自分の中に宿る巨人の記憶をついに覚醒させ、父・グリシャが歩んだ壮絶な生涯を知ったエレン。
そこで明らかになったのは、壁の外に広がる世界の姿と、巨人化能力者の寿命にまつわる事実だった。
「進撃」の名を冠し自由を司るという巨人を継承した主人公は、この残酷な世界にどう向き合うのか…。
進撃の巨人 第89話 会議
別冊少年マガジン2017年2月号(1月7日発売)掲載
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御前会議
今号は大勢の犠牲者を出したシガンシナ奪還戦の事後処理、ここまでの情報を整理する説明回です。アクションは一切なく、ひたすらセリフだけでページが進みます。
作戦行動中のリヴァイに対する命令違反行為により懲罰房へ入れられていたエレンとミカサでしたが、10日ほど予定を切り上げて解放。トロスト区で開催される御前会議へと駆り出されました。
参席するのは女王ヒストリア、総統ザックレーなど壁の為政者たち。シガンシナ奪還戦を総括し、手に入れた情報を吟味して今後の人類の大方針を決める、極めて重要な催しと言えます。
第一線でその戦いをくぐり、また新たな世界そのものであるグリシャの手記を発見したエレンたちは、当然ながら重要参考人として議場の中央に呼ばれていました。
ザックレーの問いに答え、読者に対して現在の壁中人類と世界の構造について、手記の記述を元に改めて説明する役はハンジ。エルヴィン亡き調査兵団を率いる新団長です。
彼らが理解した現状とは以下の通りです。
・壁中人類は「ユミルの民」と呼ばれるエルディア人の一族で、壁外に住む人類全て(世界)から敵視されている ・隣国マーレでは資源を目当てに壁の世界(パラディ島)の攻略を画策している ・マーレ国はパラディ島上陸の障害となる「無垢の巨人」(=モブ巨人)を排除するため、巨人を操れる「始祖の巨人」の力を欲している ・「始祖の巨人」を手に入れた場合、マーレ国はエルディア人を巨人化させて軍事利用、または根絶やしにすると考えられる ・壁の初代王である145代フリッツ王は、「始祖の巨人」と「不戦の契り」を交わし、滅びを受け入れるつもりでいた ・戦わず逃げたフリッツ王から「始祖の巨人」を奪還し、エルディアをマーレから守ることがグリシャの狙いであり、現在「始祖の巨人」はエレンに継承されている ・現状でマーレが侵攻してきた場合、防衛には「始祖の巨人」の力で「壁の巨人」を動かす必要があるが、不戦の契りによって王家の人間は「始祖の巨人」を発動できない ・エレンは王家の血筋ではないにも関わらず「始祖の巨人」の力を発現させた実績があり、そこに事態を打開する突破口がある… |
話がここまで進んだ時、エレンはなぜ「あの時」だけ座標の力を扱えたのか、その理由に思い当たります。
あれはエレンとミカサが「無垢の巨人」と化したダイナに襲われ、エレンが破れかぶれになって素手で殴りかかり、ペチンと拳が触れた瞬間の出来事でした。確信はないものの、王家の人間と物理的に接触していれば、叫びの力は使えるのではないか…?
と思いきや、エレンはなぜか発想が飛躍し「ヒストリアを巨人化させて、自分が食べればもしかして…!」と思ってしまったようです。いやいや、エレン君は巨人ダイナを食ってないだろと。手のひらに触っただけで力使えただろと。はいこれが証拠。はい論破。
12巻より。この直後ビリビリと電気が走るのをライナーたちが感知しています。
ですからまずはラピュタの滅びの呪文のごとく、ヒストリアと並び手を握って叫ぶところから実験すればいいと思うのですが、当のエレンは「やべーよ、こんなのバレたらヒストリアが巨人化させられてオレの餌になっちゃうよ」と勇み足な心配をして油汗をかいていました。この場合、青年誌ならヒストリアの脳と脊髄を取り出してユニット化とかやりそう。薄暗い地下室で、青く光るガラス槽に浮かぶ脳と脊髄…ってどっかの18禁ゲームで嫌というほど見た光景ですよね。少年誌でよかった!
