進撃の巨人 ネタバレ考察

(95)嘘つき

迫るパラディ島への再侵攻作戦。いまだ決着がつかぬ次代の「戦士」選び。

ライナーはかつて自分が戦士として選ばれた当時に思いを馳せ、これからの戦いを想像して嘆息する。

そして「九つの巨人」最後の1体、その名称と所在が明らかになる…。

進撃の巨人 第95話 嘘つき
別冊少年マガジン2017年8月号(7月7日発売)掲載

密室の戦士たち

レベリオ収容区、戦士隊の本部にある戦士長執務室。やや簡素な作りの応接セットを囲み、天井まである書棚にはギッシリと本が詰まっています。

現戦士隊と次期戦士長候補のコルト、全員揃ったのを確認するとジークは手ずからカップにお茶を注ぎ、現在の状況整理を始めました。

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先の戦勝によってマーレは東方の連合国を退け、今回も資源争奪戦を制することができた。しかし巨人大戦の勝利で確立されたパックス・マレーナも1世紀続き、いよいよ綻びが大きく見え始めている。

マーレの最大戦力は隷属させているエルディアの巨人兵器であり、周辺の敵国からは悪魔として謗られている。エルディアはかつて帝国として大陸を覇し、非人道的な民族浄化を行ったとされる。その歴史書の正当性については議論があるものの、一般にエルディア人は「世界の敵」「悪魔の末裔」とみなされていて、大陸に残ったエルディア人たちは主権を放棄してマーレに従属している。

これはかつて帝国時代の戦争に対する反省や自罰の意味もあるが、しかし結果を見ればマーレは巨人兵器を取り込み前線へ投入することで勝利を確実なものとする一方、敵国には「エルディアの巨人が味方を皆殺しにした」という新たな歴史が書き加えられていく。ゆえに現在、エルディア人は世界の敵としての立場をさらに確固たるものとし、今や世界中から廃絶を渇望されている存在である。

これまで巨人兵器は無敵の戦力であったゆえに敵へ睨みをきかせることができたが、先の戦争で火薬を用いた近代兵器の前に巨人の戦術的優位は失われつつあることが露呈し、これを受けた周辺国は一層兵器の開発や増産に力を入れることが予想される。巨人、そしてエルディア人が、マーレにとって役に立たない前時代の遺物に成り果てる日がそこまで来ているのだ。

そうなればエルディア人はマーレからも周辺国からも庇護を得られず、民族すべて滅ぶだろう…。

 

反エルディアの世界的な気運の高まりは、すでに回復の難しい所まで来ています。それを払拭するためにはエルディア人自らが世界に向けたメッセージを行動で示す必要があり、そのひとつがパラディ島の始祖奪還計画。世界の認識ではパラディ島に潜んでいるのはエルディアの中でも生え抜きのタカ派で、始祖の巨人を使っていつ他国へ侵略を仕掛けてくるか分からない狂った連中…ということになっています。それをジークたち大陸のエルディア人が制圧し、世界への恭順を改めて示すことで、なんとかお目こぼしを願おうという考えなわけです。

その筋書きをお膳立てし権威を与えてくれるのが、大陸エルディア人の中でも高い地位にあり各国とのパイプを持つ「タイバー家」とのこと。

タイバー家は初登場となりますが「九つの巨人」の最後の一体、「戦鎚」を持つ家系です(巨人の姿は今回登場せず)。巨人大戦でフリッツ王家に反旗を翻して以後、その功績を認められてか所領を安堵され、帝国主義的な戦争には加わらずに地方豪族のような体で暮らしているようです。エルディア人ながらかなりの特権があると思ってよいでしょう。

しかし戦力を持ち特権を与えられながら戦争には行かない、いわばノブレス・オブリージュを果たしていない彼らに求心力はあるのか? 僕がそう問いを発するまでもなくガリアードはストレートにタイバー家への懐疑を口にしますが、ジークやライナーがそれを制します。世界への影響力は健在で、タイバー家の演出によってパラディ島奪還作戦は新生エルディアの産声となる。そう信じて作戦を決行するようです。

100年前の政変で活躍した英雄の子孫が、英雄の子孫であるというだけで特権を享受しながら全体への奉仕を怠っていた場合、現代の日本なら影響力があるとは思い難いですね。英雄の子ならともかく、孫の孫くらいになるとさすがに。とは言えちょっと昔の江戸時代であれば戦国時代に活躍した武将の子孫であるというだけでヒエラルキーの頂点に登れたわけですから、文化的コンセンサスというのは面白いものです。みんなそれを信じてルール化していたのですからね。

 

会議の結論は「タイバーが近くレベリオ区へ要人や記者を招いて決起宣言を行い、パラディ島を奪還することを広く知らしめるから、みんなでエルディア人が受け入れられるように頑張ろうぜ!」というものでした。会議というよりただの業務連絡ですねこれ。

