進撃の巨人 ネタバレ考察

(100)宣戦布告

エレンとライナーの再会の場は地下室。事情を知らず同席したファルコは重苦しい空気に喘いでいた。

外ではタイバー公がパラディ島への宣戦布告の前フリとなる大演説を続けている。

今夜、マーレの歴史は大きな転換点を迎えることとなった…。

進撃の巨人 第100話 宣戦布告
別冊少年マガジン2018年01月号(12月09日発売)掲載

「敵」

数日前。タイバー公・ヴィリーと戦士隊隊長・マガトは馬車の中で演説の段取りを詰めています。

マーレ軍幹部が一同に会する絶好の機会をパラディ島勢力が逃すはずがない。「敵」がすでに海を渡ってレベリオに潜伏していることを察知している彼らは、演説の場に襲撃があることを予見し、それを利用して軍の幹部らを葬る算段です。そしてごっそり空いた席にはマガトの息がかかった者たちが後継として座り、マガトの思い通りに動く軍を作り上げる計画。

襲撃を知りながら未然に防ぐのではなく、大きな被害が出ることを承知で看過し、そら見たことかとパラディ島脅威論を再度唱える。これがヴィリーのやりたいことのようです。

結局、マーレの国体を維持するべくヴィリーが考えていた策とは、どんでん返しの平和的解決ではなくパラディ島との戦争。これでは今のマーレの方針と変わりないのですが、現軍部主戦派との違いは「誰が仕切るか」「後処理をどうするか」といったところでしょうか。つまりは「あいつらじゃ失敗するからオレがやるぜ!」という権力闘争に帰結しました。

ヴィリーはパラディ島勢力をはっきり敵と呼んでいますので、エルディア人同士の連帯感はなく、あくまでマーレの保全と利益を第一に考えているように見て取れます。彼は案外凡人ですね。「沈黙の艦隊」で世界全体の驚くべき安全保障の構想を唱えた海江田四郎のように、超然とはるか遠くを見据えた行動原理は持ち合わせていなかったようです。

ただ一点、ヴィリーが自らの命を囮として差し出す覚悟を決めている点は、平和ボケしているとは言えさすが名家の当主と思えるでしょうか。

パラディ島勢力をおびき寄せるための盛大な催しの中心人物であるヴィリーは、おそらく襲撃で真っ先に狙われ、命を落とす可能性が極めて高いとマガトは言います。ここは二人の密談ですから、もし彼が「戦槌の巨人」の能力者ならそんな心配はいらないはずで、つまりこの当主は巨人の継承者ではありません。

タイバー公の言う救国の英雄ヘーロスとはすなわち…自分のことだったのです。偽りの生を送ったヘーロスと、開戦の口実となるため脅威を演出して死ぬタイバー公。方法こそ違えど、自らを犠牲にしてマーレを勝者へ導くという筋書きに変わりはありません。

マガトはヴィリーを守りきる自信がないと吐露しますが、ヴィリーはそれでもやらなければならないと言い、そしていよいよ演説台に立ったのでした。

パラディ島に残された戦力

前話から演説は続いています。ヴィリーが語る歴史の真実に聴衆は眉をひそめながらも聞き入り、大声を上げる者もいません。判断がつきかねているのか皆冷静です。

ヴィリーの演説は、現在のパラディ島の脅威についての段に進みました。

パラディ島で王都を中心に三重に築かれ、周囲ぐるり何百キロメートルとある壁の中にはビッシリと大型巨人が埋まっていて、今は休眠状態にある。ひとたび「始祖の巨人」がその力で命じれば、壁に眠る何千何万の大型巨人が一斉に進撃を始め、「地ならし」と呼ばれる集団戦術(ただ集まって歩くだけ!)を開始する。

そうなればいくらマーレや連合国軍が近代兵器を繰り出したところで、圧倒的な物量の前にただ蹂躙されるだけとなる…。王蟲の群れが真っ赤っ赤になって押し寄せてくるようなものですから、この世の終わりと言って差し支えないでしょう。火力で対抗するには腐っていない巨神兵を並べる必要があります。この戦術は難しい作戦を必要とせず、目標を決めたら後は歩くだけという単純さが非常に効果的ですね。

壁の中にひきこもったフリッツ王家が有する本当の戦力は、島に散らばった(今はほぼ絶滅した)「無垢の巨人」たちではなく、壁そのものだったというわけ。徒歩でどうやって海をわたるのかは分かりませんが…。

兵器による「地ならし」と聞いて誰もがピーンと来るのはVガンダムの「地球クリーン作戦」でしょう。バイク型陸上戦艦とか言うぶっ飛んだ設定のぶっ飛んだ巨大兵器が街を踏み潰すぶっ飛んだエピソードがありましたが、今はどうでもいいです。

壁が巨人の力で作られたものだと分かってから、ファンの間では「マリア」「ローゼ」「シーナ」は壁の人柱になった巨人の名前ではないかと言われていましたが、そうではなく神話由来だったようです。 