01/09追記 諫山先生のブログで、この部分について誤植の訂正がありました。
とのことです。 ヒストリアの寿命が縮むだけで済むなら、この状況下では現実的な判断と言えます。エサとして適当なのはやはりアニか。 巨人化薬はマーレでは処刑にジャブジャブ使われていましたが壁中では貴重品。ジークがおそらく大量に持っているので、ここから奪取するのか? |
エレンは母・カルラとハンネスの仇の正体がダイナだった記憶を周囲に伏せており、ミカサやアルミンもそれを知らない様子。空気の読めない鈍感タイプのエレンですが、さすがの彼もここまでドロドロにもつれた悲惨な関係は言い出せなかったようです。あの時殴った巨人がエルディア王族であった…という事実はエレン本人しか知りません。
その様子を無言でじっと見据えるアルミン。こいつはエレンのモノローグを全部お見通しな目つきだぜ!
もしダイナの時と同様に接触するだけでエレンが「始祖の巨人」を発現できるのなら、ヒストリアとコンビで出撃すればいいだけなので話は簡単です。3つの壁に埋まっている大型巨人たちを覚醒させ、無垢の巨人の大軍を率いて戦えば、さながら巨神兵と王蟲の群れを同時に従えているようなもの。マーレの兵など相手になりません。
その際ヒストリアがうっかり死ぬとまずいので、念のため巨人化させてからアニを食わせておき、始祖の巨人ではなく女型の巨人を継承してもらいましょう。これで簡単には死にません。(13年ルールで寿命が縮みますけど…)
しかしそれで楽勝してしまっては物語的に盛り上がりませんから、諫山先生は強大な戦力の獲得と引き換えに嫌らしい制約を設けて葛藤を迫ってくるはずです。
クルーガーの記憶
フクロウことエレン=クルーガーは、グリシャに巨人化薬を注射する直前にこう言い残しました。
壁の中で家族を持て。
人を愛することができなければ、何度も同じ歴史と過ちを繰り返すだけだ。
ミカサやアルミン、みんなを救いたいなら使命を全うしろ。
…ミカサ? アルミン? 聞き覚えのない名が出た理由がわからず首を傾げるグリシャとクルーガー。
なんと、ここに来てループ世界説が再浮上です。
となると、エレン=クルーガーとエレン=イェーガーの関係も怪しくなってきますよね。顔も似てるし。
エレンが老けたような顔に見える…。
発言や13年ルールからして同一人物がタイムスリップしたわけではないハズですが、この時まだ生まれていないミカサとアルミンの名が出てきた以上、①記憶や存在がタイムリープして閉じた時間の輪を巡っているか、②過去から現在まで記憶を引き継ぎつつ周囲の人間関係も因果によって再現されているか、のいずれかと考えられます。そしてその記憶を引き継いだグリシャが、壁の中でカルラと設けた子に目の前の男の名「エレン」を付けているという事実! こいつはくせぇーっ!
この時ダイナへの操を立てようとしていたグリシャがわりと速攻でカルラを落としていることを見ても、彼が壁中でどこまで自分の自由意志のもとに行動していたのかは不明瞭。そこはかとなくクルーガーや「進撃の巨人」の記憶による呪縛に近い印象も受けますよね。継承した記憶と自分の記憶がごっちゃになってるみたいな。先代の意志に縛られる「不戦の契り」のように、記憶を継承することで行為が規定されることはあってもおかしくない。
そしてグリシャがエレンに注射を打って自分を食わせた際のセリフは「ミカサやアルミン みんなを救いたいなら お前はこの力を支配しなくてはならない」。これが実はクルーガーに言われたセリフそのままだったわけで、「救う」の意味が変わってきますよね。これまで読者が考えていたような「巨人の侵攻から生命を守る」という目先の話ではなく、閉じたループからの解放という意味合いを帯びてきます。
閉じた結末・無限に繰り返す時間の輪を打ち破って、到達できなかった未来へたどり着くこと。それこそが本作の舞台装置として最大の壁を打ち破り、みんなを救うということなのでしょうか。