ところでこの密室での業務連絡ですが、本当の目的はマーレ当局による思想調査です。部屋の蓄音機が電話につながっていて、別室ではそれを聞きながら隊長らが会話内容をチェックしているというわけ。ジークはもとよりライナーもそれに勘付いていますし、すでに前回のパラディ島潜入時に同様のチェックを経験しているピークもボロは出しません。新人で萎縮し簡単な質問をすることしかできなかったコルトもセーフ。唯一ポカをやらかしたのはタイバー家を担ぎ上げることへ不満を漏らしたガリアード。ジークとライナーが彼の言葉を遮ってなだめたのは、ここで体制批判や軍への不満を吐露したらマズいと考えたからでしょう。

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ライナーと父の対話

ライナーはガビたちの訓練の様子を眺めながら、初めてパラディ島へ渡った頃のことを思い出しています。 

当時の戦士たちは軍上層部の予想を超えた仕上がりを見せ、アニ、ライナー、ベルトルト、マルセル、ジーク、ピークらの評価は全て良好です。全員4番打者で固めたかのような迫力のある顔ぶれに、マーレ軍人をして「ある日突然アレが殺しにやってくるんだから、パラディ島の住民に同情してしまう」と言わしめるのも当然か。

パラディ島へ渡る前に、戦士隊は他国との戦争で実戦を経験していました。沿岸の都市のようですが、ライナーが迫撃砲を防ぎ、マルセルがその隙をついて砲台を破壊、ジークはお得意の投擲で近づく敵部隊を攻撃。ピークはシュノーケルで海中からベルトルさんを輸送、ベルトルトは顕現しただけで爆風により街を消滅させるという連携プレーで、瞬く間に一国を平らげてしまいます。爽快!

少数で一国を蹂躙せしめる戦力とは言っても中身はまだ10代前半の子供であり、パラディ島への潜入作戦は年長であるジークの引率もなく、すべて彼ら自身で判断しなければならない。マガトはさすがに始祖奪還の作戦を疑問視しています。

結果的には、ライナーたちは何年にも渡る長期間の潜伏を耐え、「始祖の巨人」「進撃の巨人」を宿したエレンの身柄を拘束するところまでは漕ぎ着けたものの、あと一歩でエルヴィンらの覚悟に阻まれ失敗。しびれを切らした本国が増派したジークとピークの助勢をもってしてもシガンシナで調査兵団に一矢を報いられて敗走しました。その上「超大型」と「女型」はロスト。

この結末だけを見れば、確かにマガトの心配どおり作戦は大失敗に終わったと言えます。戦士隊もみんな孤独に耐えながら頑張ってたし、もう少しで目標達成だったんですけどね…。

とこのように、これまでは正体不明の敵で悪者であったはずの巨人勢力に僕もすっかり感情移入しており、むしろジークやライナーにベルトルトの仇討ちを果たして欲しいくらいの気持ちです。これだけミッチリとマーレの戦士を描いているおかげでストーリーの大きな展開がなく少し退屈ですが、今後の再戦でどちらに肩入れするか、彼ら2つの道がどう交わって世界の仕組みという壁を乗り越えるのか、新たな楽しみが増えたと言えるでしょう。

また彼らの育った背景や使命を深く理解した上で本作を読み返すと、エレンが初めて巨人化した時のライナー達の狼狽、ウトガルドで獣の巨人を目にした際のライナーやベルトルトの表情、ユミルへの態度といった当時は目に止まらなかった描写が深みを増して感じられ、一粒で何度でも味わえる巧みな構成の物語であることを改めて認識させられます。僕は月100冊ほど新刊コミックスを買う重度の漫画中毒ですが、これほどロングパスが綺麗に意味を持って読み味を変える作品は近年ほとんど覚えがありません。

 

話を戻しましょう。ライナー達が戦士に選ばれた当時。ポルコ(ガリアード弟)は激昂してライナーに詰め寄ります。なぜ自分より成績が悪いライナーが鎧に選ばれ、自分は居残りなのか。決定に納得できず殴りかかろうとするポルコをマルセル(ガリアード兄)が諌め、その場から連れていきました。

後日パラディ島で落命する直前にマルセルが告白したところによると、ポルコを落としてライナーを採用するよう軍へ働きかけを行ったのはマルセル。動機は単純で、兄として弟の命を守りたかったから。寿命は縮むし作戦中に死ぬ危険もあるし、戦士は家族に1人いれば名誉マーレ人の権利がもらえるのでしょうから、個人での武勲を至上としない平時の感覚に照らせばごく真っ当な判断です。

しかしそれは代わりにライナーを犠牲にしたとも言えるわけで、マルセルはそのことをずっと気に病み、すまないと何度もライナーに頭を下げ、最期はライナーを庇って死に至るのです。

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ともあれ、選抜された4名はパラディへ向かう誉れ高き戦士として、市中をパレードでお披露目。晴れ舞台に上る息子を群衆の中から涙を流し見つめる母の姿に、ライナーもまた大粒の雫を頬にこぼすのでした。その時、馬車の上からふと目にした中年男性の背中にライナーは見覚えがあり、後からこっそりと彼の仕事場を訪ねます。その男が自分の父親であると確信して。

