マーレでは戦士隊をはじめとして、パラディ島への侵攻の用意が進められていた。
タイバー家が来たる大演説会でパラディ島のエルディア王家へ宣戦を布告し、マーレ在住のエルディア人はそれに恭順を示すことで世界の一員に認められる…。
それが公のシナリオではあるものの、タイバー家当主ヴィリーや、戦士隊を束ねるマガトは別の絵を描いているようだ。
一方、時を同じくして、レベリオに潜入しているエレンも動きを見せはじめる…。
進撃の巨人 第98話 よかったな
別冊少年マガジン2017年11月号(10月07日発売)掲載
ファルコの告白
最初にお伝えしておきますが、今回はいわゆる「タメ回」。ラストで強めの引きがあるものの、それ以外はひたすら嵐の前の静けさが続きます。何が言いたいかというと、今回はあまり書くことがない。スラスラ~っと読んで終わりです。
舞台はもうすっかりお馴染み、レベリオ収容区のマーレ戦士隊本部。目下、パラディ島侵攻作戦の会議中です。露骨にエルディア人への差別意識を丸出しにした上官からライナーは邪険に扱われており、ポッコもその様子に業を煮やしています。
結局その場を追い出された戦士たち。こんなことで上策が期待できるのか…。今後のことを考えると、隊の誰もが漠然とした不安に包まれているようでした。
本部のグラウンドでは控え銃でのランニング訓練が行われており、丁度ファルコがガビを抜き去ってゴールしたところ。初めての勝利に歓喜し泣きむせぶファルコですが、戦士隊に混じってそれを見下ろすコルトは、今更ガビの継承優位は揺るがないと冷たく言い放ちます。それを聞き捨てできなかったのはポルコで、選考基準なんて曖昧だとコルトに釘を刺す。ポルコは前回の始祖奪還作戦において巨人継承候補でありながら、兄・マルセルの工作によって土壇場でライナーに席を奪われた経験がありますので、これはズシンと重い一言です。ライナーとポルコの間に気まずい沈黙が漂いますが、コルトやピークは工作の事実を知らないのか…。
訓練を終えて帰宅すがら、ガビとファルコは例によって小競り合いを起こしていました。ファルコの兄であるコルトが獣の巨人を継ぐことは決まっており、その一家は名誉マーレ人の待遇が約束されている。だからもうファルコが張り切って鎧の継承を目指す必要なんてない。なぜそこまで意地を張るのかと問いただすガビに対し、完全にその場の勢いだけで「お前のためだよ!」と言い放ったファルコ。よくぞ漢(おとこ)を見せた…と褒め称えたいところですが、衆人環視でムードもへったくれもない上、ガビはまだそういう機微にはてんで理解が及ばないお年頃。ガッツリ眉間にシワを寄せて「はぁああ??」とガチギレです。告白大失敗のファルコは哀れ遁走。ねるとん紅鯨団かお前は…。あ、「ねるとん」が分からない若い人は別に気にしなくていいです。
ファルコがいずこかへ走り去った後、ガビ、ゾフィア、ウドの3名は収容区の広場へとやって来ました。近日ここで行われる予定の、タイバー家がパラディ島への開戦を宣言するセレモニーの用意が進められています。
工事現場にはタイバー家当主のヴィリーと、戦士隊隊長のマガトの姿が。前回、マーレの実権を握っているのはタイバー家であることが作中で明かされました。その長であるヴィリーと、マーレ最強戦力の巨人戦士隊を要するマガトは密かに結託し、この国を造り替える算段を進めているらしく、家の改築になぞらえた符牒で情報を交換しています。マガトは話の締めくくりとして「我が家には既にネズミが入り込んでいる」とヴィリーに告げるのでした。
ネズミ
さてそのネズミはというと、病院の園庭にあるベンチでファルコの話を聞いていました。純粋なファルコを作り話で騙し、スパイ活動の片棒を担がせている卑劣な負傷兵、その名はエレン・イェーガーです。ファルコがガビに初めて勝ったことを讃え、自分もファルコのように前に進むために帰郷すると決意を口にします。彼にとっての前進とは、要するにマーレへの敵対行動でしょう。何度かの手紙のやり取りで、どうやら準備が済んだようです。
ファルコと入れ替わりにやってきた白衣の老人は、エレンに断ってベンチの隣に腰掛けると、診療医・イェーガーと名乗りました。彼はグリシャの父親ですから、エレンにとっては血の繋がった祖父。
訥々と昔話をし、後悔しないうちに家族の元へ帰れと言う老イェーガー。彼は家族の過去を思い出すにつれて興奮し、ついには錯乱し泣き叫びます。それを見た医師と看護師が飛んできて甲斐甲斐しくなだめながらエレンの祖父を連れて行ってしまいました。
この場面、ちょっとよく分からないんですけど…この老イェーガーさんはエレンとジークの祖父で、94話で凱旋したジークを普通に出迎えていたはずです。
23巻94話より。
しかし今回は精神的な疾患を持っているように描かれていて、医師だと名乗っているけど実は患者として病院に収容されているわけです。そして許可なく部屋から出て徘徊し、かつてグリシャとフェイ(妹)に起こった悲劇を思い出して絶叫。心に大きな傷を負っている様子が見て取れます。上の再会シーンからそう時間は経っていないはずですが…。
つかの間の祖父との語らいのあと、エレンは何事かを心に秘め、野球のボールを頭上へと放るのでした…。
祭りの日
レベリオの迎賓館では各国のVIPを招いての晩餐会が催されており、タイバー家当主が挨拶を述べます。終わりのない争いに対する回答を、明日舞台で示すと。
翌朝からは街をあげてのお祭り騒ぎとなっており、屋台や大道芸人たちが所狭しとひしめいていました。生まれて初めて経験するお祭りに大興奮のガビたちは、ライナーを捕まえてスポンサーを確保したのち食べ歩きを続け、やせ細るライナーの財布と反対にその腹を膨らませて行きます。
やがて日が暮れると広場に設営された舞台へと人が集いだし、奇妙なテンションが辺りを覆い始めました。
人垣を縫ってライナーの元へ駆け寄ったファルコは、用があると言ってライナーを連れ出します。ファルコはそのまま喧騒から少し離れた建物の地下室へライナーを案内し、入室を促す。訝しみながらも足を踏み入れたライナーの前に座る人物は、エレン・イェーガー。
「よかったな 故郷に帰れて」
冷たく言い放つエレンと、驚きに目を白黒させるライナー。二人の再会はこの世界にとってどんな意味をもたらすのか…。
つづく