今号の舞台も引き続きマーレ国。
巨人兵力を擁する大陸の覇者・大国マーレは、領土争いに端を発する中東連合諸国との小競り合いに4年もの歳月を費やした。
非巨人国家の軍事技術は急速に進歩を遂げ、かの戦場では巨人がもはや絶対無敵の戦力でなく、艦砲射撃や航空機が主役の時代へ移りつつあることが露呈。
軍事力を巨人に依存してきたマーレの軍事当局は戦争に勝利こそしたものの、このパラダイムシフトをどう乗り切るべきか頭を抱えていた。
今号は会話中心でアクションシーンはなく、いくつかの謎が明らかになる。その謎の中にはユミルの消息も含まれていた…。
進撃の巨人 第93話 闇夜の列車
別冊少年マガジン 2017年6月号(5月9日発売)掲載
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中東連合戦の総括
戦後の軍議。会議室で上座につくマーレ軍元帥は、戦争に勝利したとは思えない不機嫌な顔です。
その理由は近隣諸国の新聞の見出し。紙面には「人類の英知はついにマーレの鎧を粉々に砕くまでに至った」との文字が踊り、連合艦隊が「獣の巨人」によって壊滅させられた結果よりも、むしろ壁上砲台や艦砲からの徹甲弾が「鎧の巨人」の装甲を貫いたことにフォーカスする内容となっています。
これまで大陸では1000年以上に渡って巨人が全てに勝る力であり、「九つの巨人」を擁する勢力がそこに覇を唱えることは不自然ではありませんでした。しかし巨人を持たない周辺国家は巨人を超えるための研究に血道を上げ、その長い道程がようやく結実を見たというわけです。
前線でマーレの戦士候補部隊を率いたマガト、あわや返り討ちにされそうになった「獣の巨人」ことジーク、そして報告を受けたマーレ軍元帥はその事実を冷静に受け止め、理解していました。
では次の一手はどうする?
これに勢いづいた周辺連合諸国が航空機をはじめ近代兵器を増産し、再びマーレへ侵攻して来る前にできることは?
トーンで色がついている部分がマーレ支配圏。パラディ島のちっぽけさが際立ちますね。FF3の浮遊大陸みたい。
なお、マーレとパラディ島の位置関係はアフリカ大陸とマダガスカル島に似ていますが、現実の世界地図とは左右が反転しています。
パラディ島がマダガスカル島と同じサイズだとすると面積は58.7万km2。日本列島は37.8万km2ですから1.5倍くらいの差。世界地図では小さく見えますが実際はかなりデカい島です。
ジークは今こそパラディ島への始祖奪還作戦を再開すべしと進言。マーレ軍が近代化を図り非巨人戦力を主軸とした編成へ移行するまでの間、周辺諸国を牽制するために「始祖の巨人」を含む「九つの巨人」を全て支配下に置くことが必要であると力説します。
無論ジークの本心として個人的な因縁への執着も多分にあり、元帥もそれを見透かしてはいるものの、その言には頷くところもありました。またこれまでのジークの功績や忠誠を鑑みれば無下にすることもできず、元帥はジークの進言を受理し、党本部へ持ち帰ることを約束します。ストーリー的にはこれまでと敵味方が入れ替わり、ジークやライナーが率いるマーレ戦士隊がパラディの壁たるエレンたちへ挑むリベンジマッチの方向で進むのでしょう。
現時点でジークの「任期」(寿命)は残り1年、ライナーは残り2年。陸路や海路で兵隊が行軍する時代の戦争にかかる時間を考えると、もはや一刻の猶予もありません。ジークは内心かなり焦っているのではないでしょうか。
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パラディ島の現状報告
そんなジークですが、傍から見える様子は極めて理性的かつ穏やかなものです。建物の屋上で紙巻きタバコをふかしながら後継者候補のコルトと談笑しています。
コルトは「獣の巨人」の能力を継承できる自信がないとぼやいて見せ、さらに続けてとんでもないことを言い出します。
「…ジークさんは特別です」「あなたの脊髄液を投与された同志は」「あなたが叫べば巨人になるし言うことも聞く」「月が出ていれば夜にだって動ける」「…どうしてジークさんは特別なんでしょう?」「王家の血を引いているわけでもないのに」
どっひゃー!これはすごい。ラガコ村での住民失踪事件、シガンシナ奪還戦で目撃された「無垢の巨人」の一斉出現、要塞攻略戦での巨人投下攻撃…といった場面のカラクリがこれで明らかになりました。ジークは脊髄液を抽出して投与することで相手に因子を植え付け、それを咆哮でONにできる能力を持ち、ジークが咆哮で巨人化させた「無垢の巨人」は命令も聞くし夜も動ける。これは「獣の巨人」だからというわけではなく、歴代でもジークにのみ発現した希少な特質とのことです。そしてそれは「始祖の巨人」の能力に似ており、おそらく王家の血に由来している。であればコルトが継承できないのも道理か。
