進撃の巨人 ネタバレ考察

(78)光臨

新兵器「雷槍」攻撃により鎧の巨人に致命的なダメージを与えたハンジたち攻撃部隊。鎧の巨人が残された力を振り絞って発したメッセージに呼応し、獣の巨人はベルトルトが隠れている大樽を前線に向かって投擲。超大型巨人が降ってくる…! 緊急離脱を試みる調査兵団!!

進撃の巨人 第78話 光臨
別冊少年マガジン2016年3月号(02月09日発売)掲載

アルミンとベルトルト

弧を描いて遥か上空から飛行する大樽。その中からベルトルトは冷静に街の様子を観察していました。やはり樽は無回転状態で飛んでいます。ジーク戦士長の投擲技術には恐れいりました。

手はず通り超大型に変身して辺り一帯を吹き飛ばそうとするベルトルトですが、その寸前に瀕死のライナーを発見。ここまで追い込まれているとは予想外だったらしく、ベルトルさんは変身をとりやめて樽から離脱。立体機動で様子を見に接近します。

鎧の巨人の身体からは緩やかに蒸気が漏れだし、本体であるライナーは顔の上半分が吹き飛ばされた状態で呼びかけには応えず。しかし…!

「生きてる」

ドクンドクン。脈動するライナーの心臓。うーん、しぶとい!

登場人物がバタバタ死ぬ系の漫画作品ではありがちなのですが、初期は重要人物であってもあっさり死んでいくのに後半になってくると誰も離脱せず、ミッション遂行の緊張感が大幅に緩和されるという呪縛。「GANTZ」や「テラフォーマーズ」を思い出していただければお分かりかと思います。

進撃の巨人もこのインフレ現象は克服できず、既に雑魚巨人に対する恐怖感はゼロです。どうせこいつらが何体攻めてきても今の調査兵団の敵じゃないよね、といった安堵・弛緩は否めません。理不尽な災害に巻き込まれて何ら思いを吐露することすらなく雑魚巨人に蹂躙され死んでいったミーナやトーマスらの場面と比べ、今はシナリオ上重要な場面において自らの選択の結果を反映した死しかない。まあ、だから作品がつまらんというわけでは決してありませんが。

さて、ベルトルトの見立てによるとライナーは神経網を通じて巨人の全身に意識を移し、巨人の脳を利用することで記憶を保持したまま死を免れたそうです。うむ、全く分かりません。

しかし鎧の巨人は咆哮を発した後は座り込んだままピクリとも動かない。これでは戦闘中に緊急退避してもほんの数秒延命するに過ぎず、ベルトルトが駆け付けなかったらそのまま雷槍部隊の再攻撃によりトドメを刺されていたであろうことからも、苦し紛れの最後の策であったことが想像できます。

藁にもすがる苦肉の行動であったとは言え、結果的にはベルトルトが間に合いライナーは絶命せずに済んでいますから、本作戦においてはそのほんの数秒の差が実に効果的だったと言えるでしょう。

ライナーの下顎だけ残して頭部上半分がなくなった姿、脳と脊髄だけ残して生存すること…諫山先生が本作を執筆するにあたり影響を受けたとされる「マブラヴ オルタネイティブ」を嫌でも想起させる描写ですね。あまり思い出したくない場面ですが。

聞こえているか定かでないものの、ベルトルトはライナーに覚悟を決めろと語りかけ、すっくと立ち上がり涼やかな決意の目を調査兵団へ向けます。

人間の姿のまま立体機動でハンジの部隊へ接近するベルトルト。ハンジは応戦を命令しますがアルミンはこれを堂々と無視、勝手にベルトルトに呼びかけて交渉を始めます。相変わらず大勢の生き死にがかかった場面で軍規もへったくれもない部隊ですが、処罰されないんですかね…?

