エレンとその信奉者「イェーガー派」のテロにより、エルディア国は内戦勃発の危機に瀕していた。
マーレをはじめ大陸連合軍との戦争がいつ始まるかもしれないこの時期、いたずらに人命や資源を浪費するわけにはいかない。
死亡したザックレーの代理を急遽務めることになったピクシスは、決断をくだす。
一方ハンジは、ジークとイェレナにはまだ何か秘密があると疑い、その調査へ乗り出していた…。
進撃の巨人 第111話 森の子ら
別冊少年マガジン 2018年12月号(11月9日発売)掲載
事態収拾へ ピクシスの決断
ザックレーがエレン信奉者たちのテロにより爆殺され、暫定的にピクシスが兵政権の指揮を執ることになりました。
彼はエルディア人同士で内戦をしているリソースはないと考え、ザックレーの件はさっさと水に流してエレン信奉者たち…「イェーガー派」と講和を図るつもりです。ジークとエレンを引き合わせ、地鳴らしの実験を黙して見守る。「エレンとジークの本心がわからないので大きな賭けにはなるが、同胞がこれ以上殺し合うよりはマシだ」という、割と飛躍した暴論です。こんな調子で国家の舵取りが決まるなら、世界はテロで溢れることになるでしょう。
とは言え、調査兵団が持つ武力のうち、エレンが単体で占める割合はいまだ大きいと推察されます。それが敵に回るとあれば内戦の泥沼化は間違いなく、大陸からの侵攻が時間の問題と思われる今にあっては、已む無い判断なのかもしれません。数々の物語で描かれたように、大きすぎる力を持った英雄はいずれ邪魔になるんですよね。
最近の展開を見ていると、たまにタクティクスオウガを思い出します。特別似てるってわけじゃないんですけど、ガキンチョが英雄となり政治的な存在へ変わっていくうちに、幼馴染や姉と道を分かったり、関係がこじれたりしていく。革命を成し遂げ新政権の座につくも、(ゲーム中の選択によっては)そこにあるのはただ茫漠とした孤独だった…。そういう断片的なシチュエーションがなんとなく。
ザックレーの件を不問にすることで内戦が避けられるなら安いもんだろ、というピクシスに異論が出ないところから見て、ザックレーは人望がなかったのかな…。まあ裸のオッサンを部屋に飾って喜ぶ変態ですし、ドン引きされてても仕方ないか。
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巡る策謀 ハンジの推察
前回、ハンジは過去数年のイェレナの行動に隠された違和感に気づき、軟禁中であるオニャンコポンを連れ出していました。
彼女は、ジーク亡命が成功しても身動きが取れない状況に置かれることを想定し、前もってフロックらを味方に引き入れていました。それ以外にも何か仕込みがある。彼女のこれまでの言動で一貫性がないのは、マーレ人捕虜の待遇についての態度です。
イェレナはパラディへ赴いた義勇兵たちの潔白を証すため、身内であるマーレ兵士に対しても冷徹に振る舞ってきました。パラディ上陸時も抵抗しようとした味方を射殺していますし、自国を滅ぼしたマーレへの意趣返しのためなら他の犠牲は意に介さないのが基本姿勢です。
しかし、パラディでのマーレ人捕虜の待遇についてだけは、兵政権からの白眼視も恐れず熱弁を振るい、捕虜でありながらレストランでの就労を認めさせるなど人道的な扱いを受けられるよう尽力しています。これをハンジは不自然だと感じ、イェレナがマーレ人の働き場所を確保することに何か目的があったのではないか?と疑っているわけです。
それを調査するため、ハンジはオニャンコポンや104期を伴ってレストランへ向かいました。それは奇しくも、ニコロがブラウス一家を招待していた日と重なります。
レストランにて
おさらいしましょう。
ニコロはマーレ人捕虜ですが、レストランの厨房責任者として見た所かなり自由に働いています。彼は食を通じてサシャと親しくなり、エルディア人への偏見を克服しつつありました。
