※別冊少年マガジン掲載時にはサブタイトルが「光り輝く少年の瞳」でしたが、コミックスでは「獣の巨人」に改訂されています。
「巨人側」に通じている人間がいるのではないかと嫌疑をかけられつつもそうとは知らされず、非武装で監視をつけられていた104期卒業生たち。
エレンやミカサら調査兵団の主力は、女型の巨人をあぶり出して捕縛する作戦で別行動中のため不在。 そこへ前触れもなく出現した巨人の集団が近づきつつありました。
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壁に扉のある特別区が襲撃されたのならとっくにその事が内地にも伝わっているはずなので、巨人はどこか別の場所から侵入してきていると思われます。
どこからどうやって巨人が入ってきたのか、どこの壁が壊されているのか、ここからそれを知る手段はありません。
104期卒業生たちを監視していたミケとナナバは卒業生たちに普段着のままでの脱出を促すと、壁を破られてもまだ負けたわけじゃないと自分たちを鼓舞して戦闘体勢に移行します。
巨人の侵入経路や戦力規模が不明な現状で、彼らにできる主な任務は情報の伝達と避難誘導、そして壁の破損を確認することです。
突然の事態に心中穏やかでないのは皆同じですが、中でも動揺が激しいのはコニー。巨人が来た方向には彼の故郷の村があるからです。
コニーは村で小柄な体格をバカにされ、それを見返すために兵士を志し、結果トップ10入りで訓練を卒業。特権階級である憲兵団になろうと思えばなれたわけですが、エレンに感化されて調査兵団に。単純で周りに流されやすい性格をしており、扱いやすい愛すべきバカです。これまでは彼が誌面に出て喋ってるうちはシリアスな展開にはならないだろうと、そういう記号を背負っていたわけですが…。
ミケは104期を含む兵士たちを4班に分け、それぞれ別方向への伝令と避難誘導の任を与えます。南方向へ向かい壁の破損を確認する班の案内を任されたコニー。彼の村に立ち寄ることも許可されました。
ライナーとベルトルトもそれに同行を決め、一刻を争う道行きが始まります。
巨人9体の集団が接近してきたため、各班は行動を開始。馬での早駆けで散開したものの、いつもなら馬で振りきれるはずの巨人たちが一斉に走り始めました。その速度は馬をしのぎ、このままではすぐに追いつかれてしまいます。
ミケの判断は速く、自分ひとりが囮となって巨人を引き付ける心算。これまであまり描かれていませんが彼はリヴァイにつぐ戦闘力を持つ分隊長で、初対面の人間の体臭をいきなり嗅いで鼻で笑うという、なんとも微妙すぎる特殊性癖を持っています。そんな奴が身内にいたら嫌だw
ページをめくると、驚くべきことに戦闘シーンが1コマも描かれないうちに巨人5体を仕留めているミケ分隊長の超人的な戦闘力。コマの節約ぱねえす、諫山先生! ミケと同格の分隊長はハンジですが、向こうは向こうで知略以外の純粋な戦闘力でも相当な実力者。調査兵団で何年も生き残っているというだけでも、実力と強運を兼ね備えていることは証明済みと言えます。
さて巨人の残りは4体。その中に読者も目を疑うような姿の巨人が混ざっていました。
サイズはミケの目測で17m以上、超大型を除けばこれまで確認されている中でも最大級で、直立していながらスネまで届く異様に長い両腕を持ち、そしてなんと両肩から頭まで、腕、下半身がビッシリと長い体毛に覆われています。
一見すると巨大なオランウータンやテナガザルのようで、これまで頭部を除き基本的にツルツルだった巨人たちとは一線を画した変わり種です。こいつを仮に「猿巨人」と名づけましょう。(※のちに「獣の巨人」が正式名と判明)
ミケは猿巨人を不審に思いながらも、ここでの時間稼ぎは十分と判断。屋根から指笛で馬を呼び、脱出を試みます。
律儀な馬はどこからか主人の元へ駆け戻ってきますが、猿巨人の前を通り過ぎようとした瞬間、猿巨人が目にも留まらぬ速さで腕を伸ばし、馬を右手でつかみ持ち上げてしまいました。
これに驚いたのは読者とミケ。巨人は人間以外の動物には一切興味を示すことはなく、その行動習性は「人を見つけて捕食すること」のみと教練では教わります。道具を使うことも組織的な行動をすることもなく、一直線に人間に近づき、捕まえて食べる。それゆえに巨人の行動パターンは予測しやすく、シガンシナのような特区を作り人口密度を高めることで巨人をそこへ誘導し、壁を守ってきました。個体の戦闘力で劣る人類がなんとか巨人たちに抵抗してこられたのも、奴らの思考力のなさ、愚鈍さによるところが大きいのです。
反面、人類が初めて正面から相対した知性を持つ巨人=「女型の巨人」との戦いでは従前のロジックが通じず、たった1体を相手に調査兵団は甚大な損害を被ったわけ。危機感を覚えた兵団はなんとしても女型を捕まえて情報を吐かせようとしたものの、結果は前話の通りで、女型を操っていたアニは結晶化して引きこもってしまった。おそらく今後は知性を持った巨人たちが徒党を組んで攻め寄せてくると思われ、その対策は急務であります。
そんな矢先にミケが遭遇した獣の巨人。ミケを睨めつける目は普通の巨人のものではありません。確実に人の意志が宿っています。 そしてミケに向かって馬を投げつけ、そのコントロールは正確無比。ミケが立っていた付近の屋根に直撃し、彼は屋根から地面に転落。
壁の世界では馬はたいそうな貴重品で、中でも調査兵団が使う馬は特別。その価格は庶民の生涯年収に匹敵するそうですから、今の日本で言うと億クラスと考えられます。関係ないけど、自衛隊の戦車とかは8~10億円くらいするらしい。クーガーのような装甲車は1億円から買えるそうなので、この辺りがイメージとして近いかな?
