進撃の巨人 ネタバレ考察

(90)壁の向こう側へ

グリシャの手記によって明かされた壁の真実。

シガンシナ区への遠征から帰還した後、女王ヒストリアを交えた会議でハンジはそれを詳らかに報告する。

ユミルの民。不戦の契り。壁の外に広がる別の文明社会。

マーレの本格的な侵攻が迫る中、これから壁中人類はどのような道を取るべきなのか…?

 

進撃の巨人 第90話 壁の向こう側へ
別冊少年マガジン 2017年3月号(2月9日発売)掲載

民衆への情報公開

明らかになった壁や巨人の真実は、そのまま公表すれば壁中人類に大混乱をもたらすと推測されました。

確たる証拠もないまま調査報告を公表することに異を唱える幹部もいますが、ピクシスはそれを制します。それではクーデター前の王政と同じではないかと。民衆に真実を伏せたまま「家畜の安寧」を取り繕うのであれば、革命を起こした意味がない。

ヒストリアの鶴の一声で、調査兵団が決死で持ち帰った成果はそのまま国民へ公表されることとなりました。民衆は貪るように新聞を読み、兵団の街頭演説に群がり、この世の成り立ちを知ります。

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クーデター当時、ハンジと行動を共にし政権打倒に力を貸した新聞記者・ロイとビュレが久々に登場。さすが本職のブン屋らしく、ここ最近の経緯を簡潔にまとめて復唱してくれました。私のような記憶力の乏しい読者にとって非常にやさしい存在です。

まあシガンシナ奪還作戦は73話(18巻)くらいからやってましたからね、今90話ですから17ヶ月も経ってるわけで、色々忘れてても仕方ありません。このブログの筆者も色々忘れてることがあると思いますが、もしおかしな点に気づいたとしても、苦情を申し立てずにそっと微笑んでスルーしてください。

報道を受けた民衆の反応は様々ですが、だからといって別に今すぐ目の前の生活が変わるわけではないため、暴動や大規模デモが起こる雰囲気はありません。街で巨人と関わりなく暮らしていた人々からすれば、あまりにも突飛でどう反応すればいいか分からないというのが実態に近いかと思います。

現代の地球で「実は地球は宇宙人によって作られた植民地だったのです。そのうち彼らが入植を始めて、人類は処分されるかもしれません」とか総理大臣がテレビで話していたところで、たぶん今日も普通に会社や学校はあるし、腹は減るし、自分たちが包丁やフライパンで戦うわけでもないし、なんだいつもとやること変わらないじゃん…と、そうなるような気がしませんか? 特に日本では。

壁中人類に日本人的な価値観が根付いているかどうかはともかく、街は思ったより平穏な様子でした。ハンジやリヴァイも軍装ではなくジャケット姿で、ロイたちと紅茶を飲みながら会談する程度には余裕があります。ロイが言うには、街は「混乱状態」とのことですが、割りと他人事のようにしている人も多そうです。ムズカシイことは誰か偉い人がなんとかしてくれるんだろう、とでも考えているのでしょうか。

誌面では穏やかにも見える時間ではありますが、さしものベテラン記者であるロイをして、その手は小刻みに震えていました。世界中から化物扱いされているユミルの民に未来はあるのかと不安で仕方ないようです。対岸の火事とも言うべき実感の伴わない危機を、震えるほどリアルに察知する感受性はなかなか大したものです。その点、ロイより余程ショッキングな事実と向かい合っても比較的あっけらかんとしているエレンの鈍感力。さすが主人公だと驚嘆すべきものがありますね。

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フロックの胸中

調査兵団の叙勲式典で、ヒッチも久々の登場。確認してませんがクーデター成功をリヴァイ班に知らせた時以来でしょうか? マルロが顔面を吹っ飛ばされた時にもイメージ映像が出てたかな? 跳ねっ返りの小生意気なギャルだったのが、ちょっと落ち着いて陰のある感じになってました。立体機動用の戦闘服ではなく、礼装らしきロングスカートです。