サシャが戦死したことに対しては墓前で涙を流して叫び、彼女への好意が本物であったことが窺えます。
墓地でサシャの両親(&カヤ)と対面したニコロは、自分の料理を食べて欲しいと職場のレストランへ彼らを招待していました。
カヤは、ニコロがマーレ人であることから、収容所から脱走しブラウス農場へ潜伏しているガビとファルコにとって帰国の糸口になるかもしれないと考えます。
そこでガビとファルコもレストランへ同席させ、ニコロと引き合わせるよう手を打ったのでした。今日がその日です。
ガビはレストランのホールを見て圧倒されます。およそエルディアの悪魔がマーレ人捕虜を働かせている場所とは思えない、豪奢な建物だったからです。
食卓につくやいなや、ブラウス一家は涙を流しながらも猛然と箸を進めます(スプーンとフォークですが)。ファルコいわく「こんな美味い料理は初めてだ」。
まだ少年とは言えファルコも一応は名誉マーレ市民で戦士候補生。式典などで贅沢な食事を目にする機会くらいはあったのではないかと思われますが、その彼も、最近こじらせてるガビでさえも、無言でガツガツと食べまくります。ニコロの料理人としての腕はそれだけ確かなようです。
コースはメインの肉料理へ差し掛かり、厨房は戦場と化していますが、タイミング悪くそこへ到着したのがハンジたちです。彼らは上級士官向けのVIPルームへ通され、そこでしばし待つことに。
棚に飾ってあったワインのボトルへ手を伸ばしたジャンを見るや、ニコロは血相を変えてジャンの手からボトルをもぎとり、部屋から持ち出します。明らかに不自然なムーブ。
そう言えば、来店して管を巻いていたナイルやローグら兵団幹部たちに対し、ニコロが不穏な表情でワインを供す場面がありました。
108話より。兵団幹部にニコロが提供した「オススメ」のワイン。
おそらく、このワインがイェレナの計画に関する物証となりえるのでしょう。これを飲んだはずの兵団幹部はピンピンしていますので、毒による暗殺が目的ではありません。中身ではなくラベルに暗号が書かれているとか?
突然の凶事
ニコロはワイン蔵で、先程持ち出したボトルを前に何やら苦悩しています。そこへトイレと言って中座してきたガビとファルコが後ろから呼びかけ、自分たちがマーレの戦士候補生であること、飛行船に飛び乗って渡ってきた経緯を明かします。
眼の前のガビが飛行船で女兵士を殺害と知ったニコロは逆上。「お前がサシャを殺したんだな!?」と手元にあった例のワインボトルをガビの頭部めがけ鬼の表情で振り下ろす! 証拠もないのに躊躇なさすぎて怖ええよこいつw
とっさに身を挺して庇ったファルコのこめかみをボトルが直撃し、ボトルは手元から粉々に砕け散ります。側頭部から血を流し、意識を失ってその場に昏倒したファルコを見てニコロは「…はっ!!」「クソ…!!」。
「ついカッとなって」を絵に描いたような犯行現場。大人しそうな奴ほど怒らせると何するか分かりません。
それで冷静になって我を取り戻すのかと思いきや、次のページで彼が及んだ凶行、それはガビの顔面を拳で殴打した上、大ぶりの包丁を気絶したファルコに向けてガビを脅し、ブラウス一家の前に引っ立て、サシャ殺しを糾弾するというものでした。控室には兵士たちもいるってのに、完全にぶっ飛んでる…。
ガビがサシャを殺した犯人だと聞かされたブラウス夫妻は顔面蒼白、異様な目つきへ変貌。サシャがブラウス夫妻の娘だとここで知ったガビも呆然。ニコロはブラウス氏へ包丁を渡し、あなたが殺さないなら俺が殺すと宣言します。
兵士たちも騒ぎを知り何事かと駆けつけて驚愕。逃亡中の捕虜のみならず、それに包丁を向けるニコロ。あまりに予想外すぎて困惑してもまったく無理からぬことであります。
進退窮まったニコロはファルコの首に包丁を突きつけて「退がれ!」と叫びますが、それ兵団に対して意味があるのか?