ループものでは良くありがちな結末ですが、それが最も清涼感のある終幕だという意見に異を唱える方は多くないでしょう。
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ユミルの手紙
ここで一旦時間を戻して、御前会議の直前。
ヒストリアは、ハンジがライナーから回収したユミルの手紙を読んでいました。そこに書かれていたのはユミルの半生の記憶です。
彼女は身寄りもなく路上で暮らす浮浪児で、自分の本当の名も知りません。「ユミル」の名は彼女を拾った宗教家(を装った詐欺師)によって与えられたものでした。なんと、エルディアの始祖ユミルとは全く関係のないただの孤児とはw 過剰な期待をしすぎて肩透かしでしたね。
マーレ内のエルディア人コミュニティと思しき集団の中で、保護者役の男によって始祖ユミルの生まれ変わりだとでも吹聴されたらしく、彼女と男は壇上でうやうやしく扱われています。彼女は自分の居場所が手に入ったこと、周囲の人間が喜んでくれることに幸せを感じ、ユミルの役を演じ続けました。
やがてその宗教団体は大きくなりすぎたのかマーレ当局に摘発されてしまい、ユミルは人心を謀った悪魔として捕らえられます。保護者の男もユミルを罵り、誰一人味方のないままユミルは市中を引き回され投石を浴び、パラディ島海岸の処刑場で巨人化の刑に処されました。
その後、(本人の記憶が確かならば)60年くらいパラディ島を「無垢の巨人」として彷徨った後、パラディ島へ潜入してきたばかりのライナーたちを襲ってマルセルを食べたことで人間に戻り、第二の人生を手に入れたというわけです。
誌面では場面に応じた回想が挿入されており雰囲気はつかめますが、手紙の文面自体はポエムに近くふわっとした表現に留まっています。唯一の心残りはヒストリアと結婚できなかったことだ…と手紙は結ばれており、バカだなあ、これじゃわからないよと言ってヒストリアは顔をそむけ、その表情はうかがえません(こっそり泣いてます)。
手紙にはハッキリと「これから私は死ぬ」と書いてありました。
偶然とは言えユミルはマーレの戦士を捕食して「九つの巨人」を横取りし5年も行方をくらましていましたから、後任の戦士が彼女の脊髄を摂取し力を取り戻すのが自然な流れでしょう。
この手紙が書かれたのはエレン誘拐からシガンシナ奪還戦までの間ですが、12巻の最後に加筆された4ページ(ライナー・ベルトルト・ユミルがシガンシナについた後のやりとり)の後、彼女の行方はまったく知れません。生き餌として四つん這い巨人の背負うタルの中にいたのか? すでに誰かが食べた後なのか? 本国へ輸送されているのか?
彼女の再登場がどのような形になるにせよ、おそらくヒストリアのアクションとセット扱いだと思われます。再会が楽しみですね。
次号へつづく。
スケールでけえ!
(01/09追記) それなら本当の敵は何かというエレンの問に、ユミルは「世界だ」と答えようとした。 「お前ら壁中人類は世界中から悪魔的所業で忌み嫌われたエルディア人の末裔なんだよ。壁から出たって大陸に渡れば収容区送りで、今の暮らしのほうが残酷な事実を知らずに済むだけなんぼかマシかもしんねえぞ。まあグズグズしてっとマーレがこっちに攻めてきて皆殺しにされるか、巨人化させられるだろうけどな。だから仇がどうとかちっぽけな過去なんかに囚われてないで、世界全部を敵に回してやりあう方法を考えやがれ、このチーハン野郎!」ということが言いたかったのでしょう。 しかし当時のエレンにはそんな情報量を受け止めるキャパシティはありませんでしたし、チーハン野郎はスピンオフ進撃中学校のネタで本編には無関係です。 グリシャの手記で世界の姿を知って、ライナーたちマーレの戦士がおかれた境遇を理解し、進撃中学校も連載終了した今なら、きっと話し合いや交渉もできることでしょう。 (私信)46話についてご質問くださったおかゆ様、返信メールが受信拒否で届きませんでした。 |
これから壁中人類が取るべき道は?
