペラッ)
あれっ?(ペラッ、ペラッ)
まーた過去編かよ~~~~~wwwwww
始祖ユミルの過去と巨人化能力の由来が明かされ、エレンが彼女をフリッツの呪縛から解き放ち、「座標」から帰還して巨人化、ついにシガンシナの壁が崩れ、中から大型巨人の群れ・現出す!!
という最高にクライマックスなところで前回は終わったわけですが、今回はのっけから汽船に揺られてクルーズを楽しむ、エレンたちの記憶の断章。
メンバーはエレン、ミカサ、アルミン、ジャン、コニー、サシャ、リヴァイ、ハンジ。着慣れないスーツにネクタイ、加えて山高帽といった出で立ち。航路はパラディからマーレです。
サシャの言によれば「私達が壁外の地を踏む初の壁内人類」とのことで、時期としては義勇兵らの力でパラディに港が建造され、キヨミとの非公式会談が持たれた後。ちょっと今正確に年代が出てこないんですけど、エレンが単独でレベリオに潜伏する直前の出来事ですね。
港ではオニャンコポンが彼らを出迎えました。アズマビト家の屋敷へと向かう道すがら、港町を見物してまわる一行。
賑わう通りでは見るのも聞くのも初めての物ばかりで、主に食べることに関して興奮と欲望を隠せないサシャやコニー。あのミカサですらアイスクリームをコーンで買い求め、初めての食感に嬉しそうな顔をしています。地獄のような訓練と戦いの日々の果てに、彼女にもこんな普通の女の子らしい平穏な時間が来ようとは。じーん…。
そんなおのぼりさん一行の隙を見て、街角でスリをはたらいた一人の少年がいました。直後にリヴァイに締め上げられた彼は、異民族であることを根拠に群衆から「ユミルの民」の嫌疑をかけられます。「海へ放り投げろ」「右手をへし折れ」「通りにしばらく吊るしておこう」商売人たちは口々に残虐なリンチの方法について提案を始め、スリの被害者であるサシャが制止しても聞く耳を持ちません。結局、言葉でその場を収めることは不可能であり、見かねたリヴァイが少年を小脇に抱えて走って逃げる始末。少年はちゃっかり財布をにぎったまま丘の向こうへ姿を消しました。
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その夜、邸宅で一行を歓待したキヨミによれば、かつて隆盛を誇ったエルディアと関係を強固にするため諸国はこぞってエルディア人との混血を進めたが、エルディアの衰退とともにその血統は悪魔の末裔として排斥の対象となっているらしい。マーレはかつてエルディアによる民族浄化政策が行われたと教育していますが、実際には各国の支配層が進んでエルディアとの婚姻・融和を進めてその庇護に与ろうとした…といった方が適当かと思われます。貴族階級だけでなく平民でも混血が進んだ結果、世界中にユミルの民が潜在しており、それらをあぶり出して「区別」するのが一種の流行であるようです。
またこの時期においてマーレはパラディ島での始祖奪還作戦の失敗により何体もの巨人の喪失し軍事力が低下。それを好機と捉えた周辺諸国連合との戦争に突入しています。国境周辺で戦災難民が多数発生しているのは無理からぬことで、それらの人々がマーレへ流れ込んだ場合、マーレの国民感情としては余計に面白くないというのも当然でしょう。
こうした人種差別がごく当然のこととして市井に受け入れられている以上、パラディ側から開国して友好を望むことは非現実的だ、というのがキヨミの意見。彼女は以前ジークと会っており、氷爆石(立体機動装置の動力源となるパラディ固有の地下資源)の情報と引き換えにジークの秘策(表向きには地ならしでパラディを守ること)へ協力するよう要請されていますが、そうした利権を抜きにしても和平というのは雲をつかむような話に思えます。
対する現実論はジークとキヨミがパラディ首脳へ突きつけたプランで、「地ならしによる示威・ヒィズルの支援を受けて近代化・ヒストリアと子孫に「獣の巨人」を継承させる」です。これはヒストリアと子供を未来に渡って犠牲にするという非人道的なもので、見知った間柄では当然抵抗があります。また地ならしの発動をジークに委ねるという点でもリスクがある。事実、ジークは腹の底では安楽死計画を練っていて地ならしなんぞクソ喰らえだったわけですから、この懸念は妥当だったと言えるでしょう。
この翌日、マーレで開かれる国際会議では「ユミルの民保護団体」が初の声明を発表する予定であり、その中身と世論の反応を見極めたいというのがハンジの考えだったようです。
その夜、邸宅を抜け出したエレンは、スリをはたらいた異民族の少年が暮らす難民キャンプを訪れていました。戦争が起きてある日全てを奪われる怒りと悲しみを、エレンたちは幼い頃に味わったことがあります。彼らのキャンプを見て何か思うところがあるのでしょう。
探しにきたミカサに、エレンは唐突に尋ねます。「お前はどうしてオレのこと気にかけてくれるんだ?」と。彼がジークからアッカーマンの秘密を聞かされるのはまだこの後だと思われますので、エレンがどういった意図でこの問いを投げているのかはよくわかりません。もちろんミカサも困惑し、真っ赤になって「あなたは家族…」とつぶやくのが精一杯。そこへキャンプ住民が酒を持って横槍を入れたため有耶無耶になってしまいます。
ちょうどその時追いついてきた104期たちと一緒にパオへ入り、そこから難民たちと車座になって馬乳酒(※104期のリアクションから勝手に中身を想像)を酌み交わして大騒ぎ。難民キャンプのどこにこんな大量の酒が!?と思ってよく見たら、ジャンとコニーがダッシュでワインを調達してきてました。宴は全員酔いつぶれるまで続きます…。
