進撃の巨人 ネタバレ考察

(97)手から手へ

超大型巨人がトロスト区を襲撃し、壁を破壊する直前。
アニやライナーは進展のない日々に辟易し、戦士として目に見える成果を必要としていた。
たった3人で敵地に赴き、長い潜入生活を強いられた彼らの苦悩が描かれる。

一方、現在のマーレ戦士隊。
ガビが「鎧の巨人」を継承する時が日に日に近づき、焦りを隠せないファルコ。
そんな彼を呼び止めたのは、以前道端で手を貸したことがある、片足の負傷兵だった…。

進撃の巨人 第97話 手から手へ
別冊少年マガジン 2017年10月号(9月8日発売)掲載

回想、トロスト区への侵攻計画

今回は
①回想パート(トロスト区侵攻の裏側)と、
②現在パート(謎の負傷兵の正体)の二本立てでお送りします。

104期訓練兵時代。隠れている真の王家(&始祖の巨人)の所在を求め、密かに内地への偵察を繰り返していたアニ・レオンハート。帽子にメガネという雑な変装で、王政に出入りしている黒コートの男を尾行中です。

曲がり角に差し掛かった時、ふと目の前にいたはずの男が消え失せ、気がつくとアニは背後から肩をつかまれていました。両手を上げろと宣告した男は中央憲兵の暗部、「切り裂きケニー」ことケニー・アッカーマン。作中ではロッドからくすねた巨人化薬をリヴァイに託し死亡しましたが、回想で久々の登場です。

実際、ケニーはロッド・レイスと結託していましたのでアニの読みは正しく、彼をつけ回せばいずれはレイス家に到達できたかもしれません。が、さすがに両者には年季の差がありました。

アニは口先での戦闘回避が困難と悟るや否や、上段へ後ろ回し蹴りを放ってケニーの手を払い、下水道へ通じる排水口へ身を滑らせて追跡を逃れます。狭い排水口をケニーは通り抜けられず、あっさりと断念。裏稼業のケニーからすれば、恨みを買ったり狙われたりは日常茶飯事、いちいち気にするまでもないという事なのでしょうか。

アニは命からがら下水道を踏破して無事に訓練兵団へ戻っており、いつものように喧嘩に明け暮れるエレンやジャンを疲れた顔で傍観しています。昼は兵士としての訓練、夜は時々密偵と、相当にハードな二重生活を強いられているアニは疲れのせいか弱気になっており、こんな生活はもう限界だと吐露します。

アニの提案は、この5年で集めた情報を持って一旦マーレへ引き上げること。しかしライナーはこの程度でマーレには帰れないと反論。ベルトルさんは自己主張なし。3人は確かに壁内の情報は得ているものの「顎の巨人」を失っていますから、マーレにとって帳尻が合うかは疑問です。

ここに至ってようやく、ライナーはウォール・ローゼを破壊して「始祖の巨人」を引きずり出すことを決意します。いや、それ前にアニが言ってたけどお前止めたじゃん!という野暮なツッコミは置いといて、ライナーが心変わりせざるを得ないほど、すでに長い時間が経過してしまったのです。

ライナーの作戦はこうです。

調査兵団が壁外調査で不在にしている日を狙い、トロスト区の壁を破壊する
人手が足りないので訓練兵も前線へ駆り出される
そのどさくさで脱走し、難民を装って内地へ潜入する
もしくは訓練兵として成績上位を狙い憲兵になる

その時に「始祖の巨人」が姿を現すといいな、という非常に不確かな拠り所ですが、もはや彼らに他の手段はありませんでした。

作戦決行は解散式の翌日と決まり、場面は1巻3話「解散式の夜」へと続いていきます。

前回も書きましたが、この時「始祖の巨人」はすでにグリシャが強奪してエレンに無自覚ながら継承されており、ライナーたちは目的のモノを眼前にしながら余計な遠回りをしていたというわけ。後から知ってさぞ悔しかったでしょうね。

そして、予定通り解散式の翌日にはトロスト区の扉をベルトルトがぶち破り、機を窺っていたライナーやアニの会話に疑念を抱いたマルコは殺され、アルミンを庇って巨人に食われたエレンが「進撃の巨人」に覚醒するわけです。それを目撃した時のライナーたちの高揚たるや、いかばかりでしょうか。

「始祖の巨人」を隠し持っているとは思わないまでも、エレンが「九つの巨人」であることは明白。当時マーレの管理下にないものは「始祖」「進撃」「戦槌」「顎」の4体ですから、タイバー家が持っている「戦槌」と容姿が割れている「顎」を除き、可能性として高いのは「始祖」「進撃」だとおそらく推察できたでしょう。

「始祖」である確信は持てないまでも、せめて「進撃」を確保すればロストした「顎」の埋め合わせにはなる。描写はありませんが、彼らがそう考えたとしても無理からぬことです。そしてここから3人はエレンの身柄確保という目標に向けて行動を開始し、ライナーとベルトルさんはエレンを追って調査兵団入り。遠征時の「女型」による襲撃や、ウトガルド城でのエレン誘拐へと歩を進めて行きます。5年に渡る敵地潜伏で心が摩耗していた彼らにとって、ウトガルドに姿を現したジーク戦士長はどんなに心強く見えたことか。(大した成果がないと露見する恐怖もあったかもしれませんが…)

