密告により捕らえられ、流刑地パラディ島へ送られたグリシャたちレジスタンス。
仲間が、妻が、注射で次々と知性のない巨人に変えられていく。怨嗟と後悔に満ちたグリシャの眼前で、マーレの指揮官を壁の下へ蹴り落とした男、クルーガー。
彼は自らがレジスタンスの設立者・フクロウであることを明かし巨人化すると、マーレ治安部隊を相手取って戦闘を始めた。この後、クルーガーとグリシャはどんな言葉を交わすのか…?
進撃の巨人 第88話 進撃の巨人
別冊少年マガジン2017年1月号(12月09日発売)掲載
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クルーガーの正体と「ユミルの呪い」
「進撃の巨人 第88話 進撃の巨人」…こう書くと誤字かと思いますが、88話のサブタイトルが「進撃の巨人」です。何か大きな出来事を予感させる副題ですよね。作品の題名がサブタイトルになるのは、よほどのターニングポイントか最終回くらいでしょう。
さて、場所はパラディ島の船着場兼・反乱分子の処刑場。レジスタンスの処刑を執り行ったマーレの治安部隊を皆殺しにし、輸送船を沈め、岸へ上がって人間の姿へ戻ったフクロウことクルーガー。
何者かと尋ねたグリシャに答えて曰く、
「俺はエレン・クルーガー」
「今見せた通り『九つの巨人』の一つをこの身に宿している」
ここからは淡々と問答タイムなので、会話から判明したことを箇条書きにします。
・クルーガーの家族はエルディア残党としてマーレに殺害され、幼いクルーガーだけが生き残った ・クルーガーは医師を抱き込み、検査記録を偽造してマーレ当局へ就職 ・ダイナは王族だが、敵の手に渡して非人道的な処遇を受けさせるより巨人化させるべきとクルーガーは考えた ・『九つの巨人』の力を継承した者は、継承から13年で死ぬ(ユミルの呪い) ・継承の儀を行わずに「九つの巨人」が死亡した場合、全エルディア人の中からランダムで1人に継承される ・エルディア人は見えない「道」のようなもので繋がっており、全ての「道」は一点の座標(始祖の巨人)で交わる ・「道」を通して記憶や意思、巨人を形成する物質を転送できる |
クルーガーのファーストネームが「エレン」だと明かされましたが、紛らわしいのでクルーガーで統一します。
巨人化能力を持ったものは13年で死ぬ…。まるで「デスノート」でキラがLに伏せていたルールのようですね。最後にとんだ隠し設定が待っていました。エレンの寿命は残り8年弱。ユミルも(まだ生きていれば)8年。アルミンは残り13年。
なおこのシーンはグリシャの手記であると同時に、エレンが継承してやっと思い出したグリシャの記憶でもありますから、アルミンやミカサもすでに知るところです。懲罰房の中で膝を抱えるミカサ。
ライナーがベルトルトに向けてさっさとアニに告っちゃえよと励ましたのは、これを踏まえての事だったわけです。彼らがいつ巨人の力を注入されたかは分かりませんが、エレンが訓練によって徐々に巨人の力を制御できるようになったのと同様、ライナー達にも慣熟期間があったはず。少数精鋭で失敗が許されない潜入作戦ですから、おそらく最低でも数か月、長ければ年単位で。
12巻より。作戦が成功し、ベルトルさんがアニと結ばれたとしても寿命は数年…。
余命数年となれば、アニがあんなにも冷めた態度を取っていたのも理解できますね。どーせ何やったって死ぬんだし。国の家族が人質みたいなものですから離反はしないかもしれませんが、自分の人生に前向きになれなくとも無理はない。
マーレの戦士たちやユミルが己の寿命を知っていた、と分かった上で本作を読み返すとまた新しい読み味が…って最近毎回こんなこと書いてますけど、でもこれは鑑賞に大きな影響を与える設定ですよ。該当人物にとっての死生観が全く違ってきますからね。限られた命を何のために、いつどこで使うのかという苦悩が隠し味でプラスされます。
あとは、なぜグリシャが自分で始祖の巨人を奪って仇を討つなりマーレに突っかけるなりしなかったのか、という疑問の答えにもなりますね。寿命が近かったんでしょう。
13年縛りのルールを入れて作中年表を見直していたところ、どうも辻褄が合わないので今後出版されるであろうデータブックに期待します。(私が読み落とし/計算ミスしてる可能性も高いですが、グリシャがシガンシナに来てから13年以上生きてるように見える…)
まあ細かい整合性は置いといても、グリシャが結構ノンキしてて死期が近かったのは事実。おそらくカルラやエレン、ミカサとの新生活が思いの外ここちよく、マーレへの復讐は後回しでいいやと思っていたのでしょう。そこへマーレの戦士たちによる侵攻を受け、彼らに先を越されぬよう慌てて始祖の巨人を強奪。取って返すやエレンに巨人化を施して自分を食わせた。パパやればできるじゃんw これで少しはエレンの自責感も軽くなるかな。グリシャはどのみち死ぬはずだったということで…。
歴史の真実とは
