進撃の巨人 ネタバレ考察

(71)傍観者

エレンの中に宿る父グリシャの記憶の断片。

その中に登場したある兵士の顔にエレンは見覚えがありました。

それは訓練兵時代に104期を指導した禿頭の鬼教官・キース=シャーディス。

グリシャのことを知っているはずのシャーディス教官に話を聞くため、エレンたちは訓練所を訪れます・・・。

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←After Before→

あのリヴァイ兵長ですら言葉を選んでしまうほどの痛ましさ!

いったいどんなストレスを受けたら人はわずか数年でここまで変わってしまうのか!?

キース=シャーディス教官(前・調査兵団団長)に何があったというのかー!?

グリシャの過去

20年前。

まだ一兵卒でしかなかったキース・シャーディスが、壁外調査の岐路にシガンシナ区の外で出会った青年がグリシャでした。

彼の第一声は「壁の外で何を・・・まさか・・・戦っているのか?」

目的語が省略されていますね。グリシャは「誰が」「何と」「戦っている」と思ったのでしょうか?

 

不審人物ということで拘留された若きグリシャは調査兵団の存在を知らず、問いかけに対する答えも要領を得ません。

それどころかこの世界の歴史や成り立ち、通貨に至るまで壁の中の文化を全く理解できていなかったのです。

この頃すでに勤務中の深酒が常態化していた様子のハンネスは酒のせいで頭をやられたのだろうと言いますが、それだけでは不可解な記憶喪失の説明がつかず、さりとてそれ以外に考えられる理由もありません。

グリシャが覚えていたのは自分の姓名と、医者であることだけ。

読者であればすぐに分かりますが、当然これはグリシャの演技です。

彼は記憶喪失などではなく、どこか違う世界から巨人の力を携えてやってきた異邦人であり、壁の世界の現状を知らなかっただけであると考えられます。

 

ではグリシャはどこから来たのか?

「進撃の巨人」の舞台にいくつの世界が存在しているのかはまだ分かりませんが、少なくともライナーたちが「故郷」と呼ぶ場所があり、そう簡単には行き来できないことがわかっています。

これが物理的な距離もしくは地形による制約なのか、それとも時間や次元といったSF的な断絶なのかは謎として残されており、今回突然にグリシャが出現した経緯についてもシャーディス教官の視点からはまるで分かりません。

記憶力のよい読者の方は覚えていらっしゃるかもしれませんが、グリシャがシガンシナに現れた時のエピソードは作中でもすでに少しだけ触れられていました(1巻)。かつてシガンシナで伝染病が蔓延した時、その治療薬とともにグリシャが訪れ、それ以来グリシャは街の恩人として慕われるようになったと。

このエピソードから、伝染病をまき散らしたのが実はグリシャではないか?街の住民に取り入るために起こしたマッチポンプではないか?という推測もありました。

レイス家の郎党を惨殺し「叫びの力」を強奪した行動から、グリシャが決して善良な医者ではなく、何かしらの政治的な目的・意図を持っていることが明らかになっています。病気を撒いて自分で治してみせ、恩義を植え付けるくらいのことをやっても不自然ではないと考えられたのも無理からぬ話でしょう。

が、今号では当時の伝染病の回想が描かれており、それを見る限りでは(少なくともシャーディス教官の視点では)純粋に治療に心血を注いでいるように思えます。

人々が巨人に怯えることなく生活できることに安堵し「よかった」とつぶやいた彼はまた、単なる悪人でもないはずです。

カルラをめぐる三角関係

グリシャが後に妻となるカルラと出会ったのもこの頃。

もとはシャーディス行きつけの酒場の給仕&客という関係でしたが、グリシャがカルラと彼女の両親の病も治してみせたことで関係が深くなっていったようです。

シャーディスはカルラに恋をしていますが後からグリシャに横取りされた格好。二人の結婚式にも参列したものの露骨に呆けた顔をしており、二人と会話をすることもなく立ち去るなどカルラに対する未練というよりも、グリシャに対する嫉妬と「いじけ」をこじらせた印象を受けます。

カルラに袖にされた空虚を埋め合わせるためか、シャーディスは壁外遠征にしゃかりきになって励みます。しかしその意気とは裏腹に空回りして成果が出ず、部下や住民たちからは無能呼ばわりで散々な陰口を叩かれるようになっていました。

シャーディスが何度目かの遠征から帰投した際、偶然再会したカルラは胸に男児を抱いていました。

シャーディスの身を案じる言葉をかけたカルラに、図星を突かれたシャーディスは逆上。口角泡を飛ばして激高し「男に愛想を振りまき酒を注いで回るしか取り柄のない者なんぞに」と罵倒します。これがニコニコ動画なら「クズwwww」と芝生が大発生すること疑いなし。

そうして自分の殻を大事に守り続けたシャーディスですが、その後数年にわたってめぼしい成果を出せず、やがて1巻の有名なシーン「何の成果も得られませんでした!!」につながるわけです。まさか禿教官と同一人物だったとは気がつきませんでした。

心が摩耗したシャーディスは、あの号泣の直後に自ら団長の座をエルヴィンに譲り、どうせ僕は凡人ですよ~無能ですよ~あー天才様はいいですねすごいですね~と、半ば人ごとのように王都への帰路につきます。

しかし期せずしてその日にシガンシナは超大型巨人に襲われカルラが死亡。鎧の巨人にウォール・マリアを突破され、人類はその後しばらく続く地獄への第一歩を踏み出すことになったのでした。