「彼」はどうやら兵舎の炊事係らしく、エプロン姿で厨房に立っていました。名誉マーレ人になったから一緒に暮らせると申し出たライナーに対し、男は怯えるように罵倒します。ライナーの出自が明るみに出たら自分は縛り首だと。

ライナーが幼心に描いた無邪気な夢は、「両親と一緒に暮らしたい」というささやかな願いでした。生まれのせいでそれが叶わないのなら、努力でそれをこじ開ける。そう決意したライナーは忍耐強く訓練を続け、そして選抜されます。これでやっと母の喜ぶ顔が見られる…勇んで対面した父親から返ってきたのは、ライナーが想像だにしない呪詛だったのです。

「名誉マーレ人」といってもそれは建前上のもので、法的には権利が与えられるが民心や日常には関係がないということなのでしょう。マーレ人から本音で歓迎されるわけでもなく、同胞からは憧れだけでなく妬みも買ったはずです。本人の思惑とは裏腹にどっちつかずのコウモリになってしまったライナーは、父とのいきさつを伏せたまま作戦の日を迎えます。

ちなみにこの当時のエレンは「あー壁の外に行ってみてーなー」とか言いながら近所の子供とケンカなどして「家畜の安寧」をこれでもかと貪っていました。ほんとライナーの爪の垢でもほじって舐めてろと言いたいですね!

 

輸送船でパラディ島へ届けられた戦士隊4名は海岸でマガトと別れを済ませ、壁へ向かって進みます。その翌朝、壁にたどり着く前にさっそくマルセルが「無垢の巨人」と化したユミルに食われて作戦に重大な支障をきたしたわけですが、ライナーたちはそれを助けるわけでもなく見捨てて遁走。十分に巨人化の訓練を積み実戦も経験しているエージェントとしてはかなりお粗末で、この場面については前から疑問があります。

マルセルはユミルに捕まって噛み砕かれ絶命するまで数秒もあれば「顎の巨人」になれたはずだし、近くに戦士が3人もいるのに「無垢の巨人」1体の襲撃を看過するどころか背を向けて逃げ出すとは…。驚いて冷静な判断ができなかったのか、壁に到達するまでは巨人化してはならないと厳命でもされているのか、理由はわかりません。どこかに書いてあったら教えてください。

なおマガトによるとマーレの連絡船は満月ごとにパラディ島へ停泊するとのことです。12巻最後、エレン誘拐に失敗した後にライナーたちが到達したシガンシナで夜空の月が丸くなっているので、そのタイミングでユミルだけ本国へ引き渡されたのかもしれませんね。

つづく

ようやく判明した最後の巨人

これまで未詳だった最後の巨人の所在が明らかになりました。

【パラディ島勢力】
「始祖」 :ウーリ→フリーダ→グリシャ→エレン
「進撃」 :クルーガー→グリシャ→エレン
「超大型」:ベルトルト→アルミン
「女型」 :アニ(捕虜として拘禁後、詳細不明)

【マーレ戦士隊】
「獣」 :ジーク
「鎧」 :ライナー
「顎」 :マルセル(ガリアード兄)→ユミル→ポルコ(ガリアード弟)
「車力」:ピーク

【タイバー家】
「戦槌」:???

タイバー家は名誉マーレ市民ですから戦士隊と似たようなものですが、ここ100年ほどは戦争への参加を免除されているらしく意思決定の仕組みは不明です。

「嘘つき」は誰?

今回の副題は「嘘つき」となっています。これは一体誰のことでしょうか?

冒頭、出勤の道すがらガビがライナーに「ライナーは何か嘘をついている」と告げる場面がありました。これは「パラディ島の住民はみんな悪い奴だ」という思想のことを指します。ガビはその中身までは気づかず、前話でライナーがうっかり吐き出した言葉を聞いても意味を理解できませんでした。これから殺し合う相手のことなど知らないほうが楽だという親切心と、真実を知って目を開いて欲しいけど怖くて言えないという煮えきらなさがごちゃ混ぜになった感情がライナーを嘘つきにしたのでしょう。

会議でポルコを制し建前を通したジークの嘘。
父親とのやりとりを母に伏せ、彼女の心の平安を願ったライナーの嘘。
秘密裏にポルコを落選させるよう工作したマルセルの嘘。

「嘘」に注目してみると、登場人物の多くが何かしら嘘を抱えています。それが邪な理由かどうかはともかく、人は嘘をつかずには生きられないのです…とかいう、書いてて恥ずかしくなる浅いポエムで今日は終わりです。

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別冊少年マガジン(毎月9日発売)で連載中、
「進撃の巨人」のネタバレ感想ブログです。

ネタバレには配慮しませんので、ストーリーを楽しみたい方はご注意下さい。

※フラゲ速報ではありません。本誌発売日の夜に更新することが多いです。

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