クルーガーは防壁の上へグリシャと並んで腰掛け、ひと通りの事実を説明しました。生い立ち、目的、なぜダイナを殺し、なぜグリシャを救ったのか。そして13年で避け得ぬ死が訪れるという「ユミルの呪い」…。
彼の出自はドラマにありがちなもので、マーレ当局に家族を皆殺しにされて復讐を決意。どのようにして巨人化能力を授かったかは分かりませんが、それが今から13年前で寿命が目前。そのためグリシャに目星をつけ、自分の後継者としてパラディ島へ送り込み、命を救った代わりに王家から始祖の巨人を奪ってマーレに反旗を翻せと言っているわけです。
情報が多すぎて何が事実かわからないと困惑を口にするグリシャですが、クルーガーはそれには答えず、真実などない、と突き放します。誰かが言って、誰かが信じればそれが真実になる。歴史や報道は誰かの都合で簡単に書き換えられるもので、問題はお前がどう考えてどう行動するかだ!と言いたいのでしょう。
諫山先生は本作でこのように徹底して集合的無知(思考停止)に対するアンチテーゼを提言しています。世界は残酷で、自ら行動して戦わなければ勝てないのだと。誰かの書いている感想ブログを信じるのではなく、書店で単行本を買い、自ら考えろと。読者に熱いメッセージを送ってるわけです。
まああまり横道で細かい設定作っちゃうと自縄自縛になりますからね。スピンオフ作る時も考証や校正が大変になりますから、本筋の決着に至る要素以外はボヤンとした記号でいいんです。ダンガンロンパを思い出します。
進撃の巨人
仲間も妻も失い、現実とは思えない出来事が次々と起こった上、唐突に重い責任を押し付けられて心が折れたグリシャ。拷問で切断された両手の指。その手に巻かれた包帯を見やり、失う痛みをまるでわかっていなかった、自分にはもう務まらないと吐露。防壁の上に腰掛けたままうつむき、クルーガーが差し出したグリシャの家族写真も見ようとしません。
しかしクルーガーも寿命はわずかでレジスタンスを再び組織する時間はなく、ここから帰る船もありません。もうひと押し!
グリシャが幼い日に妹を連れて居住区の外に出たことから全ては始まった。言いつけを守らず、自由を求めて。その行為の代償は、死ぬまで進み続けることでしか支払うことはできない…と、なんだか分かるような分からないような理屈でグリシャの心の外堀を埋めていくクルーガー。何故かは分かりませんが、こうかはばつぐんだ!
どうやら心に響く何かがあったらしく、カッと目を見開いて立ち上がるグリシャ。海に沈む夕日を背に家族の写真を胸へ抱き、決意とも恨みとも取れる面持ちでクルーガーを見据えます。
クルーガーがグリシャへ託した巨人の名は「進撃の巨人」。ユミルの民の歴史において、常に自由のため戦い続けたとされる稀有な力を、グリシャは受け継ぐこととなったのです。
つづく
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・ 巨人の姿と能力
(…あれ? でも巨人グリシャって、胸毛のたくましい中年オヤジみたいな姿じゃなかったっけ…?)
上段左がグリシャで、下がクルーガー。同じ巨人なのか…?
今分かっている巨人化能力のルールは
・巨人化薬を注射すると知性のないモブ巨人となる
・巨人化能力者の脊髄液を体内に取り込むことで能力を継承する
・九つの巨人を継承すると13年で死ぬ
・巨人化薬を経口摂取することで特性をアドオンできる(エレンが硬質化を獲得)
…となっていて、姿形についてはよく分かりません。変身前の本人に似ている場合もあるし、ジークのように幼年期にお気に入りだったオモチャの形状を反映している場合もあります。ロッドレイスは超大型を超える巨体でした。フリーダやアニは女性らしい体型ですがユミルはそうでもない。
マーレ側の話によると巨人のサイズは注射でコントロールできるらしく、またこれは推察ですが「夜でも活動できるかどうか」「言葉が通じるか」といった設定も可能と思われます。ジークがウトガルドで率いたモブ巨人は夜でも動けましたし、ミケを殺害した時には言葉で命令していましたからね。
ロッドレイスはヒストリアに注射を迫った際、「最も戦闘に向いた巨人を選んだ」と言いました。すぐにエレンを捕食して「進撃の巨人」と「始祖の巨人」を取り込むつもりだったのに注射の内容を考慮していることから、最初に変異するモブ巨人が姿形のベースとなることが分かります。
つまり最初に打った注射でかっこいいモブ巨人になれないと悲惨、ということでしょうか。ジークの横にいた四つん這い巨人は何がどうなってあの姿なのかなあ…。
またライナーが鎧の巨人を保持しているのにエレンはヨロイと書かれた薬を飲んで硬質化能力を獲得できましたので、「能力」を抽出して他の巨人へ追加することが可能。マーレではあまりこういった使い方が研究されていないのか、適性次第なのかは不明です。超大型に硬質化くっつけたったww最強wwwっていう手段も採れたはずですから。制限やデメリットがあるのかもしれませんね。
・「超大型」は「能力」なのか?