今回は会議の結論、すなわちこれから壁中人類はどう行動するのか?という部分は明らかになっていません。
「始祖の巨人」奪取に失敗したとなれば、次にマーレは残存する「九つの巨人」に物を言わせて殲滅戦を挑んでくるかもしれない。「不戦の契り」なる制約がマーレの戦士に漏れているかは不明ですが、少なくともこの数年はマーレ側の破壊工作にされるがままに壁中人類は生存領域を後退させており、王家が力を発動させる様子はありませんでした。
ライナーがその理由を「何らかの理由で王家から座標が流出し、エレンが無自覚に保持していたため」と本国へ報じれば、エレンが座標を使いこなしたり王家に返還したりする前に攻めた方が得策という判断もありえます。
マーレの目的があくまで資源に限り、経済的な事情であれば交渉は可能です。そもそも壁中人類はパラディ島の大部分が未踏ですから、これまで同様に壁に引きこもっていれば壁外でマーレが何をしようが特に不利益は生じません。巨人のうろつく原野が、資源を掘削する施設に変わるだけ。むしろ大陸外遠征の拠点を提供し、貿易を行うことで互いに発展共栄することができるかもしれません。
しかしマーレをはじめとする大陸諸国には悪魔を祖とする(と言われる)エルディアへの不信が根強く、「こんな民族はさっさと絶滅させたほうが世界にとって安全」という過去の独裁者たちも裸足で逃げ出すジェノサイド思想がまかり通っているようです。現実の人類と違い巨人化因子を内在させているため、恐ろしいと言えばその通り。「Fallout4」で村に紛れ込む人造人間…見た目は人間と区別がつかず、幸福度が下がると豹変し住民を殺して回る存在…のような恐怖を感じて隣人に対し疑心暗鬼になるのは致し方ないことかもしれません。
国家間の関係としては過分にヒステリックではあるものの、マーレがエルディア残党を貿易相手として交渉するという選択肢は最初からなかったのです。皆殺しにして根こそぎ奪うか巨人化させて隷属させちゃえばいいじゃん♪というバリバリの帝国主義思想は現代に生きる私達からすると冗談みたいな価値観ではありますが、つい100年くらい前までは世界中こんなのが普通で植民地戦争なんてやってたわけですから、倫理や道徳、常識がいかに流動的なものか窺い知れるというものです。
壁中人類が反転攻勢で大陸を攻め滅ぼすというのは現実的ではありませんので、マーレを威力外交で説き伏せて侵攻を食い止めるか、実力で侵略を退けて主権を確保し新国家樹立を宣言する、俺達の文明開化はこれからだ!~完~ くらいが落とし所ではないかと思われますがいかがでしょうか。
「不戦の契り」とは何か
今回気になるキーワードはこちら。
パラディ島に壁を作って引きこもった張本人、145代フリッツ王が「始祖の巨人」と交わした約束として、大陸に残った分家に伝わっている内容だそうです。
クルーガーによれば「エルディアが再び世界を焼くというのなら我々は滅ぶべくして滅ぶ」「我から始祖の巨人を奪おうと無駄だ」「我は始祖の巨人と不戦の契りを交わした」との口伝で、戦意喪失して民を守ることを放棄しているも同義。エルディア復権派からすれば根性なしのヘタレは王位と座標を返上してすっこんでろ、となるわけです。
なぜ145代王が「不戦の契り」を交わすに至ったのか、その根拠は不明です。戦いに臆しただけではなく、何か理由や取引があったのではないかとは思いますが。例えば「うしおととら」で蒼月須磨子が怨敵である白面を結界で守っていた理由のように。
経緯は不明にせよ契約は確かに有効で、記憶を継承したフリーダやウーリは「始祖の巨人」の力を振るうことなく没しました。世界というあまりに強大な敵を前に恐れをなした…というわけでもないようです。
今のところ、エレンは契約に影響されていません。始祖の巨人と深くシンクロできないため、真の力も引き出せない代わりに過度な制約も受けない。だとすれば、上手に利用してやることで局地的な戦力として活用することが可能ではないか? 漠然としたアイディアながら、ザックレーたちはそう考えています。
145代王が「不戦の契り」を交わすことを決めた理由、そしてクルーガーが持っていた由来不明の記憶。世界地図が開示されても、本作の謎は尽きることを知りません。
これまでの伏線がどれも綺麗に筋が通っていることを鑑みるに、新たな疑問も十分に読者へ知的興奮やカタルシスを与えてくれるものと期待できます。春にはアニメ2期も始まりますし、本作にはまだ当分楽しませてもらえそうですね。
別冊少年マガジン2017年2月号
真琴さんかわいい。