シガンシナ区へのマーレ軍急襲により、エルディア兵たちは大混乱に陥った。
姿を現す戦士隊、新武装を施し戦力を増強した「車力の巨人」。
自らも巨人化し、それらを一人で相手に抗戦するエレン。
多勢に無勢で押され始めたエレンを救った、飛来する岩石弾。
監禁から脱出したジークが、イェーガー派の兵士と共に戦場へと降り立つ・・・。
進撃の巨人 第118話 騙し討ち
別冊少年マガジン 2019年7月号(6月8日発売)掲載
撃墜
シガンシナの壁上に姿を表した「獣の巨人」ジーク。得意の岩つぶて散弾投擲で、区域上空を固まって援護射撃していたマーレの軍用飛行船を一度に撃墜せしめます。
飛行船は重量の制約から軍用といえど装甲による防御力はないに等しく、またエンベロープには可燃性ガスを使用していたようで、史実のヒンデンブルグ号のごとく爆発炎上。このシーンはぜひアニメの音響つきで見てみたい。
その破壊の様にうっとり陶酔しているのがイェレナ。炎上し高度を下げる飛行船団を下から見上げますが、お前そんなとこにいたら死ぬぞ。どうも彼女の中でジークは実際の性能を超えて神格化されており、彼の降臨=勝利確定と考えていて頭の回転が鈍っているフシが見受けられますね。こういうタイプは集団のリーダーとしてはいささか危険です。
マーレ空挺部隊の指揮を執るマガトは、飛行船の全滅という致命的大損害を受けてもなお戦意を失うことなく、獣との撃ち合いは不利だというピークの進言にも耳を貸さずに「裏切り者のジークはオレが裁く」と拘泥。こっちはこっちで私情で熱くなっていて、指揮官の資質が疑われます。仮にも元帥の地位にある人間が特攻覚悟で爆心地にノコノコ出ていくとはw
ジークに帯同していたイェーガー派の兵士たちは「獣の巨人」の援護に回り、ピークに襲いかかります。「車力」ひとりで立体機動の小隊とジークをニ正面で相手取るのは不可能。文字通り脱兎の姿勢でその場を逃げ去るのでした。
「獣」の岩石投擲で頭を撃ち抜かれて昏倒している「鎧」を尻目に、エレンは歩き始めます。あれ?今ここでライナーを捕食すればいいのに…。また予期せぬ横槍が入ってモタつくことを嫌ったのでしょうか。もしくはジークと接触しさえすれば目的達成、この期に及んで他のことはもうどうでもいい…という判断か、あるいは単に余命の少ないライナーを殺したくないだけか。
ゆっくりとジークの陣取る壁へ近づくエレンに、なおも「顎」が追いすがります。またも援護の投擲で「顎」を撃退したジークの視界に入ったのは、壁上に横たわり蒸気をあげる「車力」の骨格でした。
ピークの死に直面してジークも一瞬たじろぎ、惨めな屍へ哀悼の想いを向けます…が、現場の立体機動兵士たちは困惑していました。誰も車力を仕留めていないと言うのです。
ではなぜ車力はここで骨になっているのか…?
この手が通じるのは一回だけ、そう言って耳を塞ぎ地に伏せるピーク。噴き上げる蒸気に紛れて砲塔がキリキリと旋回し、マガトが放ったカノン砲の弾丸は、果たして「獣」のうなじを直撃。中にいる本体の上半身を削り取りました。ピークの偽装工作は成功です。
旧式カノン砲の見た目から想像もできないくらい弾速が速く貫通力も高いのか、巨人体へ綺麗に穴を開けてくり抜き、ジーク本体の上半身もスパッと鋭利な切り口に。
カノン砲は拳サイズの鉄球が飛んできてぶつかるようなものだと思う(※知識がないので適当)ので、綺麗に貫通せず運動エネルギーが散って肉ごとバラバラになりそうな感じですが、この世界では今まさに徹甲弾のイノベーションが起こっている最中なのかも。史実では戦車対策で対戦車砲と徹甲弾の組み合わせが進化したのに対し、作品世界では対巨人戦闘の必要性から対巨人砲や巨人貫通弾が進歩するのでしょうか。
野暮な詮索はともかく、綺麗に騙し討ちが決まってジークは意識喪失、壁上からシガンシナの街区へ転落します。一撃でジークの命まで奪えたかどうかはマガトも確証が持てず、報復での「叫び」を警戒。
ジークが落ちたのはエレンのすぐ近くだと思われますが…?
