進撃の巨人 ネタバレ考察

(120)刹那

窮地に陥り、ついに叫びの力を解き放った「獣の巨人」。

脊髄液を飲んだ者は端から巨人化し、シガンシナの各地から閃光と爆煙が立ち上る。

大混乱の中「鎧の巨人」の隙をついて逃げたエレンは、ジークとの接触を目指し徒歩で駆け出す。

通りの角には、大型ライフルを構え狙いをつけるガビの姿があった。

放たれた弾丸は正確にエレンの頸部を撃ち抜く──。

進撃の巨人 第120話 刹那
別冊少年マガジン 2019年9月号(8月9日発売)掲載

座標にて

ガビが放った銃弾は見事エレンの首へ命中し、彼の頭と胴体を切り離すことに成功。
エレンの飛ばされた頭は宙を回転しながら走馬灯を見ます。
これまでの凄惨な出来事が次々とフラッシュバックし、そしてそれはやがてエレンだけでなく他の誰かの記憶とも入り混じり始めました。

この夢を見ているのが誰なのか分からなくなるように感じた直後、エレンはまるで大樹のごとく立ち上る光の柱を前にして立っていました。
少し後ろに、鎖で何重にも繋がれて地べたにペタンと座っているジークの姿。

彼が言うには、この茫漠とした砂の海のような場所が「座標」。
すべての巨人の「道」が交わる、始祖の力の根幹です。
ジークも物的証拠があって言っているわけではありませんが、状況からしてそうとしか思えないだろ(空気読めよ、わかったな!)といった口ぶり。

続けて光の中から姿を現しゆっくり近づいてくる少女を指し、ジークはこれまた始祖ユミル以外に考えられないだろ(空気読め)みたいな。
リヴァイの雷槍でふっとばされた時にジークの体を再生させた例の少女ですが、今の所何も語らず、その正体が本当に始祖ユミルであるかは不明。
ですが否定する材料もないので、素直にジークの言う通り、このブログでも少女を始祖ユミルと呼ぶことにします。

続けて解説するジークの言葉によると、エレンが完全に絶命する前にジークは首を拾うことができ、「始祖」と「王家」の接触はギリギリで果たされたとのこと。
頭部だけでよかったんですね。
エレンと巨人ダイナとの接触は手のひらと拳だったのですが、巨人の力というのは体内のどこかに集積しているものではなく、全身をくまなく巡っているものなんでしょうか。
身体の一部位だけでいいとなると、例えばどこか手足を1本切り落として道具として使うような発想も考えられますが、手足が時間が経って「死んで」しまったら意味がないのでしょうか。
そもそも巨人の力とは、化学物質なのか、波なのか・・・なんてことを考えていくと面白いのですが、今は話を先に進めましょう。

ジークによると、彼は「不戦の契り」の象徴である鎖で地面に繋がれ、この場所で自由に振る舞うことができない。
しかしエレンはジークが鍵となって扉を開くことで自由な状態のままここに来られた。
今のエレンなら鎖に縛られず始祖ユミルに命令することができる。
さあ、今こそエルディア人の安楽死を発動させよう!

無言で立ったままジークを見下ろすエレン。
その口から次に出た言葉は

「こんなふざけた計画オレは到底受け入れられない」
「悪いが兄さん オレはここに来るため あんたに話を合わせていただけだ」

ドッギャーーーン!!
誰もが予想していたこととは言え、やはりエレンはエルディア人安楽死なんて望むわけがなかった。
アルミンにも「え? あのエレンが? 安楽死? んなわけないじゃんアホかw」(※意訳)と即答で否定されていました。
読者もほとんどがそう思ったでしょう。バレバレですよ。むしろよくここまで演技が持ちましたよね。
少年時代から年齢を経るごとに器用パラメータに極振りして成長したのか。
同期だった方のユミルに直情浅慮を呆れられたのが、今考えるといい薬だったのかもしれません。

土壇場でのエレンの裏切りに両手で顔を覆い、嘆きの嗚咽を漏らすジーク。
絞り出すかのように、なぜだ…、とその理由を問う兄に、エレンは背を向けたまま

「オレがこの世に生まれたからだ」

と、少年時代からまったくブレないエレン節で返します。
生まれて生きているからには、精一杯あがいて戦う。何もせずダラダラ死を待つだけの生なんて耐えられない。
この作品の根底にある一貫したメッセージを、主人公であるエレンが忘れるはずもないのでした。

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ジークの真意

兄と訣別したエレンは始祖ユミルに手を差し出すも、彼女はそれを無視してエレンの横を素通り。
ジークを労るかのように、彼の前で膝をついて座りこみます。

あ、あれ? ユミルさ~ん? もしもーし?
エレンの額を汗がツー…タラリ。(※漫画では垂れてません)

ジークはゆっくりと、己を縛る鎖を粉々に握りつぶして立ち上がります。
ドッキリ大成功~!
エレン、騙したつもりが騙される側だったの巻!