再会

シャーディスは団長の職を辞した後、寂寞と後悔に胸を覆われていました。

特別な人間はいる。それは自分ではない。ではなぜ自分は自分のことを特別な存在だと勘違いしてしまったのか。

もっと早く気がついていれば、素直に諦めていれば、多くの部下をいたずらに死なせることもなかったろうに・・・。

シャーディスにその思い込みのきっかけを与えた男が、ふたたび彼の目の前に立っていました。

シガンシナの家を出発後、レイス家領地の教会地下で巨人化してフリーダを殺害し、叫びの力を奪って逃げてきたばかりのグリシャ。

あれだけ派手な一家皆殺しの強盗殺人を繰り広げた後にも関わらず、青ざめた顔でシガンシナ襲撃後の家族の安否を求める様は別の意味で恐怖を感じます。

避難所でエレンを探し当てたグリシャはカルラの死亡の報せを聞くなり、エレンを連れて森へ入ります。

やはりここでも「グリシャがなぜエレンに叫びの力を託したのか」という理由は伏せられています。

グリシャに何らかの目的があるとして、巨人化能力の知識も練度も備わっている彼自身がその能力を使った方が、無知な子供であるエレンに託すよりもよほど確実性が高いと思われます。何よりグリシャはすでに巨人化能力を制御できているので、新たな「生贄」を必要としません。エレンが巨人化能力を獲得するためにはグリシャの命を差し出す必要があるため、この違いは極めて大きいはずです。なのにグリシャは結局エレンを巨人にして自分を食わせました。

グリシャの目的がなんだったのかは記憶情報としてエレンに引き継がれているはずですが、エレンはまだ十分に覚醒していません。早く思い出して下さい。

シャーディスは森のなかで激しい閃光と雷鳴のような音が轟くのを目撃し、現地へ向かった所倒れているエレンを見つけ保護。

それが彼の知る全てであり、彼が何も成し得なかったことの記録でもあります。

訓練所、あるひとつの真実

そして数年後。

訓練所の教官となったシャーディスは「通過儀礼」の場でカルラの息子と再会し、その瞳に並々ならぬ決意を感じ取ります。それは命を捨てても自分の意志に殉じる者の目。

シャーディス教官はその日、エレンが身に付けることになる姿勢補助用のベルトに細工をしました。エレンを試験で不合格とし、兵役や巨人との戦いとは無縁の暮らしをさせるために。

きっとそれが、かつて恋した女性の・・・カルラの願いだと信じて。

しかし、多くの読者の方がすでに御存知の通り、エレンはその小細工を気合でこじ開けて訓練兵になります。母の願いとは無縁の場所で自らの意志を貫こうとするエレンの姿を目の当たりにし、シャーディスはここでも己がただの脇役にすぎず、そもそも誰かの生を捻じ曲げるような力は自分にはないと思い知らされます。

そしてすでに作中で語られたように、ベルトの不備を認めてエレンを合格とし、行方知れずのグリシャの姿をエレンに重ねるのでした・・・。


「進撃の巨人」は絵柄のせいもあって愛だの恋だのといったエピソードとはあまり相性がいいようには見えないのですが、こういった少年誌らしからぬ報われない恋の話は味わい深くていいですね。

シャーディスは片思いの恋人をグリシャに奪われ、しかしグリシャを恨んだり憎んだりすることもできず、さりとて己の無力さを認めたくもない。その葛藤の図星を突かれた結果、心の代償(適応機制)としてカルラを罵倒し価値を下げることでしか心の安定を保つことができませんでした。手に入らなかったものは価値が低いのだと自分を納得させる行為です。

それまで可愛い可愛いと言っていた憧れの女子に告白して振られた途端「あんなブスに興味ねーし!」と言って自分が傷つかぬよう逃避している少年さながらであり、酸っぱいブドウそのものです。

この告白を聞いたハンジはシャーディス教官の行いを「幼稚な現実逃避」と斬って捨てますが、それはなんら間違いではありません。憧れの女性は手に入らず、兵団の長として成果を上げることもできず、自分はなぜ特別な人間じゃないのかと拗ねていただけです。

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↑エレンを連れて立ち去るグリシャに、シャーディスが放った名台詞。強すぎる光は同時に濃い影を落とす・・・。

グリシャから「あなたは特別だ、選ばれし者だ」と持ち上げられ、その言葉に人生を囚われてしまった男。まさかグリシャの洗脳技術か?

グリシャがいなければ、シャーディスも劣等感からの逃避という呪いを受けることなく、胸を張って生を送ることができたのでしょうか。

誰もが超人のような活躍を強いられる少年漫画・「進撃の巨人」の世界にあって、エレンやミカサよりもシャーディスやロッド=レイスのようなへっぽこ中年オヤジに感情移入してしまうのは、筆者がそれなりの年齢になってしまったことの証左かもしれません・・・。

似たようなプロットの漫画で記憶に残っているのは太田垣康男原作の「FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE」4巻、英雄の十字架というエピソードですね。今は特に掘り下げませんが。

 

さて、シャーディスに話を聞くことはできましたが、話の縦軸は結局何も進んでいません。1ヶ月待たされてワクワクしながらページを繰ったのに、オッサンの過去の恋話を聞かされただけです。お金返して!

わかったのはグリシャがどこか異世界から来たらしいこと、シガンシナ壊滅からエレンに食われて死亡するまでのグリシャの時系列がつながったことくらいでしょうか。

やはりこの先はシガンシナへ趣き、例の地下室をこじ開けて中を見るしかなさそうです。そこには猿巨人やライナーたちが待ち構えており、一悶着あることは間違いありません。

つづく

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別冊少年マガジン(毎月9日発売)で連載中、
「進撃の巨人」のネタバレ感想ブログです。

ネタバレには配慮しませんので、ストーリーを楽しみたい方はご注意下さい。

※フラゲ速報ではありません。本誌発売日の夜に更新することが多いです。

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