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オニャンコポンの弁明
爆音と地響きが続き、何が起きているのか分からず混乱する104期たちの牢獄へ、鍵束を携えてオニャンコポンが姿を表します。鍵を開け、マーレの奇襲を受けて戦局は不利だから協力してエレンを援護しようぜ☆と提案するオニャンコポンに対し、つかみかかるコニー。そりゃそうだ。
エレンとイェーガー派に加勢するということは、すなわちエルディア安楽死計画を押し進めることに他ならず、しかもそれを隠していた義勇兵たちに協力することなどできるはずがない、というのがコニーの態度。
オニャンコポンは、イェレナの専横により逆らうと射殺されるから仕方なく従っていたのだと弁明。また多くの義勇兵たちは安楽死計画を知らされておらず、イェレナとジークが秘密裏に進めていたであろうことを指摘。ニコロもそれを肯定します。
これまでの態度や振る舞いから、オニャンコポンが嘘をついていないとアルミンは判断。ジャンもそれに頷くと、コニーはバツの悪そうな顔を見せますがそれ以上食い下がりはしません。まあお前らがそう言うなら多分そうなんだろ、という諦観と信頼の間のような感情が読み取れますね。
しかしコニーの指摘のうち、安楽死計画への加勢という点についてはもっともな話。オニャンコポンいわく、とりあえずエレンを守って延命させないことには地ならしでエルディアを守ることもできないから、一旦置いといてエレンを守り、地ならしをさせよう、安楽死計画のことはそれから考えて阻止しよう、という割と悠長で甘めの見積もり。外では今まさにエレンとジークが接触を果たそうとしているんですけどね。
アルミンの推察
ふと、無言のまま立つミカサが気になり水を向けるアルミン。ミカサはエレンが告げたアッカーマンの習性のことを気にしていて、今エレンを助けたいという気持ちはあるが、これも自分の意志ではないはずだと、冷めた気持ちでいるようです。
それを聞いて、んなのエレンの嘘に決まってるじゃん、と、さも当然のように言うアルミン。
「え・・・? エルディア人が子供を作れなくなることをエレンが望んでいるって・・・みんな本気でそう思ったの?」
そんな馬鹿な…といった顔のアルミン、その問いかけを待ってたよオレは!と僕も思わず膝を叩いて大喜び。しかもアルミンの根拠は「あのエレンだよ!?」で終わり。理屈でも計算でもない、親友同士の無条件の信頼なんすね~。
まあさすがにそれじゃ幼馴染でないコニーちゃんは納得せず、じゃあ何でイェレナやジークに従ってんだ?と反論。
「逆らわなくていいからだよ!」(従うフリして最後に結果だけかっさらえばいいじゃん、何当たり前の事聞いてんだこの馬鹿は)と言いたげな、ちょいイラッとした顔で諭すアルミン。
そう、ジークとイェレナが何を画策しようが、最終的にキャスティングボートを握っているのは始祖を持つエレンです。王家の血を引くジークですが今回の役割は「鍵」でしかなく、始祖の力を行使する主体にはなれません。
大人しく計画に賛同すると見せかけジークと接触したところで、実際に始祖の力で何を引き起こすかは、エレン当人にしか分からないことなのです。
アルミンはエレンの目的が「ジークとイェレナを出し抜いて地ならしを発動させ、パラディを守ること」だと考えています。けれどこれも恐らく違うでしょう。全てのエルディア人の体質を好きに改変できるとしたら、もっと他の変革が起こせるとは考えられないでしょうか? 「子供を作ることができない体にする」なんてレベルでの操作ができるなら、例えば「道をふさぎ、巨人の力を失ってただの人間になる」といったことも視野に入るのでは?
エレンが遠くを見る眼差しからは、エルディアだマーレだといった目の前の戦争に囚われている様子はうかがえません。きっと、僕らの目が点になるような荒唐無稽な未来図を描いているはずなのです。これで地ならしをかまして世界相手に抑止力だー、バーリア!って器の小さいことやられたらガッカリしますよほんと。そういうのは現実社会では大切なステップですが、これ少年漫画ですからね。スケールでっかく行きましょう。
ジャンとコニーはアルミンの意見を汲み、とりあえずエレンを助けることに同意します。まあ、あいつに死なれたら一発ぶん殴れねえからな…へっ、と少年漫画のテンプレを披露するコニーの芸風が僕は大好きですが、サシャの訃報を聞いてエレンが笑いを漏らしたことに対する怒りは晴れていないはずなので、それを乗せた一発は相当重いのではないか…。ジャンはジャンでいきなり素直にエレンへの嫉妬と憧憬を告白。どうせ告白するならミカサへの好意にしとけば、今の弱った彼女なら落とせるかもしれないぞ!