ブラウス夫妻の決断
ガビとニコロはひとしきり言い争います。どっちが先に殺したとか、報復だとか。
その姿を見てブラウス氏は何を語るべきかを決めたようです。彼はニコロから包丁を受け取り、ギラリと光る刃ごしに無言でガビを見下ろします。それから一呼吸置いて彼はサシャのことを少し聞かせ、罪や憎しみを背負うのは大人の責任だと言って包丁を後ろの妻へパス。妻はそれをテーブルに置き、毅然とした顔で、ファルコを離すようニコロへ告げました。要は赦すってこと。
ニコロもブラウス氏に諭されてそれ以上は抵抗せず、兵士たちに拘束されて事態は落ち着いた…かと思ったその時、カヤが食卓用のナイフでガビの背後から襲いかかります。こいつも怖ええよ! 優しい普通の人間がいきなり凶行に及ぶ、本当に怖いのは巨人ではなく人間の心の闇だったんだー!(テンプレ的な言い回し)…でも、もっと怖いのは、そのカヤが体重を預けて振り下ろした渾身の一撃を左手1本で軽く制するミカサの腕力だったというオチ。
半狂乱で泣きわめくカヤをブラウス夫妻が取り押さえ、一緒に涙を流す姿を見て初めて、ガビは何かを感じたようです。モノローグはありませんが…。悪魔なのに、自分たちと同じように大切な存在を奪われると泣くの。ブラウス夫妻はなぜ自分を殺さなかったの。悪魔なんだから、残酷で残忍で残虐に私を殺すものなんじゃないの。…そんなことを考えているのでしょうか。
ワインの正体
ガビが隣室へ連れて行かれ、ひとまずの平静を取り戻したニコロ。ジャンとコニーに取り押さえられたまま、ファルコの口をゆすぐようハンジに願い出ます。あのワインが口に入ったから、と。
ワインに何が入っているのか問いただすハンジにニコロは返します。
ジークの脊髄液だ、と。
つづく
■おさらい・・・「ジークの脊髄液」とは
「獣の巨人」の能力の一環で、ジークは己の脊髄液を体内に取り込んだエルディア人を「無垢の巨人」に変えて意に従わせることができます。(元の人間に戻すことはできません)
胃腸など消化器からの吸収だけでなくガス状に噴霧して吸わせても効果があるらしく、かつてラガコ村では風上から脊髄液ガスを撒き、村の住民全てを巨人化させました。
「獣の巨人」に作られた「無垢の巨人」の特徴として、ジークの命令に従う・夜でも活動できる、といった点が挙げられます。
イェレナはジークの脊髄液を混ぜた酒をレストランへ運び込み、ニコロに命じて軍の上層部へ飲ませていたと推察されます。これが正しいとすると、ジークによって軍幹部が大勢人質に取られているのと同義です。
ジークが彼らを操れるのは巨人化してからですから、彼らが人間として持っている権限や情報は利用できません。一斉に巨人化させて指揮系統を麻痺させることはできるでしょうが、一時的なものに過ぎず仕込みの労力に比べてメリットが薄いと思われます。
最も効果的なのは、軍の幹部たちを生かしたまま脅迫し、傀儡として操ることでしょう。お前らは既にオレの脊髄液を飲んでいる。いつでも巨人にできちゃうけど、試してみる?
そして目の前で何人かが巨人化させられれば、保身を優先する者は我先にとジークの靴を綺麗に舐めあげることは想像に難くありません。
問題は、そうやって兵政権のキンタマを掌握した後、ジークたちが本当にやろうとしていることは何か?です。彼らが本当にエルディア復権・マーレ撲滅のみを目的としているなら、大局で言えば大きな害はありません。軍幹部たちが何人か見せしめにされ、次は自分がいつ巨人にされるかという恐怖で眠れなくなる程度で済むでしょう。
しかし隠された真の目的が存在していて、エレンがそれに賛同しているならば、エルディア人がどんな姿にされるか分かりません。無垢の巨人にされたり、記憶を好きにいじられてしまうかもしれない。ザックレーがジークとエレンの接触を許可できなかった理由もそこにあります。「試しに一回やらせてみたら?」では済まないのです。
今回、ファルコがジーク汁を飲んだことで、彼が巨人となる可能性は高まったと考えられるでしょう。