エレンよりも先に始祖ユミルと会っていたジークは、エレンが目覚めるまでの間にあった相応の時間をもって彼女を観察し、その習性を理解するに至っていました。
ここにいる少女の姿をした始祖ユミルは形骸でしかなく、意思を持たぬ存在。
王家の血を引く巨人を主人と認め、服従し、力を与えるだけの者だと。

ジークは「始祖の巨人」を継承せずに座標に到達した(始祖ユミルから引き込んだ)特異な例で、先代王族たちの記憶や思想に影響を受けていません。
そのため「座標」で過ごすうちに始祖ユミルを利用できるようになり、「不戦の契り」を無効化することができた、らしいのです。なんじゃそりゃ!

正直、ここはちょっと都合が良くて素直に納得しにくいところではありますが、概念的なフィクションの部分なのでいち読者にはどうしようもありません。
そういうものだ、と受け止めましょう。へー!すごいやジークさん!

ジークはこの精神と時の部屋に、エレンよりも現実時間で数日ばかり先に到達した経験があります。
彼の言を信じるならば始祖ユミルは王族の血に隷属しているようなので、ジークがリヴァイによって瀕死にされた際、それを救うために姿を見せたのでしょう。
そしてエレンの首と接触し再度入室を許されたこの場所で、エレンが目を覚ますまでにジークは長大なヒマを持て余していたようです。
この精神世界においてエレンとジークとの情報格差がそこで生まれました。

で結論としては、ジークはすでに自力で「不戦の契り」を解いていて、座標にいる始祖ユミルを従えている。
エレンの存在は「鍵」にすぎず、エレンの意思と無関係にジークが始祖の力を発動できる。
ということになります。

エレンがジークを欺き利用したのと同様、ジークもエレンを騙したことになりますが、と言ってもこちらは現実時間でつい数瞬前からのことです。
ジークが始祖の力を理解し掌握できたのはエレンの首を拾った後のことですからね。もともとの計画はエレンの意思ありきで、自分のほうが「鍵」にすぎなかったはずです。
ジークにしてみれば「あっぶねー、セーフセーフw あのままエレンを信じてたらやばかったぜ、まあ薄々気づいてたけどな」という状況でしょう。

彼が座標にいて不戦の契りがなく、ユミルを従えているならそのまま自由に始祖の力を使えてもよさそうなものですが、「始祖の巨人」という器(媒体?)は必要らしく、始祖ユミルの力で今度はエレンを鎖で拘束します。

これでエレンと接触したら満を持して安楽死発動!かと思いきや、ジークのけじめとして先にエレンの「洗脳」を解き、憎きグリシャの存在を消し去ってから、今度こそ兄弟仲良く理解し合って一緒にエルディア人を救済しようぜ!というつもりのよう。そのためにジークが取った手段はグリシャの記憶を追体験する旅。回想の時間旅行です。言ってしまえば過去編ね。

そして記憶の扉が開きます。

ちなみに今回のタイトルである「刹那」は一瞬という意味で使われていることが多いですが、仏教の一派による解釈では1/75秒だそうです。およそ0.01333秒ですね。
座標の中では兄弟水入らずでドッキリ!からのドッキリ返し!からの過去回想編!となにやら脱線しちゃってますけど、本編の世界ではエレンの首がもげてジークがそれをキャッチしてからわずか0.01333秒に満たないというわけです。

多分これから色々あって座標を取り込みパワーアップを果たした覚醒エレンが現実に帰還することになるんでしょうけど、ガビたちの主観ではほんの一瞬の出来事なんでしょうね。

グリシャの追憶

さて記憶の旅の始まりです。

赤ん坊のエレンを抱き上げるグリシャとカルラ。
その光景を同じ部屋で眺めるエレンとジーク。なるほどこういう形式ですか。
これはあくまで過去の再現映像だから、干渉はできない…みたいな。
観測者は誰で、誰がこのデータを保持してるのかは興味ありますけどね。

