レベリオを急襲したパラディ軍兵士たち。初めて目にする立体機動になすすべなく斃れた守備隊。
ややあって防衛のために集結するジークら戦士隊。
マーレ軍増援部隊による包囲が迫る中、現代に蘇った巨人大戦の行方は…。
進撃の巨人 第103話 強襲
別冊少年マガジン 2018年4月号(3月9日発売)掲載
ファルコ
瓦礫の山の中から、巨人の両手に守られた形でファルコが姿を現しました。エレンが巨人化した際、建物の崩落に巻き込まれたものの、とっさにライナーも部分的に巨人化してファルコを死守。ライナーは衝撃で意識を失っているものの、2人ともどうやら大した怪我もなさそうです。
僕は前回の記事でこう書きました。『相変わらず「鎧」とファルコは出てこないので、予想としてはファルコはエレンの巨人化に巻き込まれて致命傷を負っている。ライナーがそれを助けるために本部へ走り、独断で巨人化薬を使って自分を食わせるパターンじゃないでしょうかね』…と。ドヤ顔で予想を綺麗に外す赤っ恥をかいて記事をこっそり修正したい欲求に駆られますが、ブログの読者さんに嘲笑されていることを想像すると逆に興奮するのでこのままにしておきます。
ファルコが「鎧」の掌から脱して見た光景は地獄絵図そのもの。崩れた街並み、空を覆う立体機動の黒い人影に応射する「車力」、石礫を投げて暴れる「獣」、地面から生える「戦槌」と宙吊りにされた「進撃・始祖」、そのカバーに入る「顎」とミカサ…。ファルコはなかなかカオティックな状況に呆然としつつも、エレンを見て「よくも…!!騙した……」などとエウメネスの名言をすかさず引用。どうやらマーレでも「ヒストリエ」は庶民の娯楽として愛読されている模様です(大嘘)。
ライナーは自分とファルコを守ることに特化し巨人の両手だけを出現させたようですが、意識が戻りません。ファルコはその理由が「生きる意思の弱さ」ではないかと推察します。エレンとの予期せぬ再会でショックを受けメンタルを破壊されてしまったライナー。ここ最近はただでさえ情緒不安定でライフルの銃口を咥えたりしてましたからね。
ファルコは助けを求めて走り、広場の外れでマガト隊長に呼び止められます。エレン・イェーガーにやられたと説明しているまさにその時、小銃を手に疾走してきたガビが居合わせる格好になるのでした。ガビは前話までで同期のゾフィアとウドを失い、顔なじみの門兵おじさんをサシャに射殺され、怒り狂っています。さらに敬愛するライナーまでもエレンに痛めつけられたとあってさらに闘志を燃やすに違いない…と思った瞬間、レベリオの町から遥か遠くで巨大な閃光が発生。その場の誰もが一瞬我を忘れて目を奪われました。
閃光の正体は、言わずと知れた超大型巨人の出現です。軍港へ押し寄せるマーレ軍の増援部隊に対し、単身で乗り込んだアルミンがこれを爆圧により一網打尽。後詰の到着を遅らせます。その爆風は数キロ以上離れていそうなレベリオにも届き、マガトが立っていられないほどでした。
巨人たちの戦い
ファルコが奔走していた頃、広場の巨人大戦と言えば。
「獣」はお得意の石礫によるショットガンで立体機動部隊を攻撃し、その背後はピークが機関砲銃座で守ります。さらにピークの死角である頭上を機動性の高いポルコがカバーする鉄壁の布陣により、パラディ兵を寄せ付けません。
エレンは広場の反対側で、「戦槌」の本体が引きこもった水晶体を何とか破壊しようと苦心しています。
戦士隊の悲願である「始祖の巨人」を目の前にして歯噛みする「顎」ことポルコですが、焦る必要はないと「車力」ピークは諭します。パラディ軍は補給を欠く突撃で長期戦には耐えられない一方、マーレ軍は周辺各地からどんどん応援が駆けつけてくる。 戦略的な脅威は「始祖」による発動の恐れがある地ならし(超大型巨人の集団移動による大質量攻撃)だけで、それを除けばパラディは大した軍事力を持たない。だからここは慎重に防御陣形を維持しつつパラディ軍の兵力を削り、増援の到着を待つべきだというわけです。
実は、この考察には大きな穴があります。持久戦が不利なのはパラディ軍も承知しているわけで、リスクを冒してまで突入してきたそもそもの目的が全く分かっていません。ピークは増援が来るまで持ちこたえれば勝てると踏んでいるようですが、それは敵の目的がレベリオの占領であり物量同士のぶつけあいに終始した場合の話。別働隊が何かを奪って逃げるような作戦だとしたら、防御陣形を取ることはむしろ陽動に乗せられていると言えます。前話でパラディ軍は建物の屋根に照明をつけて回っていましたし、作戦の次段階があることは明らか。ジークはピークの洞察を褒めつつもそれに気づいているのか、リヴァイを挑発して短期決戦に持ち込む構えです。