マルロの最期について、彼と轡を並べて囮突撃を敢行したフロックが説明します(フロック:瀕死のエルヴィンを担いで来た兵士で、調査兵団わずか9名の生き残りの1人)。マルロは困難な状況でも仲間を鼓舞し、最期まで勇敢だったと。

ヒッチはそれを先刻承知とでも言いたげに、フロックと目も合わさず相槌で流していましたが、彼の次の言葉を聞いて目の色が変わります。「でも最期は…あそこに行ったことを後悔しただろう」と。

ヒッチはその言葉を受けて大きく目を見開いた後、フロックに軽く礼を告げて去っていきました。

フロックの言葉を聞くまで、彼女はマルロをどこか遠い存在だと思っていたのでしょう。自分たちはズルくて弱くて、隙あらばサボり、利権で甘い汁を吸い、保身に励む、それが普通。でもマルロはそうじゃない。立派でマジメで志の高い、バカだけど凄く凄くて凄い奴。そんなマルロだから、私の心配は届かず危険な作戦に志願して、勝手に死んだ。

けれど、最期はあいつも後悔したらしい。普通の人間らしく、みっともなくビビりながら。畜生、そら見たことか。だから言ったのに。いい気味だバカ。

そう知った時、ヒッチはおそらく初めてマルロのことをちっぽけで対等な友と感じられたのではないでしょうか。自分とは違う眩しい存在で、理解できなかったはずの彼のことを、同じみっともない人間だと身近に思えた。

ああ、そっかあ、そうだったんだね…と噛みしめるような風情でフロックたちに背を向けるヒッチ。

170209_02ヒッチの目元はよく見えませんが、右下に散っている雫は…。印象に残るいい場面ですね。僕はヒッチみたいなワルぶってる純情娘が大好きなんです!

 

そんなヒッチの胸中を測りそこねた鈍感男子のジャンとフロックは、やっべー、余計なこと言っちゃったかな~と気まずい感じになっていました。気まずさついでにエイヤとばかりアルミンにまで吹っかけるフロック。あの時アルミンではなくエルヴィン団長を生き返らせるべきだと思ったと、バカ正直にアルミン本人へ告白します。

そう思ったのは自分だけでなく、事後報告を受けた他の兵団幹部たちも同様だったと威を借りて畳み掛けるフロック。アルミンが選ばれたのはリヴァイとエレンが巨人化薬を私物化し、感情的になって合理性を欠く判断をしたからだと、かなり厳しい口調で(なぜかアルミン本人を)責め立てます。アルミンの責任ではないような気がするのですが…。

やはりフロックは腹に相当溜め込んでいますね。あの囮突撃を奇跡的に生き延び、瀕死のエルヴィンを見つけたことは彼にとって天が与えたもうた運命と言ってよく、しかも腹にトンネルの開いたエルヴィンの息があるうちに担いでリヴァイの元までたどり着いた。84話ではその宿命を口角から泡を飛ばしつつ熱弁しています。

なのにエレンがゴチャゴチャ横槍を入れ、やっと説得したと思ったら最後の最後でリヴァイの翻意によってエルヴィンは死亡、フロックが起こした奇跡はなかったことにされてしまうわけです。彼から見ればエレンもリヴァイもふざけんなという感じでしょう。85話でも無言で不機嫌なオーラ出してましたね。

アルミンをかばうエレンと、いつものようにケンカの仲裁に入るミカサ。そこでフロックが放った言葉はミカサの心をえぐります。ミカサは大人だったよな、最終的には(アルミンを)諦めたんだから…と。

これは84話を指しています。当ブログの記事から該当する部分を持ってきましょう。

ハンジに「みんな大切な人が死んで辛いんだからワガママ言っちゃだめ」とお説教されてミカサは落涙、意外とあっさり脱力してへたり込みます。仮にミカサが本気で暴れたら今この場に止められる者はいないと思われますが、ミカサの中でもエルヴィンの方が大局的には重要な人材だと分かっている、と言えるでしょうか。

