進撃の巨人 ネタバレ考察

(121)未来の記憶

明かされたエレンの意図、それはジークに従う演技で彼を出し抜き、始祖の力を行使することだった。

しかしジークはそれを予見しており、エレンは座標の中で鎖に絡め取られ、身動きできなくされてしまう。

エルディア人安楽死計画を実行に移す用意は全て整った。

ジークは最後のけじめとして、エレンをグリシャの記憶による洗脳から解き放ち、兄弟が心から力を合わせて世界を救済することを望む。

そのための手段として、ジークはエレンと共にグリシャの記憶を追体験する回想へと旅立つのであった──。

進撃の巨人 第121話 未来の記憶
別冊少年マガジン 2019年10月号(9月9日発売)掲載

前回から続く回想の旅

前回、エレン(の頭部)とジークは接触を果たし、共にユミルのおわす座標へと導かれました。
そこはほぼ時の止まった世界で、二人は互いに腹芸を披露します。
エレンもジークも結局は相手を信用しておらず、騙す気まんまんでした。

結果的にこの場はジークが主導権を握ることになり、始祖の力でエルディア人安楽死計画をいつでも実行できる状態になりましたが、ジークはけじめとしてエレンを心から屈服・説得し、グリシャの洗脳を解いて一緒に世界を救おうと考えているようです。
獲物を前に舌なめずり、みたいな余裕ぶっこいてしまったジーク。これが元でおそらく彼の目論見は失敗することでしょう…。

ジークはグリシャの記憶をエレンに見せ、グリシャがどんなにクズでカスで自分のことしか考えてない○○○野郎か知らしめてやるつもりだったようですが、グリシャが家族写真を大事にしていて、寝言でジーク…むにゃむにゃ…と呟いてるのを見てあっさり自分のほうが籠絡されそうになる始末。こいつメンタル脆いぞ!

時間をどれだけ超えても、ジークの期待と裏腹に、グリシャはエレンに洗脳教育を施す様子はありませんでした。
エレンが己の自由を重んじ闘争を辞さない性質は生来のもので、グリシャがそれに加担している場面は確認できないのです。

そして月日は流れ、やがてシガンシナ崩壊の日が訪れました。
グリシャはこの日、家を出る時から悲壮な顔をしています。その理由を読者はこの後知ることになるでしょう。

すでに読者はご存知のとおり、グリシャはこの足でレイス家の教会へ向かい、フリーダ説得を試みます。始祖の力でパラディに迫る脅威を打ち払って欲しいと。
しかし不戦の契りを守り首を縦に振らないフリーダとの議論は物別れに終わり、グリシャはフリーダらを皆殺しにして「始祖」を奪ったはずです。
ところが、エレンとジークが見たのはそれと異なり、子供を殺すことなどできないと膝をつき、崩折れるグリシャの姿。

すでに起こってしまった過去が変わるわけがない、と当惑するジークをよそに、エレンはグリシャの傍らへと歩み、静かな怒りを込めて囁きます。
犬に食われた妹に報いろ、レジスタンスに、ダイナに、クルーガーに報いるため、死んでも進み続けろ、と。

その呪詛に突き動かされたグリシャは落としたメスを拾い上げ、巨人へと変身し…あとは歴史のとおり。
すなわち、過去改変がビジュアル化されたことになります。

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「進撃の巨人」の本当の能力

グリシャの説明はこうです。
「進撃の巨人」は未来の継承者の記憶をも覗き見ることができる…
つまり未来を知ることが可能なのだ

唐突な与太話にフリーダは眉一つピクリともさせず、「んな能力聞いたことねーw」と一笑に付すところですが、グリシャも負けじと「不戦の契りで始祖を完全に管理できてないお前じゃ知らんわなw」と煽ります。

グリシャの言は事実で、未来視によってエレンの至る道を知ったグリシャは、エレンを救うために行動せざるを得なかったというわけです。
この日レイス家を惨殺する未来をすでに知っていたから、グリシャは出発の時から苦悶の表情を浮かべていたのだと思われます。
ちなみに、同日に壁が壊されてカルラが死ぬことは見えていません。

