進撃の巨人 ネタバレ考察

(91)海の向こう側

壁の世界の構造が明らかになったことで、物語は過去最大の転機を迎えた。

すなわち「壁によって災厄を免れた人類 vs 超常的な捕食者である巨人」という、本作の開幕当初に示された世界観の図式から脱却し、「利害に基づく計算で理性的に相手を殺したり支配したりする、人間同士の戦争」という構図に変化したのである。

前回90話にて、壁の世界を覆った霧は晴れた。パラディ島から巨人はすでに駆逐され、エレンとアルミンは本物の海を見た。かつて幼い頃に夢見た彼らの願いは成就し、一つの節目を迎えた今だからこそ。ここから何をするのか。この先に彼らがどこを目指すのか。

その問いかけに口をつぐんだまま、物語は新たな人物の視点で、次の章へ進んで行く…。

進撃の巨人 第91話 海の向こう側
別冊少年マガジン2017年4月号掲載(3月9日発売)

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別の土地、別の戦争

驚くべきことに、今回から舞台と登場人物が一新されました。ウジャウジャと新キャラが登場し、概況の理解に頭を使います。リヴァイをはじめ人気キャラを封印してのこの展開は作品的にも思い切った冒険でしょう。「東京グール」が「東京グール:re」になった時と同じくらいの、非常にドラスティックな場面転換です。本筋への復帰まで何話くらい続くのかわかりませんが、やはり人間と人間の争いを描く上で、互いの背景を理解し感情移入させることが必要なのでしょうね。

…さて、ライナーやベルトルト、アニたちがパラディ島へ潜入し、戦士長ジークも増援として駆けつけた「始祖奪還計画」。それが失敗に終わり「超大型」と「女型」を失ったことでマーレの軍事力は低下し、大陸ではマーレと別の国家との戦争が膠着状態に陥っていました。 

170309_11装備などは第二次世界大戦の様子に近そう。

今回の主役はそんな戦争に赴いたマーレの歩兵部隊で、銃砲を用いた近代的な戦闘行為の最中。攻略目標は丘陵の上に鎮座する「スラバ要塞」であり、地形が変わるような要塞からの砲撃に対処するため少年兵が塹壕を掘っています。

至近弾を受け脳震盪を起こしたのか、仰向けで転がったままぼーっとしている少年・ファルコ。それを助けに駆けつけたのは兄のコルトです。彼ら二人をはじめ味方たちはエルディア人のマークをあしらった腕章や鉄兜を身につけていました。

マーレのために従軍するエルディア人ですから奴隷兵のような使い捨て上等の消耗人材かと思いきや、彼らは「マーレの戦士」候補生のようで、幼い頃から徹底した軍事教育を施されてきたに違いなく、本来であればこのような前線にいるべきではない貴重品です。しかし次の「戦士」の選抜時期が迫る中、実戦での適性を見極める最終試験のような位置づけで、隊長のマガトは少年たちを前線へと駆り出したらしい。

戦士の選抜時期が来ているというのは、「九つの巨人」に課せられたルールのひとつ、13年縛りによるものと考えられます。巨人の力を継承した者は13年後に死ぬんでしたよね。今この場面が何年なのか考えてみましょう。

「俺たちが4年も戦争してることは覚えているか?」(ウド)
「9年前から始まった『始祖奪還計画』が返り討ちに終わり」(マガト)
「マーレの軍事力は低下したと見なされ 今日まで続く戦争の引き金となり」(マガト)

…この戦争はジークやライナーがシガンシナで負けて逃げ帰ってきた後に始まり、それから4年続いている。「9年前」はライナーたちがパラディへ潜入した時点(シガンシナ襲撃)を指します。

ということはライナーの寿命は最長でも残り4年で、そこからパラディ撤退~開戦までのタイムラグを差し引き、さらに幼年期の巨人化慣熟期間の分も短くなるでしょう。重大かつ困難なミッションへ少数精鋭の戦士(しかも子供)を送り込んだわけですから、ライナー世代は訓練にも相応の時間が必要だったのではないでしょうか。とすると余命は1~2年くらいか。

ライナーらが力を継承させぬまま不慮の死を遂げた場合、巨人の力がどこの誰に発現するか運次第になるため、マーレ軍としてはこれを避けねばなりません。下手するとレジスタンスのような反抗勢力に巨人が渡ってしまいます。ゆえにマーレの戦士たちは寿命が来る前に確実に継承を行って死ぬことが義務付けられているわけで、それを果たせなかったベルトルトは失敗作として舌打ちの対象となってしまいました。哀れ。