黒焦げで瀕死のアルミンを前にして、ミカサはエレンのように最後まで抵抗するという素振りは見せず、思ったよりは簡単にハンジの説得に応じてアルミンの命を諦めていました。エレンは諦めが悪かったが、ミカサは大人だった。フロックにそう言われてギクリとしたミカサです。

あの場面でリヴァイは疲労困憊してましたから、ミカサとエレンが本気で抵抗すれば力づくで注射器を奪えたでしょう。エレンも最後までジタバタしてましたが結局フロックやリヴァイをぶちのめすまでは至りませんでした。頭のどこかでは冷静に値踏みしていたということになります。

命に優先順位なんかない、といったお題目はあちこちで耳目に触れるような気がしますが、果たして本当にそうなのでしょうか? これは普段の私たちが大きな声では言えない、少年誌らしからぬ重いテーマ。なかなか挑戦的な踏み込みに思えます。

 

さらに仲裁しようと割って入ったジャンとコニーにまで、お前らあん時は何もせずボーッと見てただけだよな!と全方位射撃をかます狂犬フロック。誰かこいつを止めてくれ。

青ざめた顔で、俺ら一兵卒にも値踏みする権利くらいあるだろと訴えるフロックを前に、ジャンは何も言い返せませんでした。それはジャン自身がかつてエレンに発した問いと同じです。お前は自分の命を使うに値する存在なのかと。(5巻・22話)

今回フロックは嫌な役回りですが、言っていることは至極正論。客観的・合理的な視点で言えば、エルヴィンはまだ生きてやるべきことが山ほどありました。調査兵団が壊滅した今、手腕が必要とされるのはエルヴィンで間違いありません。エレンとリヴァイが各々の友情にほだされた結果がアルミンの助命だったわけですから、フロックの言い分は実に当を得ています。

要するに「お前らが身勝手なワガママで団長を殺してアルミンを助けたんだから、さぞやそれに見合うだけの活躍をしてくださるんでしょうねえ~? じゃないと僕は納得して心臓を捧げられませんよ」ってことです。

その場の大勢が痛いところを突かれて押し黙る中、終始無言だったアルミンも所在なげにフロックを支持します。自分ではなく団長が助かるべきだったと。気持ちは分かりますが、それを言ったらリヴァイの立場がない。

なにが正しい選択かなんて分からないと取り繕うエレンと、柱の陰から聞き耳を立てるリヴァイ。この二人は重大な決断を後悔した経験があり、結局は自分が信じる方を選ぶしかないと知っています。後から結果論でああすればよかったと語るのは簡単ですが、決断の瞬間は誰にも未来は分かりません。本作の今後においても、このままでは救われないアルミンの魂に対し、彼が生かされて良かったと思える場面がきっと来るはずと信じましょう。

壁の外には自由が広がっている、海を見に行こうぜとアルミンを励ますエレンですが、同時に脳裏をよぎったのはグリシャが妹と一緒に収容区の外へ抜け出した日の悲劇でした。犬に食い散らかされたフェイの遺体。壁から出ても、己に力がなければ捻じ伏せられる。そんな暗示を予感させます。

一年後

トロスト区の壁に設置された、巨人処刑マシーンを覚えておいででしょうか。

エレンの硬質化能力で作った2枚の板の間に囮役の人間が入り、巨人が寄ってきた所へ巨大樹の丸太槌を落とし、重さで巨人の脊髄を潰して始末する装置です。囮の周辺は壁材が網のように巡らせてあり、巨人は手が届かずつっかえるようになっています。

この発明によって人類は安全確実、弾薬の消費なしで巨人をバッサバッサと刈り取れるようになり、およそ1年後。ウォールマリア内の巨人は全て掃討され、シガンシナ区の避難民に帰還が許可されました。