ここで判明したのは、グリシャは自分の目的…始祖奪還&エルディア復権…のためにエレンに巨人を継承させたわけではなかったという事実。
実は主従が逆で、グリシャもまた「未来の記憶」に従属させられていただけだったのです。
それをわかりやすく描写したのが、先ほどのエレンの囁きでしょう。

囁くことで過去の継承者の行動を変えられる…ということは、何を囁くかは未来の継承者側が好きに選択できる、ということでしょうか。
ジークは「都合のいい記憶だけをグリシャに見せて過去を変えることもできるはず」と言っていますので、多分当たりです。

前回、僕はこんなことを書きました。

座標が場所だけでなく時間を超えて交わっているのなら、未来のジークの姿が流れ込んでいるのかもしれませんね。
エルディア人がみんな巨人因子(=道)を持っていて、それが未来から過去へ記憶を送れるものだとしたら、本作に残った謎の一つ「記憶の時系列に関わる矛盾」が解決します。

正解は、「進撃の巨人」固有の特殊能力として、後の継承者の未来の一部を見ることができる…でした。
う~ん、なんでもあり!

過去の記憶が継承できることは分かっていても、まさか未来の記憶まで備わっているとは。
クルーガーがグリシャに伝えた名前の謎はこれで簡単に解決しました。

クルーガー
「ミカサやアルミン みんなを救いたいなら 使命を全うしろ」(22巻89話)

なぜクルーガーがまだ生まれていない二人の名前を知っていたのか、なぜエレンは含まれていないのか、ループ説などの憶測を呼びましたね。
今回判明した通り、答えはエレンの未来記憶がクルーガーにフィードバックされているからです。
クルーガーの様子からするに、自らの意図ではありません。記憶の方がクルーガーに言わせています。
絵的な演出で言うなら、エレンがこの時クルーガーの中にいるのでしょう。

「進撃の巨人」とは未来の記憶を持ち帰る宣託の器であり、継承者は記憶の傀儡にすぎないという側面が見えてきました。
利己的遺伝子論におけるDNAと生物個体のような関係ですかね。記憶こそが本体。

なかなか興味深い設定ですが、過去改変で世界線シフトまでできると物語的には何でもありになってしまうので、扱いの難しい能力です。
本作では「全てが任意に見通せるわけではない」という縛りがついていますけど、このふわっとした制限では、何が見えて何が見えないのかは当人と作者にしか知りえません。
あれこれ勘ぐりたいと考える読者にとってはなかなか厄介な代物と言えます。

さて、地下洞窟の惨劇を終えたグリシャは、未来のエレンに向け叫びます。
これで良かったのか、本当にこれしか道はなかったのかと。

グリシャはジークとエレンを案じる言葉をつぶやくと唐突にジークの姿が見えるようになり、目の前に立つ髭面のオッサンがジークだと瞬時に看破。
すまない、私はひどい父親だった…などと泣きながら肩を抱き謝罪。テンポいいね!

とどめは「ジーク…お前を愛している」

ズキュウウウウウン!!
ジークの目にも涙が浮かび、「…父さん」と応える始末。こいつメンタル脆いぞ!
結局、ちょっと長い反抗期で父親を否定したかっただけのジーク君でした。めでたしめでたし。

記憶の旅の最後にグリシャがジークへ伝えたのは「エレンを止めてくれ」の言葉。
主人公とラスボスが入れ替わっちゃいましたね。

エレンが後ろで黙って暗い目をしているので、もしかしてこれもエレンがグリシャを操って言わせているのか?
ジークを籠絡して言うこと聞かせるために?
…と思いましたが、それなら「エレンを止めてくれ」とは言わせないような気もします。「エレンを助けてやってくれ」なら分かりますけど。
エレンも本心では止めて欲しいのか?