彼らがエレンの中に「始祖」が眠っていると確信したのは、エレンがミカサを守るために「無垢の巨人」(ダイナ)にパンチをかまし、近くの巨人にビリビリと衝撃が走った時でした。結果エレンを取り逃がし、「顎」を持つユミルは手に入れたものの、「始祖」に逃げられたのはこの上ない痛手。その後、しびれを切らして本国が増派したジーク&ピークとの合流を果たした彼らは不退転の賭けに出て、最後は人間の手によって仕留められる…というのが本作の大まかなストーリーでした。

(余談)若干辻褄が合わないと感じるのは、ライナーとベルトルトが調査兵団、アニが憲兵団という内訳でしょうか。アニは中央憲兵のケニーに顔を見られたことを危惧していたはずが、ケロッと忘れて1人で憲兵団行き。巨人戦力としての特徴を考えれば、走破力があり誘拐に向いているのはアニですから、ライナーとアニを調査兵に、ベルトルトを憲兵にした方が捗ったのではないか…とも思えます。日頃の言動から、アニがいきなり改心して調査兵になるのは相当に不自然といえば不自然なのですが、それは憲兵団志願を吹聴していたジャンやコニーも同じことですしね。まあアニが別行動している方がアリバイ工作をやりやすいとか、目的を達して逃げる時にアニの方が逃げやすいという面があったのかもしれません。

広告

現在、レベリオ収容区

さて、場面は変わってレベリオの戦士隊本部施設。ライナーはライフル銃に弾を込め、うつろな目で銃口を咥え引き金に指をかけていました。自殺の一歩手前です。我に返り、汗だくで息を荒げながら銃から口を離したライナー。思った以上に精神的にやられているようです。

前回まで、ライナーがここまで深刻な状態であるようには見えませんでしたが、長期に渡るスパイ生活によってアイディンティティが崩れてしまったこと、自らの寿命が近いこと、マルセルやベルトルト、アニたちに対する罪悪感など…が鬱積しているのでしょうか。ライナーが何から逃げ出したいのかはここでは明言されませんが、「鎧」の継承に実力が及ばず苦悩するファルコの姿を見て、一応思いとどまったようです。

そのファルコはフラフラと歩いているうちに病院の前を通りかかり、そこで先日声をかけた黒髪ロン毛の負傷兵に呼び止められます。

左足をなくし顔にも包帯を巻いた「彼」は、実は仮病で病院にいることをファルコに告白。記憶の障害で家に帰れないことになっているが、単に家族と顔を合わせたくないだけ…とファルコに明かします。ファルコは大して興味を示さず、心ここにあらずといった体でぼーっと座ったまま適当に相槌を打っていました。

同期が優秀だから自分は戦士に選ばれそうにない…と弱音を漏らしたファルコに、「彼」はその方が長生きできるからいいと励まします。戦地帰りだと説得力のある言葉です。さらに「彼」はフワフワした独りごちを続け、「自分で自分の背中を押して地獄に突っ込め、そうじゃなきゃその先にあるものが希望か地獄かは分からん」といった主旨のことを告げます。

進み続けた者にしか未来は分からない…。負傷兵とは思えぬ、意志の宿った眼差しで遠くを見据えながらファルコに「悔いなき選択」を説いた黒髪の男。初めて見せたその顔は、本作の主人公、エレン・イェーガーのそれでした。

「彼」はクルーガーと名乗り、ファルコに手紙の投函を依頼します。無事をしたためた家族宛の手紙を、仮病がバレないように収容区の外、検閲されないポストに投函して欲しいと。ファルコは素直にそれに応じ、なんら疑問を挟むことなく封書をポストへ投じました。パラディ島宛て…なわけはありませんから、マーレ本国内に潜伏しているパラディ島勢力か、レジスタンスの残党に向けたものではないでしょうか。何を偵察し、どこから崩そうとしているのか。誌面のアオリは「幕が上がる。」とあり、いよいよここから物語が急坂を転がり始める予兆です。

「彼」は左足を欠損していますが、巨人化能力を操作し再生を食い止めているのでしょうか?