エレン

地下室でエレンはライナーと相対したまま静かに演説を聞いていました。欠損していたエレンの脚は湯気を噴きながら修復し、それを目の当たりにしたファルコは騙されたことに気づき、手紙の運び屋をやらされていたことにショックを受けます。

エレンはあくまで静かな態度を崩さず、淡々とライナーに質問を続けます。パラディ島へ潜入したライナーたちがどんな使命を負っていたのか。なぜ壁を壊したのか。詰問する感じではなく、静かに、どうして、と問いかけるだけです。エレンはすでにライナーへの個人的な復讐心は忘れており、狼狽し懺悔するライナーを達観したような佇まいで諭します。

かつて敵地へ潜入し、現地の人々に混じって生活をしたライナーたち。今のエレンもそれと同じことをしていて、壁の中も外も人間のありようは同じだと知りました。今ならライナーの苦しみがわかるとエレンは言い、手を差し出します。これはまさか、エレンが物分りの良いグローバリストとしてライナーと和解し、一緒に戦いのない世界を作ろうぜ・友愛!的なルートに入るのかーー!?

椅子を放り出し地べたに伏していたライナーが戸惑いながらその手を取り、立ち上がりました。手を握ったまま、エレンは続けます。「オレは進み続ける…敵を駆逐するまで」

そしてエレンの右手から電気のような発光が起こり、次の瞬間。

高らかにパラディへの宣戦を叫んだタイバー公の真後ろの建物を崩して、「進撃の巨人」となったエレンが姿を現します。驚き見上げるタイバー公は巨人の打ち下ろしで胴体がまっぷたつに粉砕され、開戦を告げるエレンの咆哮がレベリオの夜に響き渡るのでした…。

激戦の幕開け、次号につづく

 

エレンは、壁を壊したことを悔いるライナーに「世界のためなら仕方ないよな」と同情あるいは憐憫のような物言いで語りかけました。もうライナー個人に執着して憎悪を燃え上がらせているというわけではなく、「相手の国が自分たちを敵視して襲ってくるなら、身を守るために火の粉を払うのは仕方ないよな、オレも同じだ」と言っているように聞こえます。戦うべき相手は個人ではなく、未知の存在への恐れや無理解なのです…とか言ってポヤヤンとした和解にならない点は高く評価したい。

エレンにとってライナーはあくまで敵のままです。間接的には母の敵でもあります。しかし、エレンはもうそういったことには拘っておらず、それどころかライナー本人にも大して興味なさそうです。ライナーもファルコも巻き込んで殺しちゃうかもだけど、仕方ないよな。とでも言うのでしょうか。かつて目を血走らせながら「巨人を一匹残らずぶっ殺したいです」とか「お前らがなるべく苦しんで死ぬよう努力する」とか言ってた狂犬野郎が、ずいぶん変わったものです。本人的には黒歴史なのかも。

今のクールなエレンは少年誌の主人公としてはあまり適格ではないので、やはり軸足はガビたち戦士隊候補生の方に移っていると感じました。そうするとエレンは元主人公の悪役です。バカ売れしている作品で主人公を入れ替えるなんてよほどの冒険ですが、これをよく編集部が許したなあと感嘆を禁じえません。

ノッポの兵士

ところで、演説の最中に厳戒態勢を敷き会場を監視しているマガトですが、呼び出そうとした戦士隊は行方不明になっています。それもそのはず、ピークとポッコは不審な兵士の手によって罠にかかり、井戸のような竪穴へ転落していました。

地下の穴蔵では狭くて巨人化できないらしく、下手に巨人化すると周囲の壁を崩せず圧死するというのが微妙にリアルな設定ですね。圧力ではじけ飛ぶのは巨人の肉体だけで、本体は別にダメージないようにも思えますが、そうすると壁が崩れてきて本体が下敷きになるとかそういうアレでしょうか。

なぜ普通の民家にこんな大仕掛けがあるのか?という疑問についてはピークが答えてくれました。マーレには巨人戦士への対策としてこのような罠がいくつもあるそうです。マーレは巨人化能力を持つ異民族を隷属させて軍でこきつかってるわけですから、常に腹に爆弾を抱えているようなもの。反旗を翻す危険を考慮し備えているのも宜なるかな、といったところでしょう。

ピークとポッコを罠にはめた「ノッポの兵士」にピークは見覚えがあると言います。このフラグから正体は身内の裏切り者ではなくパラディ島出身者であると思われますが、かつてピークがパラディ島で戦ったことがある面々で特別背の高いキャラはいなかったはず。ということはここ数年で成長していると思われ、元々背の低かったキャラが意表を突いて出て来るような気がします。コニー…はこういう作戦には不向きな感じなので、アルミンが超大型を取り込み自分も背が伸びたとかw

次号では巨人化したエレンに呼応してあの兵士も行動を起こすでしょうから、答え合わせはその時に。

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別冊少年マガジン(毎月9日発売)で連載中、
「進撃の巨人」のネタバレ感想ブログです。

ネタバレには配慮しませんので、ストーリーを楽しみたい方はご注意下さい。

※フラゲ速報ではありません。本誌発売日の夜に更新することが多いです。

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