あの時、エレンの双眸は哀願するような、救いを求めるような色をしていて、間違っても甘~いラブラブロマンスちゅっちゅ❤な空気ではありませんでした。彼はミカサになんと言って欲しかったのでしょうか? なかなかの難題です。カチュアとデニムの会話で正解を選ぶのと同じくらい難しい…というか、悲劇の主人公感をこじらせてて面倒くさいw この時のリアクションを、後にミカサはこう述懐します。「あの時もし私が別の答えを選んでいたら 結果は違っていたんじゃないかって…」
翌日。国際会議の場で「ユミルの民保護団体」が主張したのは、ディアスポラ状態にある「ユミルの民」の救済でした。主張によれば、彼らは旧エルディア帝政時代に人為的に作られた「被害者」であり、エルディア本国の思想や危険性とは無関係であるゆえに、混血の事実だけをもって排斥されるべきではない。排斥されるべきはパラディ島に逃げ込んだエルディア本国である、ということらしいですね。拍手する者もいますが、それ以上にブーイングを受けているようにも見えます。
あまりに底の浅い論説に呆然とするハンジ。頭を抱えるキヨミ。そして議場に背を向け立ち去るエレン。その背中が、ミカサが最後に見たエレンの姿となりました。
その後、エレンは単独でマーレに残り、負傷兵を演じてファルコと接触。ジークと密会して計画を詰め、パラディへ決行日を知らせる手紙を送りました。そして25巻のレベリオ襲撃へとつながるわけです。この時系列が巧妙にバラけて描かれているため、初読ではエレンの心境がちーとも分からなかったりしたものですが、パラディ側やジークたちの事情・狙いが分かった今あらためてマーレ編を最初から読み返してみると、また違った味わいがあります。
壁の終焉
座標から帰還し再度巨人化したエレンは、これまで見たことのない異形へと姿を変えていました。肉のない骨格だけですが、その身長は壁から現れた大型巨人をゆうに越えています。遠近感が狂ってしまうくらいの巨大さですが、大型巨人の頭がようやくエレンのふとももくらいでしょうか。ロッド=レイスも異形の大型巨人になりましたが、それよりさらに何倍も大きいようです。
エレンは人の形はしておらず、まるでステゴサウルスの骨格標本のように前へつんのめった姿勢。無数に生えた肋骨が足の代わりに地面についていると思われます。ミカサたちはエレンの後ろから眺める格好で、頭部は噴煙に隠れて窺うことができません。
一斉に壁を崩し歩き出した大型巨人の群れを見て、アルミンはエレンの勝利を確信します。エレンが始祖を掌握し、マーレと連合軍を追い払うために地ならしを発動させたのだと。しかしアルミンは動き出した巨人の数が多すぎることに違和感を覚えました。シガンシナの外壁だけでなく、ウォール・マリアも崩れ落ちています。壁を全て失ってまで手持ちの巨人を繰り出す必要があるのでしょうか?
その時、「道」を通じてエレンの声が全てのユミルの民の頭へ響きます。
エレンによれば、パラディの全ての壁はたった今崩壊しました。目的はパラディ島の人々を守ること。しかし世界情勢はパラディ島やユミルの民を決して許さず、憎悪し続けるだろう。ならば自分は島の外にある全てを地ならしで消滅させる。すべての命を駆逐する──。
鬼の形相で睨め上げるエレンと思しき顔の見開きは、怒りと憎しみと絶望がそのまま形をなしたかのようです。筆のような荒々しいタッチで描かれ、夢に出そうな迫力で一見の価値あり。ラスボス誕生の瞬間です。
エレンがたどり着いた答えを見て、僕は結局そこかーという納得感と、まじでーwという意外さがないまぜになった気持ちでしょうか。綺麗事で終わらないのは好感持てますね。話し合いで世界はハッピー、みたいなのはこの作品と掲載誌のカラーに合わないので。別マガ創刊時のテーマは「絶望」ですから。「才能・覚醒・勝利」を旨とするWJとは方向性が全く違うのです。ん?「友情・努力・勝利」でしたか。
で、僕はずっとエレンは本当の意味で巨人を全て駆逐するのがゴールだと思ってたんですよ。巨人の存在を根本から消して、全人類をフラットなただの人間に戻して、さあ俺たちを邪魔する壁はなくなった、こっから新しい世界作ろうぜ!今までと変わらず争いも犯罪も起こるだろうけど、残酷で美しいこの世界で人間として精一杯あがいて生きようぜ! 完! みたいなのを想像してました。
とはいえ、僕がそういう終わりを望んでいたわけではありません。それが本当にエレンのキャラクターやこの世界観に合致したシナリオなのかなと考えると、そうじゃないよなあ、もうちょいダークな感じでお願い諫山せんせ♪という気がしていました。
なのでエレンの発想がそれとは逆方向で、視野狭窄のあまり世界滅亡を企む破滅論者になってしまったのは正直意外だったし、それと同時にやっぱ聖人君子的な理想家になれないエレンに親近感もわきました。いやいや、こっちを殺そうとしてくる敵と仲良くするなんて無理でしょw 全員ぶっ殺さなきゃ安心して眠れねえよ、っていう等身スケール。その発想は平凡ですが、もはや一般人に戻るには超常的な存在になりすぎてしまったエレン。全部解決してエレンおかえり!って感じにはならないと思うんで、この先どうなるのか俄然楽しみが増えました。ガビたち次世代の子らに討伐されちゃうのかなあ。
今号の見どころはミカサがアイス食べてる時の顔と、最後の見開きってことで、もし買ってない人いたら読んだほうがいいですな。このブログはよそのなんちゃらまとめ速報的なのと違い、画像とかセリフ引用とかほとんどないんで、すでに読んでる人しか来てないと思いますけどね。