ともあれオニャンコポンとともに兵団拠点に監禁されている黒腕章の兵士たちを全て解放、ピクシスもイェーガー派と共同で事態に対処するよう檄を飛ばします。なお、イェーガー派シンパの訓練兵に度胸試しでボコられたキースは大怪我の理由を「熊の相手をした」などとふかして欠場。余計な内紛を望まず清濁併せ呑む度量、ツルッパゲでもさすが元団長です。とりあえず生きてたのでよかった。
ドサクサで棚上げされてたミカサの話なんですが、道すがらアルミンとその話になります。ミカサが頭痛持ちだというのはアルミンもエレンも昔から知っていて、それを利用してもっともらしいアッカーマンの「設定」を作ったんだろうというのがアルミンの考え。確かにエレンが語ったアッカーマンの習性はリヴァイやケニーに合致しない部分があり、整合性に疑問符がついていたのは確かです。とはいえ、全てが作り話でもないと思われますが…。
なんでそんな作り話をする必要が?という当然の疑問を発するミカサですが、それはもう読者はとっくに通過した議論で、エレンが嫌われることでミカサを危険から遠ざけるために決まってますよね。そこまで言わなきゃミカサは死んでもエレンにひっついて守ろうとするわけですから。そしてエレンの企みは図に当たり、ミカサはエレンからもらったマフラーを更衣室へ置き捨ててしまいます(多分、一緒にいたルイーゼが回収している)。
この場でのアルミンとミカサの会話は「真意は本人に直接聞け」で終わるわけですが、なんかもう直接会話する機会が訪れないような雰囲気じゃないですか? エレンが仲間を遠ざけた理由が巻き添えを避けるためだとすれば、一体何の巻き添えなのか。アルミンはそのことに思いを巡らせる際、22巻の最後の場面を想起して「まさか・・・」とつぶやいています。
この時のエレンのセリフはこうです。
「壁の向こうには海があって、海の向こうには自由がある。ずっとそう信じてた・・・。でも違った。海の向こうにいるのは敵だ。何もかも親父の記憶で見たものと同じなんだ・・・。なぁ?向こうにいる敵・・・全部殺せば・・・オレ達、自由になれるのか?」
このセリフの解釈は一筋縄ではいきません。「まあ要するに敵を全部ぶっ殺せばいいんだろ」という短絡的な意見の表明にも見えますし、「世界の全部なんてぶっ殺せやしない。じゃあどうやって自由になればいいんだ?自由って何なんだ?」という問いにも見えます。
このセリフが、アルミンの中では「エレンが仲間を遠ざける真意」に紐付いているのは確かですが、今は情報が足りません。もしかしたら22巻のセリフの後に、何か続く言葉があって、読者はまだ知らされていないのかもしれませんね。
アルミンがイェレナの演説にこらえきれず鼻水たらして「感動いたしました・・・」などと宣ったのは演技だったわけですが、解放され戦線へ加わろうと仲間へ指示するアルミンを、新手の巨人かと見紛う鬼のような形相で睨めつけるイェレナ。百戦錬磨の104期も思わず青ざめ身構えるほどの貌から一転、ニコッと破顔して「信じてますよ、アルミン」♪ どう見てもまるで信用していない…。現在、作中で最もサイコなキャラをぶっちぎりで独走するイェレナ、僕は大好きです。
しかし104期ら非イェーガー派が勝手に解放されて武装しているのを見ても全く動じないあたり、イェレナも相当な大物…というか、もはや俗世の諍いには興味なしって感じですね。僕の勘では、物語的にイェレナは死なず、信じる神を失って救われないまま生きて苦しみ続けることで罰を受けるような気がする。根拠はないですけど。
ガビとファルコ
さてガビは前回「車力」によって救出され、コルトらに合流しています。彼女はファルコに迷惑をかけっぱなしで逃げられないとして前線に留まり、ファルコの救出作戦へ加わる意向。当のファルコは兵団本部の軟禁部屋で、ナイルと共に混乱の中にいましたが、上述したオニャンコポンらの動きで解放されます。ナイルと連れ立って施設から出たところで、救出に来たコルト、ガビと遭遇。目が合います。
コルトはナイルに発見されたことで応戦の構えを取りますが、ガビはそれを制止。ナイルはファルコを伴って彼らの隠れている角へと歩み寄り、子供は家に帰れと告げてファルコを放しました。
ファルコが礼を言ってナイルと別れたこと、ガビがエルディア兵を見ても応戦しようとしなかったことにコルトは驚き、ガビに問い質します。自分でもわからず困惑するガビ。
民家に隠れているうち、ガビとファルコの身を案じるブラウン夫妻と、裏腹に恨み言をのべるカヤの双方を目撃したガビは、ようやく自分の気持ちに起きた変化を言葉で説明することができました。
この島には悪魔なんかいない、人がいるだけだ、と。
これまでずっとガビの強さを支えてきた、大きな一つの柱が折れた瞬間です。始祖奪還作戦から帰還したライナーが苦悩した理由を肌で理解したガビは、今や兵士ではなく年相応の少女に見えます。従前からそのことを諭してくれていたファルコへ、己の不明を詫びるガビ。しかしファルコはファルコで、エレンに騙されてレベリオ襲撃の片棒を担いだことを告白。ついでにガビへの恋慕も告白します。コルトの前で。
オレと結婚してずっと幸せでいるために、お前に長生きして欲しかった。
脊髄液でいつ巨人になるか分からないから、言い残して後悔したくない…男を見せたぞファルコ。ヘタレのジャンよりイケてるぜ!ガビも顔真っ赤、こいつは脈アリだ!こういう素直でかわいい子供たちには幸せになって欲しいと心から願う、いち中年男性であります。
コルトはジークの元へ行くことを提案。脊髄液のことをジークが知れば、ファルコを巻き込んだ「叫び」を阻止できるかもしれないとのこと。その道中、ピークキャノンの騙し討ちによってジークは転落してしまいます。ダメージを負った「獣の巨人」は叫ぶか?叫ばないのか?
つづく