鎧の巨人と超大型巨人により拉致され、彼らの「故郷」へ連れ去られようとしているエレンとユミル。
調査兵団から逃亡中、巨大樹の森の樹上で夜を待つ間に幾ばくかの問答を経て、ユミルは巨人側につくことを承諾。
エレンは鎧の巨人との戦闘で失われた両腕が復元しておらず戦えない状態。
一方調査兵団は憲兵団と共に壁の外に馬を揃え、追撃用の陣を敷く・・・。
別冊少年マガジン2013年8月号掲載
進撃の巨人 第47話「子供達」
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巨大樹の枝の上
前回に引き続き樹上での情報収集が続きます。
読者は基本的にエレンと同程度の情報しか与えられていないので、「わかっている」ことが前提のライナーとユミルの会話の意味は断片的にしか理解出来ません。
前回、46話のライナーとユミルのやりとりでは次のようなことがわかりました。
・「獣の巨人」の出現によりライナーたちが故郷へ帰れる算段に目処がついた
・獣の巨人は壁内に威力偵察をしに来ている
・ライナーとベルトルト、アニは3人で動いているわけではなく、もっと大きな枠組み(上位存在)から任務を受けている
・「この世界には先がなく」、ここを生き延びても僅かな命しか残っていない
・人類の敵の正体は「せ」で始まる何か
そして「先がない」世界からクリスタを救い出すため、ユミルはライナーたちにつく決断をするのでした。
ユミルはもうエレンの問いかけには答えず、数時間が経ち手足が回復しています。間もなく日没ですがエレンの両腕は手首の上までしか復元されておらず、ライナーの言を信じるなら体組織の修復に手一杯で巨人化できるような状態ではありません。闇雲に巨人化しても勝算が薄いと判断するあたり、超大型巨人の正体を目の前にしている状況にしてはかなり冷静と言えるでしょう。
ユミルと巨人化能力の謎
ベルトルトが懸念するのはユミルの戦闘力。信用して油断すると素早い動きで逆にやられるかもしれない。
「実際・・・あいつは・・・ベリックを食ったじゃないか」
(※コミックスではベリック→マルセルに変更)
すっかり忘れていると思った謎の回想シーン。幼いライナーとベルトルトがユミルに酷似した巨人に仲間を食われる場面が思い出したように登場です。
食われた男の名はベリック(マルセル)。ライナーをかばって犠牲になりました。あの巨人はやはりユミル本人だったようです。
ベルトルトはユミルに問います。
「君は人間に戻る時 誰を食ったか覚えているか?」
これは極めて重要な発言です。
ユミルはせっかく人間に戻れたのだから自分だけは生きたいと思っただろう、とベリック(マルセル)を食った後のユミルの心情を推察するライナー。
これまで作品には登場しなかった概念がここで登場しました。
巨人が「人間に戻る」ためには人間を食うことが必要で、食った後は忘れてしまう。
ベルトルトたちも同じだったらしく、また彼が言うには「エレンも覚えてなさそう」。
そしてさらなる事実がユミルの口から語られます。
人間に戻る前、ユミルは巨人として壁の外を60年ぐらいさまよっていたと…。
「人間に戻る」というのがどういう変化なのか具体的にはわかりません。
単なる巨人化能力の行使←→巨人化能力の解除のことではないはずです。エレンが巨人化して人間に戻るたびに誰かを食べているとは思えません。常時巨人で定着してしまった状態から元に戻るような、一生に一度あるかないかの特別なステップに限られるのではないかと思われます。そしてこの場の4人は全員それを経験している。
ユミルは60年に渡り巨人として壁外をさまよっていた記憶はあるようです。そしてその年月と人間としての容姿は比例しない。便利!
彼女はかつて「存在するだけで憎まれ」、「大勢の人々の幸せのために一度死んであげた」ことがあるのですが、それは巨人として壁外をさまよう存在に成り果てることだったのでしょうか? そして今から5年前にライナー達の身内を食って人間に戻り、内地で泥棒をして生活し、そこで耳に挟んだ似たような境遇のクリスタと友だちになりたいと思って訓練兵団へ入り、彼女を庇護してきた・・・。この筋書きにはまだ肝心な所が抜けています。
そして聞き逃せないのはベルトルさんの「エレンも覚えてなさそうだし」。これでしょう。
エレンが記憶混濁している場面として思い出せるのは第一話の冒頭と・・・父・グリシャ=イェーガーが彼に注射を打った時のこと。涙ながらに「皆を守るためにこの力を使いこなさなければならない」とエレンに正体不明の注射(おそらく巨人化能力の源)をエレンに施すグリシャ。その後エレンは記憶障害を起こしグリシャは消息不明に。そしてエレンはかつて巨人として誰かを食べているはずなのに、それを覚えてない。こう並べて見るとかなり嫌な予感がします。エレンは注射を受けて巨人化し、意識がないままグリシャを食べて人間に戻ったのではないでしょうか? そしてそのプロセスを踏んだ人間だけが、それ以降自分の意志で巨人化能力を使えるようになるのでは?