戦士として選抜されることで本人や家族は名誉マーレ人としての地位を得ることができ、収容区での被差別的な扱いから脱することが出来るんでしたよね。

候補生の少女・ガビはそれに加え、パラディ島へ逃げ込んだ本流エルディア王国の残党を皆殺しにすることで、大陸に残ったエルディア人の善良性を証明できると考えているようです。 マーレによる洗脳教育の賜物と言えるでしょう。彼女自信はそれを覚悟と称し、かつて巨人を駆逐すると誓ったエレンを思わせるまっすぐさで周囲に宣しています。彼女もまた世界の広さが見えていない。

戦局打開

さて、部隊が要塞に近づいたせいで塹壕を掘り進めるのは難しくなり状況は膠着しています。そこへ要塞内部から秘密兵器・装甲列車が登場。

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100mm徹甲弾を撃ち出す対巨人砲を4門搭載とのことで、これ以上の巨人戦力を万一にも損耗できないマーレ軍は、戦線への巨人投入を渋ります。どうせ対巨人用ならロマン兵器の代名詞・80㎝列車砲あたりを威圧感たっぷりに描いて欲しかったところですが、意外と現実的な代物が出てきました。しかしこれでも当たれば一撃で巨人を殺害せしめる威力があるそうです。再生不可能なくらい、うなじごとバラバラになってしまうんでしょうかね。

候補生・コルトはマガト隊長に巨人2体の投入を進言するも却下されますが、ということはマガトにその判断をする権限があると考えられ、このオッサンは単なる小隊長ではなく意外に階級が高いのかもしれません。マーレを大国たらしめる軍事力の要、九つの巨人のうち2体を自由に使えるとなれば、あたかも戦争を自分の遊び場のごとく支配できるとも言えます。巨人は使えば勝ち確の局所戦力、メタルギアREXみたいなもんですからね。

コルトが提案したのは「顎(あぎと)」と「車力(しゃりき)」の投入で、いずれも本作初登場となる名前です。

「車力」とは聞き慣れない言葉ですがインターネッツで調べてみると…「平安時代中期から明治期頃まで、車両類を牽いて荷物の運搬を業としていた者」(wikipedia)とのこと。これって四つん這いのアレじゃないでしょうか?

170309_0821巻83話より。これが「車力」?

へんてこな見た目ですが、シガンシナ奪還戦では隠れたMVPとも言える活躍を見せており、ちゃっかり無傷で生き残ってジークとライナーを救出・生還させています。コルトが、あの二人なら一瞬でトーチカを潰せると信頼を寄せているのも納得。

ともあれ、装甲列車がうろついているうちは簡単に巨人を矢面には出せないという判断で、このままでは戦局打開のためにエルディア歩兵部隊がトーチカからの銃撃を浴びながらバンザイアタックで線路を爆破せよとの命令が下されてしまいます。そのために消費される命の数、およそ800人。

隊長のマガトの態度は冷徹ですが、「獣の巨人」継承候補であるコルトに指揮官としての覚悟を諭すなど、単に引き際を誤った無茶振りレイシストではないようです。候補生にずっと教練を行ってきたのなら育ての親にも等しい存在で、誌面から受ける印象よりも強い信頼があるのかもしれませんね。

装甲列車がこちらへ近づき部隊へ緊張が走る中、候補生の少女ガビは自信満々にお手製の手榴弾の束を隊長へ披露し、自分なら1人で埒を明けられると豪語。いくばくかの逡巡のあと、隊長はダメ元で単独突入の許可を与えます。

諌めようとする仲間に笑顔を向け、軍服を脱ぎ下着姿で両手を上げて敵陣へ歩きだすガビ。足枷に見せかけて片足に結んだ手榴弾の束をひきずっていますが、偽装投降は作中でも国際法違反とのこと。死人に口なし、目撃した敵を皆殺しにすればなかったことになるというマーレ軍規の大らかさを堪能しましょう。

突然現れた下着姿の少女を見て対応に迷ったトーチカ兵の隙を突き、線路目掛けて手榴弾を束ごと投擲するガビ。狙いはドンピシャで、線路どころか先頭車両の真下で爆発させ後続車両も脱線、横転させてしまいます。目論見が図にあたり大笑いしながら脱兎のごとく走り去るガビの背中へ機銃掃射を浴びせるも、そこへ颯爽と現れ彼女を庇ったのは見たことのない新たな巨人、「顎(あぎと)」ことガリアードです(本人の顔見せはまだ)。