よく分からないのはアルミンがベルトルトを食って能力を継承した後。本作「進撃の巨人」の看板であった超大型巨人の外見はベルトルト固有のものだったと推察されますが、もし「超大型」が特性として継承されるならば、次に巨人化したアルミンは60m級になるのでしょうか? 軍師ポジションからいきなりパワーキャラ候補の筆頭に浮上してくるあたり、さすが僕らの諸葛アルミン孔明、ただでは死なない男です。
しかし「進撃の巨人」「始祖の巨人」以外の、「女型の巨人」「獣の巨人」といった呼称は調査兵団がラベリングしたもの。「本時刻より、巨大不明生物をゴジラと呼称する!」みたいな感じで、エルディアが代々呼び習わしてきたものとは異なっているはずです。
10巻より。「超大型巨人ってやつだ」という言い方から漂う「他人事」感。「お前らの呼び方で言う」が省略されているのでしょう。
女型が持っていたのは「叫んでモブ巨人に簡単な命令ができる」能力で、女性らしい体型はアニ由来のものであり調査兵団が便宜上つけた呼称にすぎません。能力由来ならば「叫びの巨人」といったところでしょう。超大型巨人の能力は蒸気攻撃ですから「湯気の巨人」がふさわしい。一気に弱そうになった。
要は、超大型巨人が大きかったのはベルトルト固有の獲得形質で、「九つの巨人」による特性ではない、と考えられます。だからアルミンが巨人化してもデカくならないはず。蒸気攻撃ができようになる。多分。
ごちゃついてしまいましたが、こういった呼び分けをリアリティにこだわって厳密にやると、読者はすごく混乱します。作中で同じ巨人を指す固有名詞が複数存在することになり、同じ山をチョモランマ、サガルマータ、エベレストと呼び分けるみたいなことに…。ファルシのルシがコクーンをパージで受け手が全くついていけなくなるので、読者の都合を優先して呼称を「翻訳」し兵団側の呼称に揃えて表記していると考えれば、ここが曖昧でも別に文句はありません。
ところでマーレ国が戦士を公募した際、自国で管理している巨人は7つと言っていました。管理外だったのは王家がパラディ島へ持ち逃げした「始祖の巨人」と、フクロウが隠匿していた「進撃の巨人」。他の巨人はすべてマーレの戦士に組み込まれていると見られ、作中に登場したのはそのうち最大で6体。あと1人は隠し玉がいると見られます。
・九つの巨人の所在
「九つの巨人」=「巨人化能力者」=「知性がある巨人」だとすると、その所在は以下の通り。
エレン :進撃の巨人(クルーガー→グリシャ→エレン)
始祖の巨人(ウーリ→フリーダ→グリシャ→エレン)
アルミン:超大型巨人(ベルトルト→アルミン)
ライナー:鎧の巨人
アニ :女型の巨人
ジーク :獣の巨人
ユミル :小柄な巨人(名称不明。マルセル→ユミル ※現在消息不明)
??? :四つん這い巨人(名称不明)
??? :(未登場?)
・座標の力
今回のエピソードでは「座標」という言葉の定義が明らかになり、モヤモヤが少し晴れました。
始祖の巨人だけが備える、「全てのエルディア人と繋がる超次元的な経路が交差する点」を指すのだと理解しておけばよいでしょう。王族はその経路を使って信号を送り込むことで記憶を操作したり、行動を指示したりできるというわけです。そしてエルディア人以外のマーレ人や東洋人、アッカーマン家には経路が通じていないため記憶操作ができない。
ライナーがエレンの中に座標があると知った時、この世で一番その力を持っちゃいけない奴と評していました。当時のエレンは今と比べて、感情を優先し勢いで突っ込む直情的なタイプでしたからね。政治的な交渉とか考えずにカッとなって相手を皆殺しにしかねない。確かにヤバい奴だったと言えるでしょう。
経路自体は全てのエルディア人が潜在的に持っており、自傷行為によって「道」に出口を開き、巨人の肉体を構成する物質を別次元的なアレから呼び出すのが巨人化能力ということになりますね。
コミックス21巻が別マガと同時に発売。本作の「解答編」とも言える地下室の手記を何度も読み返し、そして自分の頭でこの物語の結末を考えるのだ…!読者の皆さんよ…!