だとしても普通の雑魚巨人たちが人間を食べても巨人から人間に戻っている様子はないので、その線引きはわかりません。
クリスタの価値
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ライナーはクリスタの存在がユミルにとっていかに重要かを正しく認識しており、またクリスタ自身の価値も把握しています。
彼女は本名をヒストリアといい、貴族レイス家のお家騒動で内地を追われた妾の子でありながら、ウォール教にとっては依然として重要な地位にあり、ニック司祭によれば壁の秘密を知ることも公にすることもできる立場だとされています。クリスタ本人はそのことを知りませんが。また訓練兵時代もウォール教の関係者がクリスタを監視していたようです。なぜ本家の正当な後継者でなくクリスタなのかはよくわかりませんが、彼女の身柄を押さえておくことで今後の探しものがしやすくなるというのがライナーの目論見です。
もっともライナーたちが故郷へ帰るために必要な彼らの探し物(座標)がエレンであった場合は必要のない話らしいですが。
彼らは獣の巨人を見て帰郷が現実性を帯びたことを知り、正体がばれるのも厭わずエレンとユミルを拉致し逃げたことから既に決定的な鍵を得たのだと思ったのですが、どうもそうではないようです。もしエレンが「座標」でない場合は任務は終わらないとライナーは言っています。探しものをするためになぜクリスタがいると有利なのか? クリスタ自身は自分の立場について無自覚らしいので、利用すべきは周囲の教団ということになります。人質に取って教団に情報提供を求めるということでしょうか。
他にもライナーが割と本気でクリスタに恋してるから執着するんじゃないかという節もあります。
ついでにベルトルトがアニに恋していていつもチラ見していたという設定が唐突に明らかになりましたが、そういえばこの2人はアニが結晶化して地下に収容されたことを知らず、計算に入っていません。これが今後の計画にどう影響してくるのか。恋慕の情があるなら尚更ひと悶着ありそうです。
ところで彼らが探している「座標」って何?という点はまた説明がないので、話が進んだような核心が遠のいたような状態です。特異点みたいな意味でしょうかね。
追撃、調査兵団
巨大樹の枝の上から調査兵団の信煙弾が見えます。予想より早く追手がかかったことに焦るライナーとベルトルト。
日没まではまだ少し時間がありますが、ぐずぐずしているわけにはいきません。暴れるエレンを縛り上げ猿轡を噛ませてライナーが背負い、ユミルはベルトルトの背に乗り立体機動で巨大樹の間を跳びます。
ユミルはクリスタが自分を助けに追ってくるはずだから捕まえようと主張。分が悪いので次の機会を待つとはねのけるライナーですが、ユミルは執拗に食い下がります。
「機会を待つだと!? そりゃ私がお前らの戦士に食われた後か!? ダメだ! 信用できない!」
ユミルはライナーたちの目的が「自分を戦士に食わせること」だと考えています。46話の時点でユミルは彼らに連れて行かれたらまず助からないと理解しており、ライナーもそれを否定しませんでしたのでこの考えは当たっている確率が高そうです。その上で、どの道この世界には先がないんだからせめてクリスタだけは救ってやりたいだろ?と説得されてライナーの側についたのでした。先ほどまでの情報から推察するに、食わせる=巨人を人間に戻すためだと思われますが、それがユミルのように巨人化能力を持った人間でなければならないのかは不明です。
クリスタが必要なら今行動しろと言い募るユミルに対しライナーとベルトルトはリスクを嫌って応戦を拒否しますが、ユミルは半ば自暴自棄に脅しにかかります。樹上なら小回りの効く自分の巨人が一番強い。エレンを奪って調査兵団のところへ行くことだってできる。クリスタと再会するためなら自分もクリスタも死んで結構と歪んだ執着を見せるユミルにライナーとベルトルトは折れ、巨人化したユミルは樹上で調査兵団を待ち受けます。
エルヴィン率いる追跡部隊は巨大樹の森に到達。その時森の奥から巨人の叫び声が響き、コニーやミカサらは巨人化したユミルを発見します。
(追記)ここで巨大樹の森から巨人の群れが現れて追撃部隊に襲いかかるのですが、こんなお便りを頂きました。
今回の47話なんですけど、一つだけとても気になっている、今回の記事に指摘されてない点がありまして…
確かに巨人に殺されたはずのオルオさんが、巨人化して、調査兵団の元仲間を殺すぺージなんです。
衝撃すぎて、そしてショックすぎて…。どう思われますか? 本当に気になっていてしょうがないです。
ご指摘ありがとうございます。おそらくこのコマのことですね。
オルオは女型の巨人と戦って死亡しましたが、こんな顔でした。
言われてみると確かに似ているような、そうでもないような…
これがオルオかどうかは定かでありませんが、死亡した人間が蘇って巨人化するというファクターはこれまで登場していませんので、もしそういう設定があるとすると本作の陰惨さがより際立つ展開が期待できます。
獣の巨人がコニーの村の住民たちをおそらく意図的に巨人化させたであろう方法も未詳ですし、人間を巨人化させる方法はいくつもあると考えられます。もしかしたら遺体を巨人化させる方法もあるのかもしれませんね。
僕個人としては、今のところはこれがオルオだとは考えていません。
ジャンの問いかけに答えず何かを探すユミル。そして・・・クリスタを見つけるや飛びかかり、パックリと口で捕らえるとそのまま遠ざかっていきます。森の出口で巨人化するライナー。ユミルと合流しそのまま走って逃げ去ります。
平地を轟音とともに夕日に向かって駆ける鎧の巨人。その後姿を目指し追いすがる騎馬の一団。先頭でそれを率いるのはハンネス。
「エレンは・・・俺の命に代えても・・・」
ものすごく嫌な予感がビンビンしつつ、次号へ続く!
次号の発売日にはコミックス11巻と、ガイドブック第二弾「OUTSIDE 攻」、進撃巨人中学校の2巻も出ます。盛りだくさんすぎ!