巨人エレンのように明確に意志の宿った瞳、獅子のたてがみを思わせる豊かな頭髪とアゴヒゲ、食肉目の猛獣のごとき身軽さとしなやかな跳躍で一足飛びに敵陣へ躍り出、一撃のもとにトーチカを叩き潰します。その名の通り特徴的な噛み合わせのアゴをしていますが、まだ口は開きません。このアゴにどのような性能が秘められているのか、次回の大暴れに期待しましょう。

4月からのアニメ2期を楽しみにしながら、次号につづく 

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【エルディア人・戦士候補生部隊】

ガビ:黒髪の少女。自称「鎧の巨人」の継承候補筆頭。投降を装う不法行為をはたらき、手榴弾で装甲列車を破壊した。
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コルト:ファルコの兄。チームのリーダー格で「獣の巨人」の継承候補。
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ファルコ:コルトの弟。塹壕の設営中に至近弾を受けたと思われ、頭部への衝撃による記憶の混乱を起こしていた。
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ゾフィア:目つきの鋭い少女。
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ウド:メガネの少年。
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【エルディア人・九つの巨人】

ガリアード:「顎(あぎと)」の巨人の能力者。機関銃の射撃をものともせず弾き、トーチカを一撃で粉砕した。本体は未登場

ピーク:「車力(しゃりき)」の巨人を有する能力者。今回は未登場

ライナー:「鎧の巨人」の能力者。輸送機内で空挺降下の準備中と思われる。

【マーレ人】

マガト隊長:候補生を率いるマーレのおっさん。エルディア人を下に見てはいるが、戦場での指揮は冷静で的確。170309_05

【九つの巨人の状況】

(壁中人類が保有)
エレン  :進撃の巨人(クルーガー→グリシャ→エレン)
      始祖の巨人(ウーリ→フリーダ→グリシャ→エレン)
アルミン :超大型巨人(ベルトルト→アルミン)
アニ   :女型の巨人(捕虜として拘禁?)

(マーレ軍が保有)
ライナー :鎧の巨人
ジーク  :獣の巨人
ピーク  :車力
ガリアード:顎
ユミル  :小柄な巨人(名称不明。マルセル→ユミル ※ユミルは生死不明) 

 アニとユミルはどうしているのかな…?

 

【宣伝】進撃の巨人読者にすすめたい「銃座のウルナ」

ども、当ブログの筆者です。月100冊からの新刊コミックスを買う僕が、お気に入りの漫画を唐突に宣伝します。だって漫画を語れる場所がここしかないから! 

さて「銃座のウルナ」の舞台は架空の島。主人公ウルナは女性の新兵で狙撃手です。

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雪深い辺境の島には謎の知的生物「ヅード」が棲息しており、スキーのジャンプ台を使った跳躍で人間の基地を飛び越して海へ脱出し、別の陸地へ渡ろうと画策している。

そのヅードをライフルの狙撃で殺し、辺境から出さぬよう封じ込めを行うのが彼女…ウルナに与えられた主な任務。

雪に閉ざされた極寒の地で狭い基地に押し込められ、醜悪な敵性存在と相対する女性兵士たち。敵の奇襲により残虐な屍を晒す味方たち。何もかもが狂っているとしか思えない世界で、ウルナはある事件をきっかけにヅードの真実へと近づくことになる…。

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何と言っても歩くハグキ「ヅード」が雪の中から襲い掛かってくるという設定が異常で、なんでハグキなんだと作者を問い詰めたい。進撃の巨人で初めて巨人を見たときも造形が狂ってて不気味に感じましたが、これはそれを超える不安定さを感じて大変GOOD。

雪国なので誌面が白く、地味な軍記風の始まりなのに異形のクリーチャーが出てきて一気に鮮血でコマが黒に染まり驚愕しましたが、グロが売りのパニックホラーではなく極めて真面目なSFです。

謎や陰謀を秘めた世界観、正体不明の人外と争う極限状況であぶり出される人間同士の関係、進撃の巨人と読み味が似て知的好奇心を刺激される作品で、最近のお気に入りです。既刊3冊、月刊コミックビーム連載中。 


銃座のウルナ(1)

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別冊少年マガジン(毎月9日発売)で連載中、
「進撃の巨人」のネタバレ感想ブログです。

ネタバレには配慮しませんので、ストーリーを楽しみたい方はご注意下さい。

※フラゲ速報ではありません。本誌発売日の夜に更新することが多いです。

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