タイバー家当主 ヴィリー=タイバー

その頃、戦士隊本部施設では、にわかにバタついた様子をマガトが何事かと問いただしています。

部下いわく、タイバー家の一団がアポなしで来訪しているとのこと。応接室の前にはタイバー家私設の警備兵がズラリと並び、室内には老若男女あわせて10名近くの顔ぶれがいて、子供たちが大騒ぎしていました。

「戦槌」の継承者は外部に公表されておらず、戦士隊を束ねるマガトでさえもタイバー家の誰が継承者なのかは知らない様子。この一団の中に「戦槌」が実在しているかどうかすら定かでありません。

タイバー家がここを訪問した目的も明らかでないまま、マガトとヴィリーは持って回った腹の探り合いを始めます。持って回りすぎて、僕の理解がちょっと追いつきません。

分かるのは、

マガトはマーレ軍の現体制に不満を持ち、マーレ人の徴兵制を復活させようとしている
エルディア人を兵力として痛みの自覚がないまま戦争を続けたことで、マーレは自壊しようとしている
マーレ国の実権はタイバー家(※エルディア人)が握っている
ヴィリーは世界に対し「すべて」を明かす心づもりでいる
そのために戦士隊へ根回しをし、協力を取り付けたいと思っている

…といったことでしょうか。
ヴィリーの口ぶりからすると彼が「戦槌」の記憶を継承しているように思えますね。

170908_01

タイバー家がこれまでマーレから兵役を免除されてきたのは、実権を握っているのが彼ら自身だったからというわけです。タイバー家は100年前の「巨人大戦」に際してエルディア人ながらマーレに力を貸し、それがフリッツ王家を退ける決定打となりました。

当時どのような経緯があったかは語られていませんが、その戦時のドサクサでタイバー家がマーレの中枢へ入り込み、そのまま周囲を傀儡化してしまったようです。おそらくタイバーの助力なしではマーレが巨人大戦に勝利することはできなかった。キャスティングボートに対する単なる見返りに留まらず、国そのものを差し出さねばならないほどに、彼らの戦力は圧倒的だったのかもしれません。

ただタイバー家は表舞台に出ることは好まず、領地で傍観者を気取り静かに国の成り行きを見守っていたようです。自分たちの持つ強大な力を恐れて…とでも言うのでしょうか。飛天御剣流の比古清十郎みたいな感じですね。「俺が関わった時点で勝ち負け決まっちゃうからな~!どっちの味方もできねえな~!」ってことです。たいへんウザいですね。

しかし、政治的にはそろそろそうも言っていられない状況に追い込まれていますので、ようやく当主様が重い腰を上げてマガトと密談しに来たというわけ。

ヴィリーは近日予定されている「祭事」での記者会見にあたり、すべてを明かし、そこに望みを賭けると言っています。彼が描いているシナリオとは何か?

マーレが置かれている状況はあまり芳しくありません。周辺諸国は総じて敵対しており、これまでは圧倒的な巨人戦力でもって大陸を支配していたものの、科学技術の進歩によって巨人は時代遅れになりつつある。パラディ島への工作が失敗し「九つの巨人」をいくつも奪われたことで、パラディ島にも不穏な動きが見え始めた。このままでは世界すべてに襲いかかられ、遠からずマーレとエルディアは共に滅び去ってしまう。

先日、ジークらが描いていたシナリオは「タイバー家が祭事を通してパラディ島の脅威を世界に今一度知らしめ、それをマーレの戦士隊が討つことで世界平和への恭順を示す」というものでした。悪役をこしらえて正義の名のもとにそれを滅ぼす、米国あたりが好きそうなプロパガンダです。

しかしヴィリー・タイバーは「責任はタイバー家にある」「すべてを明かす」と言っています。この「すべて」には何が包含されているのか。パラディ島は実は脅威ではなく、むしろ何も知らず閉じ込められている哀れな家畜の檻であることか。マーレの実権を握っているのがエルディア人であることか。 

 ヴィリーは、マーレには再び巨人殺しの英雄が必要で、そのためにマガトと手を組みたいと言っています。マガトの立場は戦士隊隊長でありながら現体制には不満を持っている革新派で、今の軍国主義では国を維持できないと考えている。そのマガトと協調するということは、ヴィリーもそれに近い考えを持っているということ。タイバー家は事実を明かしてマーレを現体制へ導いた責任を取り、マーレはマガトの働きによって再び巨人殺しの英雄を得て、大きな変革をもって世界大戦の危機を乗り越える…。

こう考えると、タイバーがやろうとしているのはマーレに脱・巨人&脱・軍国主義の道を歩ませることではないかと思えるわけです。

ただ、巨人化能力は持ち主が死んでもランダムにリポップするらしいので、恐ろしいことにこの世から消滅させることができません。(混血を進めてエルディアの血が薄まれば消滅するのかも)

であれば戦力として使えないように(壁の中で眠っていた大型巨人たちのように)封じてしまうことも考えられますが、無垢の巨人と違って寿命縛りがありますので勝手に死んでどこかでリポップしてしまいます。これも却下。巨人化能力は捨てたくても捨てられない、とても厄介な代物なんです。

タイバー家の真意はどこにあるのか、残念ながら今の情報量では明確な道筋は見えませんが、マーレとパラディ島が全面戦争して勝った方が正義だーという展開にはならないはずですので、どこかでちゃぶ台を返して融和的な解決に向かうのでしょう。

これ以上考えてもよく分からないので、つづく。

広告

別冊少年マガジン(毎月9日発売)で連載中、
「進撃の巨人」のネタバレ感想ブログです。

ネタバレには配慮しませんので、ストーリーを楽しみたい方はご注意下さい。

※フラゲ速報ではありません。本誌発売日の夜に更新することが多いです。

Return Top