この世界の軍には現代のような階級制度(佐官・尉官など)がなく中世に近い組織構造を持っているようですが、トロスト区奪還戦で命令拒否しようとしたダズが軍規に基づきその場で処刑されそうになっていましたのでルールはある。まして人間同士の戦争と違い相手は巨人ですから降伏や交渉がありえず、遭遇したらどちらかが死ぬしかない世界。一瞬の判断や連携の遅れが致命的であることから命令系統は厳格にコントロールされていそうなものです。

エレンのような特殊戦力はともかくとして、アルミンは替えが効かないポジションではありません。単に頭がいい人です。それだけを理由に役職を超えた独断専行を認めていたら軍の組織的行動は成り立ちません。功は功として正しく労うが、命令違反はまた別の話として正しく罰せられるべきものではないでしょうか。とは言えそんなことを細かく描写していると一定のリアリティと引き換えに物語のテンポが損なわれますので省略もやむを得ないとは思います。

アルミンの呼びかけに応じて歩を止めたベルトルト曰く、要求は二つ。
・エレンの身柄引き渡し
・壁中人類の死滅

二番目の要件がある以上、交渉の余地はないということですね。アルミンはベルトルトの動揺を誘うためアニが拷問で苦しんでいると伝えますが、さすがにもう二番煎じは通用せず。アニの境遇が嘘だという確証があるわけではないものの、今ここでそれを疑っても仕方のないこと。作戦前に決めた通り、ベルトルトはもう迷いを振りきっていました。

駆け引きが通じないのを見て悟ったアルミンはその場から離脱を試みますが、ベルトルトは立体機動で先回り。その退路を塞ぐと鋭い視線でまっすぐにアルミンを見据えます。アルミンの話が単なる包囲展開の時間稼ぎでしかないことが、ベルトルトにはわかってたのです。

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これまで作中で見せたことのない凛々しい表情と前のめりな姿勢、一皮むけたオーラ全開のベルトルさん。対して姑息な欺瞞がバレてうろたえるアルミン。これではどっちが主役か分かりません。

ベルトルトは初期からライナーの陰に隠れ自己主張せず、ほとんどセリフもありませんでした。そして超大型巨人の本体であることが発覚しても泣いたり喚いたり精神的な脆さが見える場面が多く、主体性に欠けた印象はなかなか変わりません。そんなイメージをすべて払拭するほどの変化です。まるで散り際の最後の見せ場のように…。

自分自身の覚悟を確かめたかった、そうベルトルトは言います。今の自分は驚くほど頭が冷えており、かつての仲間と敵対しアニの話を聞かされても、動揺せず任務を遂行できると確信したようです。

「君達は大切な仲間だしちゃんと殺そうと思ってる」
「君達は誰も悪くないし 悪魔なんかじゃないよ」
「でも全員死ななきゃいけない もうダメなんだ」

目先のミクロな生死を超えた大局的な視点から、彼らは確信犯として行動している。
そこはもう分かったから、その理由が知りたいんだよぉーーっ!!という筆者の願いを虚しく一刀の下に斬って捨てるのは例によって脳味噌マッチョのミカサ。我のコミュニケーションに言語など不要とばかりに、楽しくお喋り中のベルトルトを背後から急襲。しかしベルトルトは即座に反応し三度に渡ってミカサと刃を交錯させます。

四撃目で右耳を削がれたベルトルトですが反撃でミカサを吹っ飛ばすことに成功し、その隙を突いてアルミンへダッシュで距離を詰める。ミカサと1on1で優勢を取れる者はそうはいません。さすが目立たないけど104期を総合成績三位で卒業した男、この姿を見たらアニも思わずメスの顔になってしまうこと間違いなし!

ミカサは態勢を崩しながらもブレードを投げてアルミンへの攻撃を阻止し、機を逃したベルトルトはそのまま戦線を離脱。ベルトルトがまるで別人のような顔を見せたことに困惑する二人。ミカサは息が上がり汗だくです。「彼には何か考えがあるように見えた」ミカサが感じる予感の正体とは…?