ジークの母・ダイナが王家の傍流であることはフクロウことクルーガーが報告を握りつぶしていたらしく、公になっていません。研究者もジークだけが固有の能力を持つ理由を解明できていないようなので、上層部も彼の血統について知らないと思われます。ジーク本人はレジスタンス活動に熱心だった両親から己の出自を聞いて知っていたはずですが、これまでそれを伏せてきた理由は不明。もしその因子を解明して量産できればマーレの戦力は飛躍的に向上すると思われるため、ジークほど忠誠心の強い者ならば進んで検体となってもおかしくなさそうなものですが。
真意を見せぬままコルトの問いかけを軽く冗談交じりに流すジーク。そこへ隊長のマガトが姿を見せ、パラディ島の現状についてジークと共に説明してくれます。
22年前に「フクロウ」ことエレン・クルーガーが「進撃の巨人」を持ってグリシャと共にパラディ島へ渡り、その後グリシャが始祖の巨人を奪ったと思われること。
過去3年の間にパラディ島へ32隻の調査船・駆逐艦を送り込んだものの、1隻として帰還せず消息を絶っていること。
「始祖」「進撃」「超大型」「女型」の4体をパラディ島勢力が保持しており、少なくとも2体以上が沿岸で運用され調査船を沈めていると考えられること。
巨人科学の副産物である「アッカーマン」が少なくとも2人いること。(※ミカサとリヴァイ)
おかしな機械をつけ、巨人を殺すことだけを考えて剣や爆弾を持ち訓練した連中が島を飛び回っていること。
…悪夢としか思えない情報を改めて耳にし固唾を飲むコルト。パラディ島…なんて恐ろしい魔窟なんだ…。マーレの視点で見ると立体機動装置をつけた調査兵団の異常性が強調されますね。物は言いようです。ここ最近の展開は読者の感情移入先をエレンたちから上手にマーレの戦士側へシフトしていて、構成の巧みさに僕は唸りっぱなし。ジークも想像よりずっと人間臭いし、超然としたヒーローではなく弱さが見て取れることで好印象です。ここにベルトルトがいれば、かつて彼が発した叫びを思い出して共感もできたでしょうに…。
ジークやコルトがイメージしたエレンとアルミン。こんなとこ輸送船で近づいたら死ぬに決まってるw
アルミンはこの「超大型」の姿なのか、それともベルトルトを食った時の巨人の外見なのか?
さらっと言っていますがアッカーマン一族は巨人研究の副産物として生まれたらしく、遺伝子操作などがされているのかもしれません。彼らは記憶操作を受けないことからユミルの民とは血統を異にするはずなので、征服した国の民を取り込んだのかも。
「顎」と「車力」
ベッドで悪夢から目覚めたライナーの隣では、「顎の巨人」ことガリアードがサンドイッチを片手で頬張りながら報告書を記しているところでした。
「顎の巨人」はコルトらから大きな信頼を寄せられ、強さと共にどこかしなやかな気品や風格を漂わせていましたが、今回初お目見えした本体はアメリカの高校生みたいな面構えです。
アメフトとかやってそう。
彼はライナーに対しては意外と辛辣で、起き抜けからイヤミを飛ばします。あれっ、ちょっと嫌な奴?と思ったのですがその理由はすぐにわかりました。ガリアードはマルセルの弟です。
マルセルはライナーたちとパラディ島に上陸した直後、「無垢の巨人」だったユミルに襲われ捕食されています。ガリアードはそれをライナーたちの落ち度だと今でも根に持っているわけ。
彼らの会話から、なんとマルセルがパラディ島へ持ち込んだのが「顎の巨人」であったことが判明。つまり「顎の巨人」はマルセル→ユミル→ガリアードと継承されているので、ユミルはガリアードに食われたことになる。
ヒストリアを救いたいという偏執的な愛情の末に場当たり的な行動を繰り返し、なんかよくわからない勢いで調査兵団から離反した挙句、マルセルから奪った「顎」を返したユミル。おそらく車力が背負っていた樽にでも入ってお持ち帰りされたのでしょう。あまり一貫性があるとは言えず不明瞭な言動もありましたが、これにて退場。あとは記憶を継承したガリアードとヒストリアが出会った時に記憶がフラッシュバックして何かしらのドラマがあるといいですね。
ライナーが兵士として演じた頼れる兄貴像はマルセルの猿真似に過ぎない、とネチネチ責めるガリアード。なぜ今その話を…?と思わないでもないですが、反論せず肯定するライナーの態度にガリアードは逆にカチンと来たらしく、ピリピリ険悪なムードが漂ったところへ1人の女性が入室します。
左手に松葉杖を携えており、疲れた目に不健康そうな顔をした黒髪ロングの人物。彼女の名はピーク…四つん這い「車力」の本体です。こちらも初登場。まさか華奢な女性が出て来るとは。
↓ なんということでしょう
遠目には「守ってあげたい薄幸の美少女」的な佇まいですが、アップだと魔女っぽい老練さや達観みたいな空気が感じられるかな?