エレンが未来を知ったのは4年前

電気が走り、再び「座標」の砂漠へと戻ってきた二人。ジークは狼狽えます。
エレンが未来の記憶によってグリシャを操り、始祖を奪わせ、自らに始祖と進撃を継承させるよう仕向けたのか?…と。

ふたたび鎖で拘束された状態のエレンは沈黙をもって肯定し、その行動の理由を説き明かします。
エレンはグリシャの記憶の中にある、未来のエレンの記憶を見たと言うのです。すごいややこしい。

グリシャは、エレンの遠い未来までを見ていました。作中の現在よりもさらに先です。
それを見たことで「まさかあんな恐ろしいことになるとは…」とショックを受け、おそらくその危機からエレンを守るすべとして、巨人の力をエレンへ渡すのが妥当だと判断するに至ったのです。

そして、グリシャはその記憶を抱えたままエレンへ巨人を継承したので、エレンは自分の未来について、その「恐ろしいこと」の記憶をも引き継いでいます。
断片的にですが自分の未来が予知できるということです。

グリシャは「進撃の巨人」の能力について「後の継承者の未来を知る」と言っています。「自分の未来」ではありません。
ですから本来は自分の行く末を直接知ることはできず、あくまで後継者が見せたいと思った場合のみ見ることができると思われます。
エレンに後継者がいるのか、彼が最後の代になるのかはまだ分かりません。

エレンはグリシャを経由することで自分の未来についての記憶もそのまま継承し、王家であるヒストリアの手に触れた時、その記憶の扉が開きました。(22巻90話)

この時見えたのは、グリシャの過去だけではなく、エレン自身の未来だったのです。
エレンが怒りと驚きが入り混じった異様な形相をしていた理由、当時の僕はわからずスルーしていましたが、これでやっと判明しました。

この瞬間、エレンは良からぬ未来を知り、それに抗うために自らの命を使い始めたのです。
タイムリミットまで時間がなく、独断専行してでも時計の針を一気に進めようとした。
この辺りのタイミングで死ぬと分かっているから、サシャの死にも落胆しなかった…。

これはゲームの攻略本を見てからプレイするようなものです。
ボス戦へ向けて最短で効率よくフラグ管理をし、育成やイベント消化をしている最中。なんの感動もありません。

この頃から、エレンはまるで別人のようになっていったのだと思われます。

他のメンバーとは見えている水準が全く違う、これは第一部・壁内編の構図がそのまま逆転したようなものと言えます。
当時はマーレに属する者がより広い世界を知っていて、エレンは盲目も同然でした。

ライナーたちがパラディ島民を虐殺できたのも、このままではいずれパラディは蹂躙され地図から抹消されると分かっていたからです。
どの道、壁内世界には未来がない。マーレが攻めてきたらみんな死ぬ。殺される。だったら少しぐらい犠牲を出しても、クリスタだけは連れ帰って俺が守る。
それがライナーの考えでしたよね。104期のユミルもそれに賛同して彼らの逃走に協力したわけです。

ベルトルトはそれを同期に説明することもできず、かといって人殺しに慣れるわけでもなく、自らの行いに苛まれていました。
誰が人なんか殺したいと思うもんか、誰か僕らを見つけてくれ、そう嗚咽を漏らしたベルトルさんには大いに同情します。

現在、エレンがそのような立場にあるわけです。
誰に説明したって理解されないでしょう。オレには未来が見える!破滅が来る!
そんなことを喧伝してまともに取り合ってもらえるでしょうか?
ザックレーに社会不安を煽るカルトと危険視され、排除されるのが早まるだけです。

巨人の能力だと言えば一応の説明はつくでしょうが、アルミンやミカサにすら打ち明けていないことから、他にも相応の理由はあると思われます。
そして4年間たった一人で、来たるべき未来への備えを続けてきたわけです。

エレンが持っている未来の記憶は、エレンがグリシャを操るのに都合がいいと思い、グリシャに見せた記憶だけ。
だから全ての選択を予知できるわけではありません。

それを察したジークは、光の柱を前に立つ始祖ユミルへ命じます。全てのユミルの民から生殖能力を奪え、と。
記憶の旅で真実を垣間見たものの、この場におけるジークとエレンの力関係はいまだ変わっていません。
ジークはいつでも始祖の本領を発揮できますが、王家でないエレンにはその資格がない。

始祖ユミルはジークの命を受け、ゆっくり振り向いて光の柱へと歩み始めます。
自らの指を引きちぎり、鎖を振りほどいて追いすがるエレン。
その手が始祖ユミルの肩に届こうかという時───

つづく。

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別冊少年マガジン(毎月9日発売)で連載中、
「進撃の巨人」のネタバレ感想ブログです。

ネタバレには配慮しませんので、ストーリーを楽しみたい方はご注意下さい。

※フラゲ速報ではありません。本誌発売日の夜に更新することが多いです。

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