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超大型巨人

アルミンが時間稼ぎをしている間、鎧の巨人へ止めを刺しに向かったモブキャラの別働隊が目にしたもの。それは地面に仰向けで倒れうなじ部分を隠した鎧の巨人でした。引き続き緩やかに蒸気を噴いていますがボディは消滅せず、先程まで丸見えだったライナー自身は鎧の体躯によりスッポリと隠れてしまっています。これではライナー本体を始末しようにもまず鎧で覆われた頭部をどかさなければならず、切断するにも、エレンを呼んできて動かしてもらうにも時間が必要です。

このタイムロスが命取り。アルミンとの対話を終えたベルトルトは立体機動でライナーの方角へ戻りつつ空へ飛翔。立体機動装置だけで足場もなしに40~50mは上昇しているように見えます。

ベルトルトが超大型に変身する時、爆圧で周囲の半径数百mは消し飛ぶ。ライナーが弱点の生身を晒している以上、その爆風に巻き込むことを避けるためベルトルトは鎧の近くでは変身しない…そうアルミンやハンジは判断していました。しかしベルトルトはすでにライナー巻き添えもやむなしと決断しています。ベルトルトの気弱で決断力のない性格を知っていたが故に、兵団は彼の覚悟の量を見誤ってしまった。

しかも彼のメッセージを聞いてか聞かずしてか、鎧の巨人は仰向けに倒れており超大型の爆風にも耐えることができる。それをベルトルトが上空から視認したかどうかは分かりません。

「まさか!?」ハンジがその行動を察知した時にはすでに手遅れ。辺りはまばゆい閃光に包まれ、そして…。
猛烈な爆風で吹き飛ぶ無数の兵士たち、バラバラになる家々。はるか上空まで立ち上るキノコ雲。巨人化したエレンと言えども建物の陰に隠れ体勢を保持するのがやっとです。

ミカサとアルミンは無事にエレンたち104期組の元へ合流。しかしライナーの近くにいたハンジらは安否不明。もうもうと立ち込める煙の中から悠然と姿を現した超大型巨人がゆっくりとエレンの方へ向き直り…つづく。

 

本作の看板とも言える超大型巨人が誌面に登場するのはエレン誘拐騒ぎの時(45話)以来ですから、実に33回ぶり、1年で12話なので3年近く経っていることになりますね。1巻で登場し読者の度肝を抜いた頃と比べ瞳に明確な意志が宿っているのを感じます。

実は超大型がこの姿で立体機動部隊と正面から戦ったことは未だありません。シガンシナを壊滅させた時は門を蹴破り一方的に侵攻してきただけ、トロスト区襲撃ではエレンが斬りかかるも蒸散して逃げました。ウトガルドでは上半身のみを実体化させて暴れましたが、戦うというよりは爆熱を用いて時間稼ぎに徹していたというのが実態に近いでしょう。

これまでの記録から超大型はパワーこそ桁外れですが動きが緩慢であり、熟達した立体機動の速度に対応できないと考えられています。白兵戦向けにチューンされた鎧や女型と異なり、工作機械のような運用を想定してデザインされた巨人とのイメージが強いですね。

とは言え純粋な闘争となるとやはり巨体は脅威ですし、蒸気による防御もあります。このサイズが立ち上がって倒れてくるだけで人間や並みのサイズの巨人では対抗手段がありませんので一筋縄で行く相手ではないでしょう。

問題はこの巨人と戦ってイェーガー宅の地下室が無事に保たれるかどうかです。超大型なら軽く踏み潰すだけで全てを灰燼に帰すこともできるため、ベルトルトがイェーガー宅の場所を知っているならそれを盾に何かしらの要求を突きつける可能性も考えられるでしょうか。

ベルトルトが口にした要求二つのうち、人類の死滅という条件は伏せておけばよかったのにと思います。これがエレンとアニの引き渡しだったら交渉の目もある。ですが殲滅以外の選択がないと言われた相手とはどんな駆け引きも成り立ちません。その点で彼は幼く、合理的かつ速やかに使命を果たす戦士に徹することができていないと言えるでしょう。

目的完遂のみを至上とし他のことがどうでもいいなら、もっと嘘をついて他者を利用すればいいのです。アルミンがアニの拷問を騙ってベルトルトを苛んだように。なのに…アルミンとは対照的に…ベルトルトはそうしなかった。寝食を共にしたかつての仲間に対し、この局面でなお誠実であろうとしている。そこが彼の甘えであり、人間としての魅力であり、調査兵団にとってはつけいる隙となるはずです。

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別冊少年マガジン(毎月9日発売)で連載中、
「進撃の巨人」のネタバレ感想ブログです。

ネタバレには配慮しませんので、ストーリーを楽しみたい方はご注意下さい。

※フラゲ速報ではありません。本誌発売日の夜に更新することが多いです。

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