本人曰く、人に戻るのは2ヶ月ぶりとのこと。かなり便利に色々使われているようです。まあ実際見た目の印象に反してすこぶる優秀な巨人ですからね。
今回は顔見せだけで出番終わり。ガリアードとは仲がいいようです。
リベリオ区へ
戦争が終結したことで帰還命令が下り、ファルコやガビら戦士候補生たちは本部があるリベリオ区へ帰るようです。
姿を見せたライナーに大喜びで飛びつくガビ。貴重な休日、街を見て回ろうとはしゃぐ姿は年齢以上に幼くも感じられ、とても戦場で手榴弾を投げて装甲列車をぶち壊してきた少女とは思えません。ライナーになついているガビを見て嫉妬したのか、ファルコはライナーの体を気遣う素振りで、まだ寝ていた方がいいのではと尋ねます。
大丈夫だと笑顔で答えたライナーは、すぐに口喧嘩を始める賑やかな候補生たちの姿にベルトルトやアニを重ねるのでした…。ところで、そろそろアニ出てこないかなあ。
x x x x x
その夜。リベリオへ向かっていると思われる軍用列車の倉庫で酒を煽りながら馬鹿騒ぎをするコルトたち。話題は戦場でガビが見せた活躍です。
その様を見ながら、ファルコはどうやら「鎧の巨人」の後継者はガビで決まりそうだと、浮かない顔でライナーにこぼします。ガビが鎧を継承して寿命を縮めることになってもいいのかと半ば責めるような口調のファルコ。ライナーは厳しい顔でファルコに覚悟を問い、ガビを守りたければお前が彼女を超えて鎧を継承するしかない、お前が真っ暗な未来からガビを救い出せと、肩を掴んで言い聞かせます。
大いに盛り上がる候補生はじめエルディア人兵士たちをよそに、隣の士官用車両ではマガトやジーク、ガリアードとピークらが静かに着座しています。マガトはこの騒ぎも今宵だけは目をつぶると言い、それを聞く戦士たちの表情はあまり明るくありません。明日から何かが待ち受けているような面持ちです。巨人の継承者を決める最終試験でも始まるのでしょうか? 「よし、それでは二人一組になって殺しあえ!」とかw
それぞれの思いを乗せて、列車はガタゴトと音を立てながら闇夜を弾丸のように切り裂いて進みます。
つづく
「お前ならわかってるんだろ ユミル」
今回明言されたジーク固有の能力に関連して、ちょっと思い出したこと。
エレン誘拐事件の時にライナーがユミルに言っていた「そんなことお前ならわかってるんだろ」というセリフがありました。
「そんなこと」というのは「ジークが作った巨人は夜でも動けるが、普通の巨人は夜に動けない」という事実を指します。…が、ユミルは60年前にパラディ島に送られておりジークのことを知るはずもありません。「獣の巨人」も知らず、ライナーに対し「あの猿はなんだ?」と質問しています。
ユミルはマーレの戦士であるマルセルを食っているので記憶を継承していると考えたライナーはユミルにああ言ったものの、ユミルの中でマルセルの記憶はあまり蘇っていなかったようです。
11巻 46話より。あーそういうことね、完全に理解した(←わかってない)
「九つの巨人」の所在
【パラディ島勢力が保持】
「始祖」 :ウーリ→フリーダ→グリシャ→エレン
「進撃」 :クルーガー→グリシャ→エレン
「超大型」:ベルトルト→アルミン
「女型」 :アニ(捕虜として拘禁後、詳細不明)
【マーレ軍が保持】
「獣」 :ジーク
「鎧」 :ライナー
「顎」 :マルセル→ユミル→ガリアード
「車力」:ピーク
「??」:(作中に未登場? )
「顎」とユミルの持っていた巨人が同一だったため、一体が未詳になっています。ジークはパラディ島に4体いると明言しているので残り5体はマーレ軍にいるはず。