ジークはグリシャが大陸での家族を忘れ、パラディで幸せそうにやっていることに唾棄します。
グリシャは医者の地位を利用して壁内の権力者へパイプを作ることに余念がありません。
「始祖の巨人」奪取の目的がばれたら妻子ともども処刑は免れないのによ~やるわ、とグリシャが家族を危険に晒してまで思想に殉じようとする姿に改めて嫌悪を示すジーク。

それを受けてエレンは「幻滅した」「洗脳が解けたよ」などと急に真顔で言いだしてますが、さすがに早すぎてバレバレです。先日までの悪役を演じきった器用な演技派エレンはいったいどこへ行ってしまったのか。たった2ページで改心したフリをするんじゃあないw
この雑な演技にはジークもさすがに「!?」とマガジンマークが出そうな勢いです(※出てません)。

んなわけねえだろ!というツッコミをぐっとこらえたジークはさすがに大人。
焦らなくていいとエレンを諭し、次の場面へと時計を進めました。

エレンがまだ1歳くらいの頃でしょうか。グリシャはレイス家の教会を探りに来ていました。
地下洞窟への隠し階段を突き止めたグリシャはしばし逡巡するも、その場はフタをして帰路へつき、カルラとエレンの待つシガンシナへ戻ります。
地下へ進み、壁の王と「始祖の巨人」の所在を暴き奪い取ることこそ、グリシャが率いたレジスタンスの本懐だったはずなのに。
目前にしてリスクや犠牲の大きさに尻込みしたように見えます。

息子のことなどまるで意中にないのだろうと決めつけていたジークはこれを見て狼狽えていました。
なるほど、二人目の息子は俺と違って愛されていたらしいな・・・などとかっこつけてますが、内心結構ショックを受けてますよこれは。

シガンシナの自宅地下室でなにやら書き物をしながら寝落ちしてしまったらしいグリシャの机には、あの家族写真がありました。
寝言でジークを呼ぶグリシャ。ジークが驚いて見やるとグリシャはガバッと起き上がり、ジークが髭面おじさんになった夢を見た・・・と一人ごちるのでした。
座標が場所だけでなく時間を超えて交わっているのなら、未来のジークの姿が流れ込んでいるのかもしれませんね。
エルディア人がみんな巨人因子(=道)を持っていて、それが未来から過去へ記憶を送れるものだとしたら、本作に残った謎の一つ「記憶の時系列に関わる矛盾」が解決します。

それはさておき、グリシャがパラディにいても自分のことを気にかけていた事実に動揺しはじめるジーク。
さっさと次に行くぞとエレンに促されるも、ボーゼンと立ち尽くしています。
いかん、このままではジークのメンタルが危ない!

この後、おそらく今まで描かれていなかったグリシャの苦悩や人間性みたいなものが出てきて、ジークは大きな動機を失ってしまうんでしょうね。
エレンの洗脳を解くつもりで再現した記憶でまさか自分のほうが不意打ちかまされてしまうとは。うっかりしてましたな。
知りたいような、知りたくないような、驚きとも困惑とも言えない微妙な顔を見せるジークでした。

回想のまま、次号へつづく

エレンは始祖ユミルに何を願おうとしたのか?

ジークに裏切りを告白し、さあオレに力を貸してくれとユミルへ手を伸ばしたエレン。
結果スルーされて赤っ恥かいた主人公ですが、彼はいったい何を願おうとしたのか?

これは僕のまったく個人的な想像なんですけど、エレンの願いは女神転生でいうカオスな世界の創出だと思うんですよね。
巨人という存在を消し、世界をフラットにする。そこから新しい適者生存競争を始めよう!っていう。

マーレ編以前は、徘徊する捕食者である巨人が物理的に壁内人類の自由を妨げていました。
世界の姿が明らかになってからは、巨人という存在や概念そのものが、兵力としてはアドバンテージになる一方で、国家間の均衡を崩し争いを助長する脅威であるように描かれています。

エレンが願うのは、巨人をすべて人間に戻すこと、そしてもう二度と継承されないようすること、ではないでしょうか?
彼の真意が明かされた時、間違ってたらこの部分をこっそり削除して全力ですっとぼける所存ですので、その際はニヤニヤしてください。

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別冊少年マガジン(毎月9日発売)で連載中、
「進撃の巨人」のネタバレ感想ブログです。

ネタバレには配慮しませんので、ストーリーを楽しみたい方はご注意下さい。

※フラゲ速報ではありません。本誌発売日の夜に更新することが多いです。

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