モブ巨人の目当てはあくまで人間なので狙われる馬は多くないのですが、知性のある巨人は最初にヒトの移動手段である馬を潰してきます。女型もそうでした。超大型も壁の固定砲台を壊してましたから、平地で騎兵を相手にする時はおそらく馬を潰すでしょう。
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屋根から転落したミケは小型の巨人に捕まり、脚を噛み砕かれて絶叫。ブレードは持ったままですが、とっさのことで反撃できなかったようです。ああ、死んだな…と思ってページをめくると…
「待った」
と声がかかった途端、ミケを捕まえた巨人は動きを止めます。ミケは痛みに震えながらもまだ存命。声の主は…なんと、猿巨人。空気を震わせながら悠々ミケの前にしゃがみ込みます。
声に反応して一旦動きを止めたものの、すぐにまた咀嚼を再開した小型の巨人。悲鳴を上げるミケを見た猿巨人は
「え?」「俺・・・今」「待てって言ったろ?」
そう言いつつ小型巨人を制止しようとして勢い余ったらしく、小型の巨人の頭を握りつぶしてしまいます。結果的にミケの命は救われ、地面に落下。 そして猿巨人は…!
「その武器は何て言うんですか?」「腰につけた飛び回るやつ」
驚きました。間違いなく人語を喋っています。
人類が巨人と会話を交わしたのは、記録上ではイルゼ・ラングナーのみ。そのイルゼのケースも巨人が一方的に人語らしきものを発しただけで、厳密には会話でも問答でもありませんでした。オウムやカラスが人間の言葉を真似しているようなものです。
すでにエレンやアニなど一部の巨人は中から人間が操っていることが作中で明かされているため、そういうタイプの巨人なら喋っても不思議ではないとはいえ、やはりいざ喋るとインパクトがありますね。ミケもただ驚愕し圧倒されるばかりで、会話どころではなく押し黙っています。
「う~ん…同じ言語のはずなんだが…怯えてそれどころじゃないのか…」
「つーか…剣とか使ってんのか…やっぱ うなじにいるってことは知ってるんだね」
「まあいいや 持って帰れば」
話し相手がいなくて寂しいのか独り言の多い巨人ですが、有難いことにここから様々な情報を得ることができます。
①敬語を使っている
中身の人間は社会性を持っており、知らない人(目上の人)に対する礼儀や一般常識がある。
②立体起動装置を知らない
少なくともアニから兵装に関する情報提供を受けていないことが分かります。
③「同じ言語のはず」
普段は現人類と別の領域で活動しており、交流が少ないことを示唆しています。「うちの村と隣村とでは同じはず」という横方向なのか、「過去/未来の人類も同じはず」という縦方向を指すのかは判然としません。
④「やっぱうなじに~」
巨人としての構造はエレンやアニと同じで、中に人間が入っていることは確定的。ただし人類側の対抗策については無知なので、やはりアニとは通じていないと思われます。
⑤「持って帰る」
装置についてミケから聞き出すことはできなくても、持って帰ればなんとかなる、すなわち巨人の拠点にはそれを理解したり調べたりできる施設や人員が存在することになります。
⑥巨人に人語で指示している
配下の巨人たちもある程度人語を理解できるようです。
猿巨人は指先でミケの立体起動装置をつまみあげると、背を向けて去ろうとします。ミケは折れた脚でなおも闘志を失わず、剣を構えて気概を示しますが、「待て」を解かれた残りの巨人が一斉にミケに襲いかかり、あえなく捕食。意外なほど見苦しく泣き喚きながら巨人に蹂躙されていくのでした。
巨人の中に人間がいるということ自体は目新しくありませんが、巨人の背後にある組織関係を推察できる、興味深い巨人の登場でした。
ちなみにエレンやミカサらの出番はありません。つづく。