この時ジークは「エレン・イェーガーは俺の敵じゃない。まずはお前からだ、出てこいよリヴァイ」とのたまいますが、これはなかなか興味深いセリフです。「敵ではない」という慣用句は「大したことはない・楽勝だ・眼中にない」というのが一般的な意味です。戦いの場にあっては余裕や強気の発言と捉えるのが普通でしょう。しかし僕はこれを見て、読んで字のごとく「戦うべき相手ではない・傷つけたくない・攻撃しないからそこから動くなよ」という意味を含んでいると感じました。
ジークにとって、父であるグリシャは危険思想の持ち主でマーレへの反逆者です。パラディ送りとなったグリシャがなぜか巨人の力を手にして現地で再婚、さらに子まで設けて巨人を継承させていた。異母弟であるエレンはグリシャの思想による被害者で、救うべき対象だとみなしている。どういう形で救うつもりなのかは分かりませんが、いずれにせよエレンをぶっ殺して始祖を奪えばいいとは考えていないのでしょう。
しかしリヴァイが挑発に応じる気配はなく、その間に軍港ではアルミンが超大型を顕現させ増援艦隊を殲滅。それを見て危機感を募らせた「顎」ポルコは独断で前へ飛び出してエレンに襲いかかります。パラディ軍の目的が何にせよ、「始祖」を奪いさえすればその目論見はすべて崩れるに違いないと信じて。
疾駆する顎に対し、エレンを守るべく立ちふさがるのはミカサ。彼女の迫力の前では「顎」の体躯ですら小さく見えます。
「顎」が飛び出して陣形が手薄になったのを見計らい、「車力」の機関銃を潰すためにパラディ軍は部隊を整えます。その動きをピークが警戒し背後がおろそかになった瞬間。何かが空を裂き、「獣」がうなじから血を噴き上げて轟音とともに地面へ崩れ落ちます。鬼の形相で「獣」を斬り伏せたリヴァイは懐から爆弾を取り出してうなじの傷へ投げつけ爆破。ジークがこれで死ぬとは思えませんが、少なくとも重傷でしばらく戦線復帰はできないでしょう。
分断され単騎となった「車力」に群がる立体機動の兵士たち。物陰から機を伺っていたサシャが狙撃でピークの背に乗るガンナーの1人を射殺。逆上し突進したピークにタイミングをあわせてジャンが雷槍を撃ち込み面具の上から頭部を爆破。動きが止まったところへ上空から雷槍の一斉攻撃を受け、銃座のパンツァー隊は皆殺しにされます。全身を寸断され屋上から転げ落ちる「車力」。
マーレの力と勝利の象徴であった巨人が瞬く間に2体も撃破される様を目の当たりにしたファルコは、瀕死の「車力」に駆け寄ると、止めを刺しに降りてきたジャンの前に身を挺して割り込みます。「撃つな!!」ファルコの叫びはジャンに届くか?
つづく
ジャンは昔からチョイ悪ぶってるくせに甘ちゃんでお人好し。マーレ編ではより正義漢に成長していてエレンよりよほど主人公ヅラしています。もちろんそこが彼の魅力ですが、今回はその甘さが吉と出るか、凶と出るか。
前回・今回と久々にサブキャラが大勢死んでいます。本作は初期こそ名前のついたキャラがあっけなく死んでいって後ろ暗い中毒性がありましたけど、途中から使い捨てで死ぬ人は減りました。数えてみると結構たくさん死人がいるものの、何かしらドラマがあっての死に方へシフトしています。これはまあ「GANTZ」にせよ「テラフォーマーズ」にせよ似たようなもんです。怪我を治せる能力が登場したりして緊張感は薄れることが多い。
ゾフィアとウド、門兵のおじさんやパンツァー隊といったキャラが簡単に、かつ惨たらしく死んでいくのは初期の頃を彷彿とさせます。初期と決定的に違うのは、殺しているのが巨人という正体不明の怪物ではなく人間であることですね。
かつてはパニックホラー的な位置で引き合いに出されることが多く、僕の知人をして「進撃の巨人ってハカイジュウみたいな感じでしょ?」と言わしめた本作ですが(確かにそっちも巨人が殴り合ってたけどw)、今この作品を読んでパニックホラーだと思う人は少数派でしょう。一見してグロい描写が目立つので「なんか血がドバドバ出て戦う漫画」という扱いですが、これほど高い構成力を持つ主軸とセンシティブな内面描写を包含している漫画はそう多くないので、ぜひ先入観を一旦はずして読んでみて欲しいと、いつも思っています。この記事を読んでくださってる方に言っても意味ないんですがw