さらっと書いていますが、これは大変な進展です。

超大型巨人に扉をぶち破られてこの世の地獄を現出させたトロスト区。エレンが大岩を持ち上げる作戦により区そのものは奪還されたものの、外側に広がるウォールマリアのエリアはシガンシナ経由で入ってきた巨人たちが跋扈していました。

シガンシナ戦でエレンが硬質化能力を使って扉を塞いだことにより、シガンシナ区とトロスト区の間に位置するドーナツ型ゾーンに取り残される格好になった「無垢の巨人」たち。それを先述のマシーンでチマチマ間引いていけば、いつかは人類の領地を回復できる…という理屈ですが、それが1年で実現したというわけ。エレンなしでは何十年もかかると言われていたのに…。

特に描かれていないので、調査報告を公表したことによる大きな暴動や内乱もなかったのでしょう。巨人はもともと人間だったんだよ、と知られれば巨人愛護運動でも起こりそうなものですがそれもなく、淡々とぶっ殺し続けたようです。

 

さらに、シガンシナ区の外へ出る壁外調査も行われました。これはシガンシナ襲撃以来となりますので、作中では6年ぶり。

驚くべきことに、パラディ島にいた「無垢の巨人」の大半は人間に惹かれてウォールマリア内へ侵入してきたらしく、その全ては処刑済み。つまり壁外にもほとんど巨人の姿はありません。

少し髪が伸びて毛先に動きがついたエレンはグリシャの記憶を頼りに馬を飛ばし、あっさりとマーレの処刑場に到着。その先には生まれて初めて見る「海」が広がっていました。

裸足になり海岸ではしゃぐ104期の面々。ここしばらく存在感の薄いサシャも元気です。エレンはこの風景が父の記憶と合致していることを確認し、海の向こうに敵国があることを改めて認識します。敵を全部殺せば自由になれるのか?などと物騒なことを言い出す主人公、まだまだ展開が読めません。

 

さて、「巨人を1匹残らず駆逐する」というエレンの悲願はほぼ叶いました。「九つの巨人」や壁の中の巨人たちは健在ですが、壁中人類にとって脅威であった理不尽な捕食者としての巨人はすでにパラディ島から駆除され、エレンたちは自由に島全体を歩き回れるようになっています。

結果的に、これまでの調査兵団の役割もほぼ終えたといえるでしょうか。壁外を調査して、障害となる巨人と戦うために訓練された組織。島に巨人がいないのであれば地形の測量や記録は土木業者がやればよい話で、わざわざ兵団が地図を作る必要性は薄い。マーレが新しい罪人を運んでこないか監視塔を建てて見張るくらいの役割が適当でしょう。調査兵団の存在意義自体が低下して大規模な作戦の必要もなかったと考えれば、エルヴィンがいなくても大して困らなかったねというのが現実です。フロックの値踏み云々は何だったんだ…。

 

巨人がほぼ絶滅したことで、ここに物語は過去最大の転換、すなわち「人類vs巨人の生存競争」から「人類vs人類の戦争」へと明確に切り替わるポイントを迎えることとなりました。 

マーレとパラディ島では文明レベルがかなり異なっているため、まともに戦争をしては勝てません。鍵となるのはやはり巨人で、九つの巨人の保有数で言えばマーレが有利ですがエレンには始祖の巨人があり、壁の中に大型の巨人がたくさん埋まっています。

気になるのはマーレの戦士たち。ジークとライナーが敗走してから1年間近く音沙汰なしだったわけですが、マーレ本国で今頃どうなっているのか。予備の戦士を補充して再出撃してくるのか、作戦失敗の責任を取らされて別の巨人に代替わりしているのか、それとも帰還せずパラディ島に潜伏してアニ救出の機を伺っているのか。次回あたり何か動きがあるといいのですが。

つづく

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別冊少年マガジン(毎月9日発売)で連載中、
「進撃の巨人」のネタバレ感想ブログです。

ネタバレには配慮しませんので、ストーリーを楽しみたい方はご注意下さい。

※フラゲ速報ではありません。本誌発売日の夜に更新することが多いです。

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